費用:およそ¥30000(食費、交通費、入湯料込み)
※ご注意※
峠の頂上には着いたものの限りなくリタイアに近いヒルクライム体験談。
無知な初心者が山に挑んだ失敗談と思っていただければ幸いです。
それと長文です。苦手な方は引き返したほうが無難です。
「空気が澄んでいて気持ちがいい。雲も心なしか早く流れて見える。景色も映えてサイコーだ。
だけど、何でだろう。
ロードとともにぼくは寝そべったまま。からだが言うことを聞かないんだ。」
――高峰高原まであと4kmほど。道路脇にて。
昨年から始めたロードバイクもそろそろ1年の節目を迎えようとしていた9月下旬。
走行距離も順調に伸び、この夏は平地を300kmを走破するまでに至った。
ただここまで「ヒルクライム」自転車での純粋な山登りをしたことがなかった。
ヒルクライムをするのにいい場所はないものだろうか・・・とCBNを眺めて思い悩んでいた時に
ふと、目に留まったのが車坂峠(チェリーパークライン)である。
「日本のラルプ・デュエズ」
レビューを読んで何度も出てきた表現だ。そして、写真から拡がるのどかな木々の景色。
正直、ラルプ・デュエズがどんな場所か分からなかった。(後でMuneaki氏の当該レビューを拝見しました)
ただ、写真を見て現地で生の景色を眺めたい。あんな綺麗な山道を走ってみたい。
そんな焦燥感が胸を締め付けてやまなかった。
ありのままを体全体で感じたい。
初めてだから辛い気持ちで満たされるかもしれないけど、車坂峠へ登る決断に時間はかからなかった。
行き先が決まったらあとは行動あるのみだ。初めてのヒルクライムに向けて。
朝6時に愛知を出発。トランクに愛車RFX8を乗せ無計画にも似た旅行へ出発。
行く先は長野県小諸市。レビュー通りJR小諸駅~高峰高原ロイヤルホテルのルートで行くことにした。
小諸は「坂」の街として知られており、TVアニメ「あの夏で待ってる」の舞台にもなっている。
アニメから小諸の街のイメージを知るのもいいかもしれない。
たかが、山登りのために約300kmも離れた場所へ行くのは馬鹿じゃないのかと言われてもしょうがないと思う。
だけど、仕方がない。初めてのヒルクライムは絶対ここに行きたいという確固たる想いがあったからだ。
その想いを無下にしたら、自転車に乗る意義も見失いかねないように感じる。
ETC、ましてやカーナビすらない車内で、スマートフォンのナビを片手に高速を駆け抜ける。
恵那峡SAで朝食。高峰高原ロイヤルホテルで優雅な昼食を考えていたその時の私は、そこからノンストップで目的地に向かった。
地方のラジオも聴きたいな。と思って選局したFM長野。都会のラジオ局とは違いAM放送も同居したような緩やか雰囲気が印象的だった。
JR小諸駅に着いたのは午前11時近く。青空の中でこじんまりとした佇まいを見せるこの場所がスタート地点だ。
(気持ちのいい快晴でした。絶好の日和。)
GlennGould氏のレビューを確認して小諸駅前駐車場へ。そして車内での生着替えもして準備は万端。
今回の目標を「どんなに時間がかかってもいいから峠の頂まで行く」ことにした。
ここでもまだ、ホテルのロビーで優雅な昼食をと考えていたが、後にそれは大甘の浅はかな考えだったと実感することになる。
まず、待ち受けたのが駅前の相生町商店街。商店街にもかかわらず急な坂道のオンパレード。
登坂初心者でウォームアップをしてない体には、鞭どころでなく茨をかいくぐるような苦しい所業であった。
ペース配分もつかめないままオーバーロードし、体力を半分近く持っていかれた感覚に陥る。
心拍を整えるため、国道19号でゆっくり足を回すことにした。
そういえば、山へ向かう道はどのあたりだろうと路肩で途中休憩しルートラボで確認。
どうやら、郵便局のすぐ近くで曲がればよかったらしい。そうとは気づかず2km近く走っていた。
改めて引き返そうとしたとき、盛大に立ちごけてしまった。
思えば、ビンディング走行は3か月ぶり。履きなれてないが故に間隔があいてビンディングを使うと毎回立ちごけをしてしまう。
幸いなことに自転車に大きなダメージはなかった。こっちは卸してすぐのビブがすこし破れてしまった。悲しい。
でもまぁ、企画倒れに終わらなかっただけマシだなとそう強く思った。
警察署前交差点で、山道に入ることにした。
今度は「ゆっくりゆっくり」と口に呟き、登坂を開始。
言葉に出すと不思議と力が湧いてくるのが心強い。
ただ、ギアはもうすでに最軽。動かないレバーが今の心境を表してるようだった。
小諸高校の隣を通過。ブラスバンド部が金賞を受賞したようで聞いてみてぇなと弾んだ息遣いと頭で感じる。
そうこうしているうちに、周辺図の看板を発見。チェリーパークラインの脇道を走っていたことに今更気づいた。
高峰聖地公園、クマ出没注意の林道を抜け、今度こそチェリーパークラインへ。
「入りだけでもいいから、緩やかな道だといいんだけど」
しかし、曲がった先もやはり激坂。苦笑交じりに再びアタックを開始した。
サイコンのメーターは、すでに6~7km/hと1桁台のスピードを指し示している。さすが先人たちも唸る坂道。
