材料価格 ¥失念
7年ほど前に、ケルビムで製作したサイズ&角度フルオーダーの20インチ小径車用フレーム(CHERUBIM CR)を使って20インチ小径車を組み立てました。ご紹介するのは、このとき市販品を改造して自作したマドガードです。
パーツは自分でかき集め、フレームに組んでいったのですが、少し難儀したのが、クラシックな形状のアラヤ20Aの20インチ(451mm)28Hリムの入手と、28H6本組用#15スポークの入手、そして本気で難関だったのがこのマドガードです。そもそも、各部寸法をフルオーダーして製作してもらったフレームに合うような位置に固定小物がつけられている既製のマドガードなど、あるはずもなかったからです。
というわけで、まず、市販のマドガードを物色します・・・。いいものがありました。Panasonicのロード風味20インチ小径車で、当時「レ・マイヨW」という自転車があったのですが、そのオプションとして設定されていたマドガードです。部品番号はNDD3920S。しかし細めのタイヤに対して、このマドガードは幅が42mmとやや広めの印象です。

そこで、雰囲気を自分のイメージに近づけるために幅を12mm狭くして30mmとしました。ここで金切りバサミが登場します。金切りバサミで金属板を切るなどという作業は、中学生時代に技術科で亜鉛板のちりとりを製作して以来です。無知な私は最初、画像下段の普通の金切りバサミを購入しました。平らな板をまっすぐ切るやつです。こいつでマドガードの隅っこを使って少しだけ試し切りをしてみたのですが、ほんの1センチもいかないうちに、3次元曲面を切るのは全く不可能であることを悟りました。直線の刃ではマドガードという3次元曲面に大きなストレスを与えてしまい、まともに切り進むことができません。本当に全然ダメ!

そこで、買ってきたのが画像上段の、歯面が反っている曲線金切りバサミです。下段の製品より安物ですが、歯面が湾曲している効果は絶大でした。
切る前にマドガードの左右から6mmだけ内側に、正確な線をけがいておきますが、これはマドガードの外面ではなく内面にけがきました。そして、金切りバサミの歯の交点における歯先の湾曲線への接線が、けがき線と一致することを明確に意識しながら(多分、ここが最も重要!)、手元を微調整しつつ、ゆ~っくりと切り進めていきます・・・。自分でも驚くほどきれいに切れて、このときはちょっと感動しました。ダテに刃先が曲がっているんじゃないんですねぇ。曲線金切りバサミってホント、スゲー!
しかし、きれいに切れたのも束の間、ある事態が勃発していることに気づきました。幅を狭くしたのは良いのですが、そのおかげでマドガードが浅くなってしまい、試しに、タイヤと同心円状にマドガードを配置してみると、タイヤとマドガードの間のクリアランスが思ったよりも大きくなってしまいました。こ、これはカッコ悪い。うーむ。。。長考の後、マドガードを圧延することで、キュッとタイヤに近づけよう、という作戦を思いつきました。それがこの画像です。マドガードの厚みよりもわずかに薄い雑誌を二冊、左右に置いて、インスタントコーヒーのビンを転がして力を加えると、マドガードが幅方向に延ばされ、その反動でマドガードの大円が、少しずつ小さくなるのです。ふぅ~、やれやれ。金切りバサミに続く難関を何とか突破。ここまでくれば終わったようなもの。

次はブレーキ軸部に共締めする小物の移設作業です。もともとレ・マイヨW専用のマドガードですから、小物の位置が所望の場所には付いていません。そこで、小物を固定していたリベットを細いドリルで撃破し、無事、小物を救出します。小物救出作業は、金切りバサミで幅を詰める前に最初にやっておきます。リベットが通っていた穴は、パテを充填してふさぎます。新しい場所に小物を固定する小穴を2個、ドリルで開けます。そしてM4ボルトで小物を固定します。裏側は近所で売っていた板ナットで受けています。

で、この小さいM4ボルトは、多くの方がお世話になっているボルトですが、さて何でしょう?正解は、シマノのブレーキシューを固定するボルトです。貧乏性なので中古品をいくつか保管してあったのですが、まさかこの場面で使うことになるとは!
次に、クリア塗装を剥がします。これはサンドペーパーでごしごしやります。金切りバサミで切った切り口も丸くします。仕上げは細かいヤツできれいにします。1200番程度を使ったかな?これで塗装の食いつきもバッチリでしょう。
ここまでくれば出来たも同然。あとは風のない場所で派手に新聞紙を広げて、その上に置いてスプレー塗装するだけです。立てた状態で塗装するのですが、洗濯バサミを2個使って、こいつを脚にして立てました。タレないように数回に分けて気長に塗装します。出来上がった塗装面は結構タフで、これまで7年近く乗っていますが、途中、オーバーホールの時に再塗装しただけです。する必要もなかったのですが。2年後にはフレームを青系に再塗装する予定ですが、そのときはマドガードも青系にします。

ところでマドガード。フレームとともにケルビムに依頼しようとしたのですが、簡単に断られました。当然、それ相応の対価を支払うつもりでいたのですが。
当時の店主さん曰く、「平らなアルミ板を細長く切って円弧にして取り付けても結構いけますよ」と。
26インチや700Cと違って、気の利いた市販品がなかったことも背景にあったのでしょうが、まるで対応する気のない店主の発言にはちょっといただけないものを感じました。実は、「平らなアルミ板を細長く切って円弧にし」ただけのマドガードの性能たるや、ちょっと悲しいものです。マドガードはホイール径に沿った円弧だけではだめで、タイヤ径(25mmなどの径のこと)を覆うような小さな円弧もしくは、辺縁の折り返しがないと、跳ね上げた水しぶきが左右に飛散して、あまりよろしくない結果になるのです。
そして、この小径車フレーム。発注してから9か月後に納品されましたが、出来上がった自転車は、結果的にはハンドリング特性を含めて120%満足の走行フィールを得ることができました。各部寸法から角度までジオメトリ完全指定の末だったので、どうなっても自己責任。ホント嬉しかったですね。コイツを手に入れて以来、サイクリングにロードバイクを使う機会が一気に減りました。
ところで20歳で自転車製作の道に入り18年目となる、ケルビム二代目店主の今野真一氏は、先代の一挙手一投足をすべて知り、それを乗り越えようとして努力をされているように見受けられます。期待してよい人物だと思っています。
牧野政彦氏が率いるMAKINOの広告にある一文、
「全力で製作中。オリンピックメダリストも一見のお客様も、すべて同じスタッフ、同じ工程で製作しております。」
これぞまさしく、客への真のおもてなしの具現化。客商売というのは、こうでなくちゃ。この牧野氏の心意気を、今野真一氏も持っている!・・・と今後のケルビムに大いに期待している次第です。(大脱線!!)
価格評価→★★★★★(マドガード、自転車共)
評 価→★★★★★(マドガード、自転車共)