購入費用 ???
ここではその存在の是非ではなく使い方を中心に据えて、どんなレンチを選べばいいのかについて考えてみたいと思います。出来るだけ要点を絞るよう頑張ってみましたが、結果的に随分長くなってしまいました。まずこのレビューの意図ですが、特定のモデルやメーカー批評ではなく、これから自転車整備用にトルクレンチを買おうと思っている方に選ぶ上でのガイドラインといいますか、選択の参考になる情報が提示できたら、ということを念頭に置いて書いています。トルクレンジのこと、形式によって大きく異なる使い勝手など、熟慮して選ばなければならない要素が多い工具ですし、継続的に使ってみないと見えてこないことも多いと思います。ですからどんなことを基準にして選べばいいのか、ここで指標が示せれば、と。一方、すでに使いこなされている方にとっては特に新しい情報はないかと思います。
1.トルク管理? まずは知っておくべきこと。
螺旋は、雄ネジと雌ネジの絡み合う二本のらせんが互いに引きつけあうことで垂直方向に引っ張る力を生じさせる原理が働いています。単純にして美しいですねぇ…おっと、本線へ戻ります。ネジに生じるこの引っ張る力を軸力といいますが、ネジを使って繫ぎとめるパーツは、一定以上の軸力をかけられると螺旋が降伏して破損してしまったり、締結対象そのものを破壊してしまったりするので、パーツメーカーはテストを繰り返し、十分な軸力を発揮しなおかつパーツを破損させずに済む範囲、というものを見つけ出します。誤解してはならないのですが、パーツに書かれたmax.○○Nmというのはこの上限を示すもので、シートポストやステムなど正常に使えるならばそれより低くても全く問題ないのです。一方、設計段階である締付トルクが想定されているのでユーザーはそれに従え、という意味合いの場合もあります。こちらはベアリングのプリロードや構造的な強度が絡む場合が多いのですが、多くは○○Nm〜△△Nmといったように範囲で指定されています。この場合は低すぎても高すぎてもNGで、指定の範囲に収めなければなりません。このように一口に○○Nmと言ってもそれが意味するところはかなり違ってきます。まずはメーカーが指定締付トルクを決めた意図というものを確認するところから始めましょう。確認するべき事は数値だけではありません。ボルトにグリスは塗るのか、アンチシーズを塗るのか、締結対象同士が接触する面に摩擦係数を上げる為のコンパウンドを塗るのか etc. これら組立時の条件も含めて、きちんとしたメーカーならばはっきり指定してくれるのですが、残念ながらきちんとしてないメーカーもいっぱいあります…特に指定がなければボルト・ネジにはグリスを塗っておき、クリアーコートされたカーボンにはTacxやSyntace、FSAなどから出ているコンパウンドを塗っておく、と思っておけばいいでしょう。Thomsonなどネジにグリスは塗るな!と指示しているメーカーもあるので、パーツを入手したらまずは取説をしっかり読みましょう。
他にも説明書には書かれていませんが、整備をするならば当然知っておくべき作法のようなものもあります。例えばハンドルバーをクランプしておくステムのボルト。4本締めのフェースプレートを持つもので、ハンドルバー・ステム双方のトルク上限が5Nmだったとしましょう。4本のボルトを仮に左上から時計回りでA・B・C・Dと名付けた場合、どうやって締めますか?