先程と同じく、道中はスピードを抑えることを心掛けて進行。
眼前に見える木々が美しい。時々見える石碑。冷涼な秋の訪れを感じさせる澄んだ空気。
鳥の囀りもよく聞こえるほど静かな一瞬。山道を駆け上がる自動車・オートバイの音。
なんだろう。普段と違い意識が洗練されていく気がしていく。
(道中の景色と石碑。行程の最中はこういった石碑が転々とあります。詠むのも一興かも。)
遅いながらも着実に登っていた行路だったが、本道に入って3kmほど過ぎたあたりで異変が起こる。
「あれ・・?足が回らない・・・。」
いよいよ疲れが襲ってきた。何としても足を付かずにこのまま行きたい。
心拍も徐々に早くなっていく感じがする。ゆっくりを心掛けなきゃ。
思いとは裏腹に身体は正直に反応するのであった。
しばらく進むと漕ぐ力がだんだん弱くなっていき、ついに足を付いてしまう。
「足を付いてしまったか・・・」と少し残念に思った。疲れを和らげるためしばしの休憩をとることに。
一旦落ち着いて今回の行程を振り返ると、様々な過ちを犯したことに気付いた。
その1。
ホテルでの優雅な昼食を考えすぎて、ほぼ無補給状態でのスタートをしたこと。
もちろん補給食なんて持参してないという自殺にも近い状況だった。
人間とある物事に夢中すると他のことを忘れてしまうテンプレ過ぎる失敗だった。
その2。
手持ちの水分の補給を全く考えてなかったこと。
山道に自動販売機なんてある訳がない。始める前から分かっていたことじゃないか。
しばらく登っても自販機の気配は皆無だった。じきにボトルが空になってしまうことだろう。
ツール缶じゃなくてダブルボトルで挑めば苦労しなかったはず。
案の定、残り3kmを迎える前にボトルは空になった。嫌な予想は悉く当たってしまう訳だ。
時刻は午後1時半ごろ。高峰高原まであと6kmという看板をたった今過ぎたばかりだった。
そこからは冒頭の回想のように、自転車に乗って押し歩いて脇で休むの繰り返し。自転車に乗れない状態まで来てしまった。
何度も道路脇へ倒れこみ時には深呼吸して目を閉じる。行き倒れに似た状態でよく通報されなかったものだと今になって思う。本当に危ない。
そして、休息が済んだら進む。
とにかく頂へ。
時間がかかってもどんな形であってもいいからと自分に強く言い聞かせ自転車を押し歩く。
頭に浮かんだ言葉は
「押(つ)いてったってイイじゃないか!」
ここ車坂峠で、行われたヒルクライム大会の一文だ。誰かから赦された気がして内心ほっとしたのだ。
残り2kmを過ぎたあたりで、全身に力がはいらなくなった。
歩くことすらままならない。今回一番疲れのピークを迎えたところだったかもしれない。
強くなるSOS。「食物をくれ」「水が飲みたい」からだの中からそう叫んでくる。
いっそのことDNFして楽になろうと思ったが、ここで逃げることは何のために来たのか分からないし腹が立つ。
その感情のほうが強かった。ここまで来ると意地の張り合いで無茶苦茶だ。
ただ、頂にあるホテルの外観と景色を見たとき苛立った感情が彼方へ消え去ったのは覚えている。
(なかなかさまになってる愛車との写真。)
頂に到着したのは午後4時。11時半に登り始めてから4時間半後であった。
高峰高原ロイヤルホテル。今回の目的地。
すぐさま自動販売機に駆け込んだ。炭酸飲料を2缶口にした。
体に沁み渡る心地よさ。生きててよかったとも思えるほど疲弊していた。
とりあえず食事。売店のお菓子を貪る。さながらその姿は野獣のごとし。当然ではあるが優雅な昼食は食べれなかった。
ゆっくり落ち着いた後に温泉に入浴。ホテルの温泉は宿泊者以外も利用可だったので、大変有難かった。
(ホテルからの景色は格別ものでした。)
1時間ぐらいゆっくりした後、山頂あたりが霧に覆われたので下山することにした。
ウインドブレーカーを着込み、山を下る。
苦労した登りに比べて、下りはあっという間に終わった。
登りの6~7km/hのスピードに比べ、50km/hとか普段ほとんど目にしない表示が出る。
2倍どころか2乗しても負けてるじゃないか。
(山頂の霧。下山の夕暮れ。霧は珍しい光景・・・なのかも。)
再び小諸駅前に着いた時には、すっかり日が暮れていた。
駅前で暖かなうどんを啜り、車内でゆっくりした後帰路へ向かう。
休憩しながらだったので、帰宅は明けて午前5時ごろになってしまった。
(しなの鉄道沿線。ワンマン列車と夜景が哀愁を誘います。)
弾丸ツアーならぬ弾丸ヒルクライムの旅はここで終わりを迎えた。
まとめ。
いろいろと準備不足だった感は否めませんでしたが、初めての山は楽しいと辛いが半々でした。
ただ、辛いといってもその場限りのことだったので、引きずることなく清々しい気持ちで終わりました。
今回の痛すぎる経験を踏まえて、次登る機会があったら足を付かずに登ってみたい。
もう頂には行ったので、今度は疲れたら即DNFも視野に入れて挑みたいと思います。
私の失敗談が後々山に挑まれる方々のご参考になれば幸いです。
評 価→★★★★★(辛かった!楽しかった!)