叶わぬ夢と知った時 ~走る修行僧が俺に教えてくれたこと~momochi_gyugund 2013-11-2 15:39 3294 hits momochi_gyugundさんのすべての写真 フォトギャラリーTOP 馬鹿野郎! 「あのレースは競技レベルが低い」だの「ガチでレースしてるのは上位20人くらい」 などと傲慢な物言いをしている奴がいるな! 上位の連中はもちろんだが、タイム、順位にかかわりなく、どこでも誰にでもドラマがあるし、熱い戦いがあるんだよ!こんなことを言っても、タイムや順位だけを過剰に礼賛する風潮に風穴をあけることは難しいだろうから、どうやらここは俺の体験談を話さなければならないだろうな・・・ あれは俺が「英彦山サイクルタイムトライアル」に出場したときのことだ。 ベスト10入りを目指してトレーニングを積んできた俺だったが、ラスト3キロの勾配がきつくなる区間をきっかけに先頭集団から脱落してしまい、俺は戦意を喪失しつつあった。ペースも落ちてきた俺に、少し遅れてスタートした元チームメイトのひでおさんが追いついてきたときのことだった。 ひでおさん「つよしくん!どうしたんだ!?具合でも悪いのか!?」 俺「ひでおさん・・・俺はもうダメです・・・ 集団にもチギられてしまったし、目標だった10位入賞の目もなくなってしまった・・・!」 その瞬間である。俺の不調を心配していたひでおさんの優しいまなざしが、わが子を崖下に突き落とす百獣の王のごとく厳しい眼光一閃、俺に怒涛のマグナムパンチを繰り出した。 バカヤロォーーーッ!! 轟音とともに空高く吹っ飛んだ俺は「あと300m」「ガンバレ」と書かれた路上にしたたかに打ちつけられた。 ひでおさん「馬鹿野郎!君はそんなことで走る意味を見失ってしまう男だったのか!これを見ろ!!」 そう言ってひでおさんが俺に差し出したシールには、一見無意味な数字の羅列があった。 俺「こ、これは・・・?」 ひでおさん「君の去年のラップタイムだ。」 確かに、「戸立」「上田山荘」など、見覚えのある地名が書かれている。 それを見て初めて気付いたのだが、俺は集団から脱落して失望していたが、タイムそのものは現時点では去年を上回っていたのだ。 ベスト10入りは叶わなくとも、まだ自己ベスト更新は、ある・・・? 俺は朦朧とする意識の中、成人式の日に聞いたおじいちゃんの言葉を思い出していた。 おじいちゃん「つよし、『今日という日は残りの人生の中で最も若い一日』じゃよ」 そうなのだ。 確かに順位はヒルクライムレースの大切な目標の一つだ。 しかし、俺たちはもういい大人だ。 自転車に割ける時間も、エネルギーも、そして才能にも限りがある。 他人と競うのもいいが、俺はあまりにもそれにだけ心を奪われてしまうあまり、それが叶わぬと悟った瞬間に走る意味を見失ってしまったのだ。 昨日より今日。今日より明日。 それでいいじゃないか。 結果、他人に負けたとしても、自分に負けなければそれで充分価値のあることじゃないか。 それは単純に順位やタイムでははかれない何かなのだ。 ひでおさんはそのことを俺に伝えたかったのである。 |