トルクレンチを5Nmに設定してA→B→C→Dの順で5Nmで締めていけばOKでしょと思ったあなた、トルクレンチのことはひとまず忘れて、今すぐ腕のいいショップで愛車を見てもらいましょう(*)
と、以上のようにトルクレンチを使うだけでは正しいネジの管理はできないのであります。トルクレンチは便利な物差しですが、あくまで補助であるということを念頭に置いておきましょう。
*この方法で締めるとボルトの締結力は完全にバラバラ、きちんとトルク管理できないどころかパーツが破損することもあります。複数のボルトを均一に締め込む必要がある場合は、対角に締めていきます。Aからスタートする場合は→C→B→D→Aに戻る→以下繰り返しといった具合に少しずつ均等に締めていきます。同時にトルクレンチのトルク値設定も最初から5Nmに設定はせず、何段階か踏むようにして不均等な締め込みを防ぎます。2.5Nm→3.5Nm→5Nmといった具合です。そして一度規定トルクを検出したボルトをもう一度確認のため締め直すのはNGです。
2.トルクレンチのタイプ
さて前置きが長くなってしまいましたが、トルクレンチを構造によって大別すると、以下の2種類になるでしょう(他に角度を用いるものなどがありますが、ここでは入手が容易で運用も簡単なものに絞ります)。
a.プリセットタイプ
b.ビームタイプ
最近の主流はaのプリセットタイプですね。このタイプは内蔵されたスプリングでトルクを検知します。作業前に希望するトルク値を設定し、その値に達するとクリック感や音で作業者に伝える仕組みです。多くはクラッチやラチェット機構が採用されていて、それらをリリースすることでヘッドを空転させオーバートルク(要するにネジの締めすぎ)を防ぐ機能がついています。
他方bのビームタイプは、軸部のたわみ量を読み取ってトルク値に換算する仕組みを用いています。金属とはいえ力をかければ当然曲がり、力を抜けば元に戻ります。レンチも作用点にかかる力の大きさに応じて軸がしなりますから、この変移量を読み取ってトルクを測るわけです。アナログのものは軸が変形しやすいように長く細い軸を採用しているものがほとんどですが、KTCデジラチェなどは軸の歪みを光学的に検出しデジタル表示するため、通常のラチェットレンチとサイズも見た目もあまり変わらないコンパクトさになっています。
まずはどちらのタイプがいいかよく考えましょう。
それぞれにメリット・デメリットがあります。
★プリセットタイプのメリット
a.プリセットタイプは規定値到達を知覚に働きかけるので、熟練者でなくてもミスが少なく安定した作業が期待できます。
b.豊富な商品数。
☆プリセットタイプのデメリット
a. 内部にスプリングを用いているため使用環境や扱い方によってはあっさりと精度が狂ってしまいます。高温多湿や落下などの強い衝撃、設計時に想定された範囲外の力を加えること(測定可能範囲を超える作業や回転指定方向を無視した使用)などに特に注意が必要。
b. 通常の使用条件下でも徐々に測定精度が悪化していくので定期的なチェック・修正=校正を要する。
c. スプリングの張力を利用してトルクを検出するという構造上、回転方向が指定される=ほとんどは逆ネジNG。
d. 使用後はスプリングに掛かる負荷を最低限に抑える為、最小設定値(めいっぱい緩めきるという意味ではない)まで戻して保管する必要がある。
e. メーカー間の差や個体差はもちろんあるが、基本的にMax.とMin.トルク設定値周辺では精度が落ちる傾向がある。詳しくは購入時に校正書で確認を。
プリセットタイプは内蔵スプリングの伸びでトルクを検出するので、スプリングに対して設計意図と異なる方向へ力を加えることは厳禁とされています。そのため回転方向は指定されています。よく観察すると、プリセットタイプのレンチには回転指定方向を示す矢印が必ず描かれているのですが、その反対方向に回すことはできないのです。しかしご存じの通り、自転車には何カ所か逆ネジも使われていますから、不便になることもあるでしょう。厳密には逆ネジを回せないのではなく逆転方向に負荷をかけるとスプリングを傷めて精度を大きく損なってしまい、最悪高価なレンチをガラクタにしてしまうのですが…プリセットタイプの中には、ヘッド交換可能な構造を採用し、180°反転させることで内部の機構にかかる力の方向はそのままに、逆ネジに対応しているものも存在しますので、どうしてもペダルなどにも使いたい場合はそういったレンチを選ぶといいでしょう。ヘッド交換に対応していないレンチでも自己責任で分解してヘッドを反転させて使える場合がありますが…メーカーは当然推奨していません。
