購入価格 ¥1890
大槻正哉 著 B5判ムック144頁
大学などのサイクリング同好会での主要車種がロードバイクではなく旅行車だったのは1985年前後までだったかと思います。私が行っていた大学の自転車同好会の新入生は、今では古パーツの密林として有名になってしまった東京駒沢のハセガワさんで、ランドナーを作るのが習わしだったようです。(私は貧乏でサークルどころではなかったので、同好会には入っていませんでした)
その頃には遠く及びませんが、いわゆるランドナーとか、ツーリングとか、キャンピング、そしてスポルティーフといったジャンルの自転車の人気がこのところ、多少、盛り返しているような気がします。峠を越える自転車の中に、この手の車種を見かける機会も、少し増えてきたようです。また、この本が原因かどうか知りませんが、オーダー旅行自転車であまりにも有名な東叡社の納期は10数か月、などという噂も耳にします。
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さて、この本は、旅行車作りに必要なノウハウや部品情報を、写真とわかりやすい文章で、惜しげもなく開陳する、というものです。吉祥寺の旅自転車専門店velocraftの店長である大槻正哉氏自身の経験と美意識に基づいた、カッコいい旅行自転車作りのエッセンスが詰まった本に仕上がっています。
前書きには、
「(前略)どんなツーリング(旅)がしたいのか、どんな所を走りたいのか、そんなことが決まっていればオーダーメイドは可能だ(後略)」
とあります。
へぇ~、と思いつつページをめくると、走り方に合わせたいくつかの旅行車が提示されます。
~ 自分は、どういう走りを望んでいるのだろうか?
~ 自分には、どんな自転車が適しているのだろうか?
という思考を促してくれるような仕掛けになっています。
パーツに関するページは充実の一言。(ただし、パーツがたくさん紹介されている、という意味ではありません)
特に、マドガードに関するノウハウの開陳は、素晴らしい。タイヤとのクリアランスの考え方から、マドガード先端部のカットのやり方、取り付け用の革パッキンの自作、圧縮される革パッキンの厚さを考慮したマドガードクリアランスの設定まで、網羅的。これらはまさに、ノウハウと呼ばれるものばかり。
フレームジオメトリに関しては、「車種の性格、ステムの長さと相談して決めよう」という程度のことしか書かれていません。これは、「旅行自転車の販売員と相談して、その中で決めていきましょう」というメッセージを著者が持っているからであろう、と思われます。逆に言えば、客相手のコンサルティングの場で、順序を踏んで客の適正サイズを導き出すことができないような販売員はダメである、という考えを持っているのでしょう。これは、オーダーを主に扱う自転車店が満たすべき基本要件ではありますが、著者のような優秀な販売員が相手をしてくれれば、客としては本当に安心でしょう。
余談ですが、ルネ・エルスやアレックス・サンジェといった、日本の旅行車に多大な影響を与えた往年のフランス著名工房の旅行車にほとんど触れていません。それにもかかわらず(、いや、そのせいで)、わかりやすく、一貫性のある良書に仕上がっているような気がします。
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これから旅行車を作ってみたい、という人にとっては、非常に役に立つ、とても助かる必携の書籍であり、読んでいるだけで夢が拡がる、そんな本です。また、この本を通じて旅行車を理解し、ARAYAやFUKAYAの量産ランドナーを購入して楽しんでいる方々、また、実際にオーダーで製作してみた方々にとって、そして、自転車の購入には至らなくても、こんな本を貪るように読んで丸暗記してしまうような少年少女にとって、この本は大事な宝物となるでしょう。
価格評価→★★★★★
評 価→★★★★★
年 式→2011年1月