自転車乗りとして華麗にナンパをお断りする方法himeontheroad 2019-5-27 3:30 6173 hits himeontheroadさんのすべての写真 フォトギャラリーTOP ここはグランツール開催国。同時に愛と情熱の国でもある。 牙の手入れに余念がない伊達男が美女を見かけるや挨拶代わりにコーヒーに誘うのは、 日本でも広く知れ渡っているように日常茶飯事である(※1)。 昼下がりのカフェにやってきた女性サイクリスト。 「エスプレッソをドッピオで」 と、そこに近寄る男が一人。 日に焼けた肌、深くボタンを開けたシャツから覗く胸筋、爽やかな笑顔。どこから見ても色男だ。 「やあ、きれいなお嬢さん。一人かい?」 「ええ」 さすがの色男、”※ただしイケメンに限る”を無事クリアしたのだろう。満更でもなさそうな女。しかし、 「スポーティブな女性は素敵だね! 僕もサッカーをやってるんだ」 「あら、そうなの」 サッカー! その一言で、女の目が一瞬スッと不機嫌に細まった。 サッカー。若者の人気を掻っ攫い、スポーツ紙の表紙を独占し、テレビ中継もスポーツバーもいつもこれ。 春のクラシックもグランツールも、公共放送ではほんのちょっとしか触れられない。 国が誇る伝統スポーツなのに、なんでわざわざ有料放送で見なきゃいけないんだ! スポーツ本体に罪はない。それでも、サッカーは敵だ! 自転車に乗って出直してこい!(※2) そんな女の内心を知る由もなく、男は言葉を続ける。 「付き合ってる人はいるの? 今夜暇ならどう?」 「彼氏はいないけど、彼女ならいるわ」 男の顔が引きつった。 「え、まさか」 「私の自転車よ」(※3) 安堵で緩む男の顔。 「人間の男に興味はないかい?」 「自転車より頼りになる人なんて見たことないわ」 「どうしてだい?」 女の目がキラリと輝いた。 「だって、人間と違って自転車は裏切らないもの。自転車を裏切るのはむしろ私。 トレーニング不足もメンテナンス不足も、全部自分の責任。 努力した分だけ応えてくれる、だから自転車が最高のパートナーよ」 女の満足そうなドヤ顔を見、男は苦笑した。 「ハハハ、こりゃ一本とられた。そのコーヒー、ごちそうするよ」 「まあ、ありがとう」 女は空になったコーヒーカップをバリスタにお返しすると、颯爽と立ち去っていった。 (二次元嫁みたいなことを言っちゃったな…) などと考えながら。 ※1 伝聞ではそうなのだが著者自身にその経験がないのは何故なのか。 ※2 著者周辺でサッカーに興味がない・サッカーが嫌いという自転車乗りは結構いる。サッカー関連の仕事をしているがサッカーに微塵も興味がない自転車乗りもいる。著者も、地元でUCIレースが開催中なのに新聞のスポーツ欄がいつもサッカーから始まるのを見て、苦々しい思いをしているのは事実である。 ※3 自転車は、伊語 la bicicletta 仏語 la bicyclette 西語 la bicicleta で、グランツール開催国ではどこでも女性名詞である。指示代名詞は英語で言うところの she や her を使用する。ちなみに大体ここで引かれる。 |