留意することはまだあります。ほとんどのプリセットレンチは保管時にスプリングにかかる負荷を最小限にするため、設定値を測定可能値の最小限度まで落としておく必要があります。さらに、スプリングは使用を重ねる毎に伸び方が一定ではなくなってきて、次第に正しいトルク値を示さなくなる為、定期的にこのズレの大きさを確かめて修正しなければなりません。この作業を校正といいますが、ユーザーに出来る作業ではないのでメーカーや代理店、専門業者に依頼することになります。注意しなければならないのは、すべてのレンチがこの校正に対応しているわけではないという点。校正不可のトルクレンチもあります。それらは精度が失われた後も引き続きただのレンチとして使い続けることができますが、長期的な利用を望むならば校正可能なレンチを、実際に校正を受け付けてもらえる店舗で購入することが望ましいでしょう。工場出荷時にもこの校正は行われていて、目標トルク値と実際の作業で測定されるトルクがどの程度ずれているかを示した成績表が付属しています(校正書。付属しない場合もあります)。高精度なものでは1%程度の誤差を誇るものもありますが、自転車パーツ程度ならばそんな高性能を求める必要などありません。校正書の成績よりもトルクレンジや使いやすさで選びましょう。良くも悪くもばねの状態や精度に大きく依存する工具なので、程度の差こそあれ使用と共に精度が落ちていきます。年に1度くらいは測定値が正しいかチェックして、必要ならば校正を依頼しましょう。面倒ですが、このあたりをうやむやに済ませてしまうくらいならそもそもトルクレンチを使う意味がなくなってしまいます。また、スプリングを引っ張り測定するため、最小測定可能値と最大測定可能値の付近では精度が若干落ちてしまうのも特徴です。詳しくは後述しますが、この特徴はレンジを選定する際にも影響してきます。
★ビームタイプのメリット
a. 単純で信頼性の高い構造。金属軸のたわみを測る構造なので頑丈で長期にわたって使用しても測定精度が狂いにくい。
b. 部品点数が少なく、複雑な機構もないため比較的安価である。ただしデジタル式はこの限りでない。
c. 正逆両回転方向に対応。
☆ビームタイプのデメリット
a. 一部のビームタイプには電子音で設定トルク到達を教えてくれる機能がついているものもありますが、基本的には作業者が到達を読み取って締め込みを止める必要があります。
b. 動作原理上、工具が大型・長大化する傾向があり、馴れないうちはオーバートルクの危険をはらむなど少々扱いが面倒な側面もあります。
プリセットタイプのようにトルク到達と同時に空転するようなフェイルセーフ機能がないので、作業の精度はある程度使用者の熟練度に依存します。アナログタイプだと、かなり大型で嵩張るのも不利な点です。使いやすさではハンデがあるものの、長期保管や繰り返し使用を経ても精度が落ち難く頑丈であるという点は大きなメリットでしょう。言い換えると、工具としての信頼性はプリセットタイプを上回っていると言えます。自転車整備においては、正逆両回転方向に使えるというのも見逃せない点です。
使い勝手の良いプリセットを取るか、工具としての地力で勝るビームタイプをとるか。どちらにしても、購入するならば店頭にトルクチェッカーがおいてある工具専門店で購入することを強くお勧めします。トルクレンチを多く扱っている工具専門店の中にはデモの為のトルクチェッカーが置いてあって、購入品であれば(たいてい無料で)精度をチェックしてもらえるので、校正が必要かどうか、店頭で答えを出せます。店頭での測定精度チェックで状態が良好であることがわかれば、メーカー修理にださなくても済むというのは、無視できないメリットです。大型専門店でなければ校正に出せないというわけではないのですが、トルクチェッカーがない店舗ではレンチを一時預ける必要が生じます。その後はメーカーあるいは代理店に送られることとなりますが、検査の結果校正の必要がないと分かった場合は、無駄骨になります(ひょっとしたら送料も払わなければならないかも)。我々は製造業者ではないですしショップ従業員でもありませんから、実用上問題のない精度があることさえ分かれば、メーカーのお墨付き=校正書そのものは必要ありません。万一不具合が出てきた場合もショップや代理店を通すほうが話がスムーズに進むことが多いと思います。レンチそのものの性能も重要ですが、アフターセールスについてもよく聞いておきましょう。校正専門の業者というのも存在するようですが、もし近くに専門店がない場合は頼ってみるのも良いかもしれません。
3. トルクレンジについて。
さて、どちらのタイプにするか決まったら、次はトルクレンジについて考えましょう。ほとんどのトルクレンチはラチェットレンチ派生のものなのですが、これらにはドライブというものが設定されています。これはソケットを差し込むための□型の差込口のことで、小さいものから順に1/4インチ(6.3sq)、3/8インチ(9.5sq)、1/2インチ(12.7sq)と決められた規格があります(カッコ内はmm表記)。
