a phantom coffeetelomere 2013-2-5 21:21 3330 hits telomereさんのすべての写真 フォトギャラリーTOP 古いオートバイ乗りなら聞いたことがあるかもしれない、600マイルブレンド。 一杯のコーヒーを飲む、ただそれだけのために東京から神戸までオートバイを走らせる。小説などではない、実体験に基づく有名な逸話だ。 オートバイを駆るのも好きだが、自転車が性にあっている今の自分としては、走り切った先にある一杯のコーヒーは、また格別な味だろうと期待する。自分の力のみで峠を駆け上がり、達成感と共に立ち昇るコーヒーの香りを味わう行為はどこか美しく、それでいて汗にまみれた美学と言えないこともない。ただの自己満足だといってしまえばそのとおりなのだが。 このエピソードで少し不満なのは、そこに辿り着けばありつける「なにか」は少し魅力が減ってしまうような気がするのだ。 行ってみるまで「それ」がそこにあるかどうかはわからない。しかし、もし見つけることができたら、それは小さな幸せを噛みしめるには充分なイベントではないだろうか。 幻のコーヒーショップ、というものがあったらお目にかかりたい。 誰かがツイッタのTLでそう呟いた。別の誰かがそれに呼応する。峠のてっぺんで出してくれたらいいね、と。どの山の、どの峠にいるかは、その日になってみないとわからない。ロードバイクですら息を切らすほどの峠に、そのマスターは水を満載したタンクのトレーラーを引いたバイクで現れる。 確かなことは定かでないが、確かなのは週末になるといずこかの峠に夜明けと共に現れ、日没と共に閉店してしまうことだ。 物理的な峠だけはない。別の日には強風の日に姿を見せる荒川峠にもそのコーヒーショップは現れる。まさに二重の意味で幻の峠コーヒーだ。 「水持参のライダーには○○円値引き」とかかれた小さな看板の下、マスターはよく厳選された自家焙煎のコーヒー豆をフランネルのフィルターでじっくりと淹れる。もちろん蒸らしも忘れない。灰汁がコーヒーの味を濁らせないよう、真剣な手つきで淹れていく。 そんなコーヒーが飲めたらいいなと強く熱望する。 そして、自宅で熱いシャワーを浴びたあとは、満足感と共にアイリッシュウイスキーを呷りながらその日の小さな冒険と幸運を思い出すのだ。 |