(左が1/4インチ、右が3/8インチ)
このうち自転車に関係があるものは写真の2つ。すでにヘックスソケットなどを所有している方はそのサイズに合わせてもいいと思いますが、何もない状態から揃える場合、ちょっと乱暴なくくりですが20Nm以下の作業をするもの(1/4インチもしくはビット)とそれ以上の用途(3/8インチ)の2つに分けて揃えていくといいでしょう。
登場頻度が高い締付トルクは…
a. 3〜10Nm
b. 30〜45Nm
自転車パーツで使用するボルトやナットはM6以下がほとんどで、必要とされる締め付けトルクは10Nm以内の場合が圧倒的に多くなっています。ハンドル回りなどのボルトの多くはM5・5Nm以内がほとんどですから、1/4インチドライブのソケットやビットで十分作業可能です。むしろ取り回しを考えると大仰なものは使いにくくなります。サドルクランプやブレーキセンターボルト、ペダル、チェーンリングボルトなどM6以上を用いる箇所でも10Nm以内がほとんどです。これらの作業は片手で楽に扱えるサイズのレンチが向いているでしょう。一方、比較的大きなトルクが必要とされるのはスプロケットのロックリングやクランクフィキシングボルト、BBカップなどの回転部分。これらは大体30~45Nmの範囲です。ロードに限って言えばこの中間はほとんどありません(MTBのサスピボットやフォーク周りなどM8~M10のボルトを使用している箇所には20Nm前後の指定があるかもしれません)。これらはさすがにビットや1/4インチ差込角のレンチでは作業しにくいので、3/8インチ角のレンチが必要になります。BB専用工具なども、3/8インチ角対応が普通です。レンチ自体のサイズについては、30cm位の長さがあるものを使ったほうが圧倒的に楽に作業できるでしょう。レンチのトルクレンジを選定するにあたってもうひとつ重要なことがあります。プリセットタイプの項で述べた特徴を思い出して下さい。そうです、最大測定範囲付近を使うことは望ましくないので、余裕をもって〜15Nmですとか〜50Nmといった選定が必要になってくるのです。
以上を念頭に、1本ですべてまかなうのか、2本に分けるのかを決めましょう。どちらにしてもメリット・デメリットがあります。
★1本で済ます場合のメリット
a. 初期投資が少なくて済む。
b. 校正時の費用や手間が半分。
c. 保管スペースも少なくて済む。
主に経済的なメリットですね。
☆1本で済ます場合のデメリット
a. 作業性が一部犠牲になる。
b. レンチに負荷がかかってしまう場合がある。
すでに書きましたが、トルクレンチは程度の差こそあれ測定可能範囲の上限と下限付近では精度は落ちてしまうのが普通です。さらに、プリセットタイプで設定上限付近での使用を繰り返すとコイルスプリングへの負担が大きくなる為、狂いやすくなる傾向もあります。たとえば5〜40Nmといったワイドレンジのレンチ1本で整備全てをまかなうと、限界の40Nm付近を多用するとレンチに負担がかかるため、良好な状態に保つには精度チェックを出来るだけこまめに行う必要があります。もう一点、レンチというのは梃子の原理を用いている為、小トルクの作業に都合がいいレンチは高トルクではレバレッジ不足となり、逆に高トルクでの作業にちょうどいいレンチは小トルク作業には向かなくなります。自転車整備に当てはめて考えると、最小締付トルクはシートポストカラーなどで5Nm以内、最大締付トルクはBBやクランクフィキシングボルトなどで40Nm程度です。仮に下のレンジに合わせて20cm程度の短いレンチを選択した場合、BB取り付けなどでは必要な締め付けトルクを得るためにレンチに思い切り体重をかける動作が必要になります。これはミスを誘発しやすくなる上、危険も伴います。長いレンチを用いてレバレッジをかけたほうがずっと安全で楽なのです。逆に上のレンジに合わせて40cm近いようなレンチにすると、ステムなどの作業ではかえって邪魔になり、力の加減もしにくくて使いにくく感じてしまうことでしょう。自転車で求められる5-40Nmというのは1本のレンチでまかなうのは意外と難しいのです。気になるレンチがあったら、店頭で実際に5Nmと40Nmの作業をやらせてもらって、作業性を確認するのがいいでしょう。
★2本に分けた場合のメリット
a. 快適な作業性
b. 高い測定精度
c. レンチ性能の長期維持
大型のレンチタイプの他にも、ドライバータイプなどの形状をしたトルクレンチもあります。複数持てるならば、用途に合わせて適したものを使い分けることもできます。例えばハンドルやシートポスト周辺に用いるには、ドライバーやガングリップタイプのレンチが圧倒的に使いやすいです。M5以下のネジ・ボルトではヘックスだけではなくTorxや+、-など様々なタイプが用いられていますが、対応するソケットをいちいち買い揃えるとどんどん高額になっていきますから、ここはビットで済ませたほうが経済的で効率も良い。反対にBBやスプロケットなど高トルクが必要な作業の多くは専用工具が必要になります(e.g. Park Tool BBT-9等)。これらロックリング回しやBBツールは、通常3/8インチ差込角で作られているので、比較的長めで力の入れやすいラチェットタイプが使いやすい。以上のように使い勝手を優先して分けるならば、~15Nm位の小トルク用レンチ(アダプター等を差してビットを用いるか、ビット専用のレンチか)と、30cm位の長さがあり3/8インチ差込角で40Nm近辺が中央値にくるようなレンチ、の2本を使い分けるのが一つの理想型だと思います。こうして分けておくと、それぞれのレンチに過大な負担をかけずに済む為、校正サイクルも長く出来るかもしれないというおまけもつきます。
☆2本に分けた場合のデメリット
a. 2倍以上になる初期投資
b. 単純に考えると2倍になる校正費用(実際はそうでもない)
c. 2倍以上になる保管スペース
こちらは分かりやすいですね。2本買うのですから、何もかも2倍以上に膨れてしまいます。ただ二刀流の方がそれぞれのレンチにかかる負担が少ない為、校正頻度は下げられるんじゃないかと思います。単純に数が倍だから精度維持にかかる費用も倍になるのかというと、実際はそうでもないような。
もちろん、全てのボルトやパーツ組み付けにトルクレンチを使う必要はありません。ハンドルやサドル周りのために小トルク対応のレンチを1本だけ、ですとかBBやスプロケットロックリングだけトルクレンチで作業する、というのもいいでしょう。
★まとめると…☆
まずプリセットタイプにするかビームタイプにするかを決める。それぞれに特徴がありますし、優劣よりも好みが大きく反映しますから店頭で実際に触らせてもらって使いやすいほうを選ぶといいのでは。重視すべきは3-10Nmと30-45Nmのレンジで、中間はあまり考えなくても良い。買う時はトルクチェッカーのある工具専門店で買うと後々好都合です。次に1本にするか、2本にするかを決める。自転車整備のレンジでは(すべてのネジにトルクレンチを使うとしたら)2本立てが理想だと思いますが、1本で済ますことも可能。使い勝手に差が出てくるので、初期投資・維持にかかる費用も含めて、無理なく管理できて自分が納得できる環境を作りましょう! それぞれにメリット・デメリットがあり、とにかく安いレンチを買えばお得というわけでもないし、高性能なレンチが必ずしもオールマイティーというわけでもない。
お・ま・け
レンチの値段は、メーカーがどの程度精度保証のためにコストを割いているかにも左右されます。自転車店で売られているパーツメーカーOEMのトルクレンチは、この点がちょっと不安です。校正や修理などのフォローをしてもらえるのか事前に確認して、適当な返事しか返ってこないようならばサポート体制はないと思ったほうがいいでしょう。ちなみにホームセンターにも激安レンチが置いてありますが、残念ながらほとんどは自動車のホイールナット用で100Nmなどで、自転車に使えるものはほとんど見られません。精度自体はそれほど酷いものではないらしいのですが。
上の写真に写っているのはStahlwilleの730N/5とGWE3-085(生産終了)ですが、730N/5のレンジが10-50Nmであるのに対して、GWE3-085は17-85Nm。レンジはデジラチェの方が上なのですが、ご覧の通りかなり短くなっています。在りし日にあまり深く考えずレンジとスペックだけ見てデジラチェ買って、使いにくく感じられたので結局Stahlwilleに乗り換えた、という間抜けで無駄な出費例です。誤解しないで頂きたいのですがこれはレンチ性能の優劣の問題ではなく、用途と自分の嗜好を購入前にうまくすりあわすことが出来なかった私のミスによるものです。メーカー毎に考え方は様々ですので、カタログにかかれた性能の優劣だけではなく実際に手にとって使い心地を確かめることも大事でしょう。またレビュー中では主に使い勝手の観点から2本体制をお勧めしましたが、レンチに負担をかけすぎないという観点からも最大測定値付近での使用を避けてレンチを使い分けることが出来る2本体制は有利なのではないかと思います。私はここ1年半ほどPBデジタルトルクハンドル(〜5Nm)とマルチトルク(〜16Nm)で15Nm以内の作業を行い、30Nm以上を要するような作業には別のレンチを使ってきましたが、先日まとめてトルクチェッカーで測定をしてもらったところ、いずれも誤差は10%程度で校正は不要でした。1本体制だとこうはいかなかったんじゃないかと思います。
価格評価→??? (数千円〜数万円までいろいろ。維持にもお金がかかります)
評 価→??? (カタログスペックだけじゃ決められない。自分にとって使いやすいものこそが最高のレンチ)