購入価格 ¥45885 (度入りレンズ込み)
あれは俺が新聞を読んでいた時のことだ。
馬鹿野郎!
福岡市にランドマークがないだと?
これ以上不要なハコモノを作って、さらなる赤字を生み出してどうするつもりだ!
観光スポットなら福岡タワー、ヤフードーム、歴史遺産なら元寇防塁跡、平和台遺跡で何の不満があるというんだ!
原子力問題、電力問題、自転車レーンの違法駐車。
金があるなら先にやらなければならないことはいくらでもある。
物事の優先順位を見失った奴らばかりのこんな世の中じゃ、ここは俺の思い出を語らなければならないな・・・
あれは俺があるロードレースに出走した時のことだ。
裸眼では視力0.1を切る近視の俺は、ロードに乗るときは必ず度付きインナーフレーム付きのサングラスをかけていたが、
当時所持していたふたつのサングラスには
「性能は良いのだが、地下鉄であらぬ疑いをかけられる」
「見た目はいいのだが歪みが大きく、重くてズレる」などそれぞれの不満があった。
そして何より―――インナーフレーム付きは視界が狭いのである。
いつも正面を向いていればよい状況であれば何の不都合もないのだが、
ことレースのように刻一刻と変化する状況、斜め後方からのライバルのアタックに瞬時の反応をするためには
視界の狭さは命取りになる。
そこで購入したのがこれ。OAKLEY FLAK JACKETだ。
見た目のよさは言わずもがな。
機能的にはXLJの方を薦められたが、見た目の好みで非XLJのスタンダードレンズを選んだ。
XLJとの違いは、頬の下でレンズがくぼんでいるか否か。
「ニッ」と頬を持ち上げて笑うと確かに少しレンズが当たるが、
走りながらそこまでのフルスマイルをすることはないので気にならない。
度付きインナーフレームではなくレンズそのものに度が入っているため、歪み、視界の狭さ、重量、すべての問題をクリアしている。
45885円と、思い切った買い物であった。
そしてレース当日。
実は今日のレースは父上が応援に来ている。
父上は去年大病を患って入院していたが、このたび退院し
「お前がたいそう入れ込んでいるというロードレースとやらを一度見ておくかな」
ということになったのだ。
このレースは1レース20人ほどが出走し、上位6名が2戦目に勝ち進むことができる。
1レース目、俺は同チームのなおきと同じ組に割り振られた。
チームメイトということで、序盤から引きつ引かれつの協力態勢で有利にレースを進める。
最終周回に入ろうかというところで、俺の前を苦しそうに走っていた奴が飛び出した。
これは典型的な「Go for broken(やぶれかぶれのアタック)」だ。
どうする、追うか―――?
ここで必死で追って、1位を取れればまだいい。
判断を誤って失速し、6位から滑り落ちでもしたら、それこそ目も当てられん・・・
ここは手堅く、このメイン集団のトップを維持して―――
デヤァァァァーーーー!!
地響きのような怒号をとどろかせて、なおきのアタックが炸裂する。
馬鹿野郎―――暴走だ!!
なおきはロードレースの経験がない。
目の前のアタックに無条件に反応してしまったんだ。
俺が止める声など聞こえるはずもなく、そのままなおきは2人の選手とともにコーナーの向こうに消えていった。
ホームストレートの応援席に、父上の姿が見える。
父上、心配しないでください。
私は手堅くこのメイン集団をキープするつもりです。
無理をして追わずとも、6位以内に入れば、2戦目には進めるんです。
勝手に失速して、脱落する可能性すらあ―――
すると、父上は思わぬ言葉を俺に返した。静かだが有無を言わせぬ語調であった。
無駄に生きるな―――
父上は確かにそう言った。
無駄?俺の走りのことか―――!?
「父上にロードレースの何がわかるんですか!?」
「確かに、私にはロードレースの作戦などわからんよ。
ただ、お前の目が光を失っていたから言ったまでのこと・・・
負け犬の目―――いや、戦わずして勝ちを放棄したのだから、負け犬以下だな。」
今までに父上から受けた、どんな「馬鹿野郎!」よりも、深く鋭く俺の心をえぐった。
俺は我に返ると、自分が今まで築いてきたものがいちどきに足元から突き崩されたような衝撃を覚えた。
こんな勝負のかかった場面で「手堅く」「6位に入る」だと?
なぜここで安全策なんだ。
危ない橋の一本も渡れないで、何がロードレースを闘うだ。
この呪縛を断ち切らなければ、俺はいつまでも敵前逃亡の負け犬野郎だ。
その瞬間、幼いころにおじいちゃんが繰り返し教えてくれた、小林家に代々伝わる家訓が俺を覚醒させた。
無駄に生きるな。熱く―――
死 ね ぇ ぇ ぇ ぇ ぇ ぇ ぇ ー ー ー ー ー ー ー ー ー ! ! !
今からなおきたちに追いつくのは無理かもしれない。
しかし、俺は本当に大切なものを思い出したのだ。
このアタックの先に待つものが勝利であろうと敗北であろうと、
闘わないのなら俺には価値のあるものだとは思えなかった。
父上、おじいちゃん。小林家に伝わる教えは私が守ります。
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要点をまとめます。
機能的には欠点が見つけられない。
○見た目は満足。最高。
○レンズが決して大きくないが、ほぼすき間なく顔にフィットしているので、虫の侵入などもない。
また、曇りにくい。
○光学的な歪みは、私が所有する3つの度付きサングラスの中で最も小さく感じる。さすが度入りレンズ。
普段かけている眼鏡と比べて、全く違和感がない。
○私の顔の形、とくにフレーム上部(額との境)部分の相性が良く、すき間がほとんどない。
そのため、上目遣いになってもまぶしくない。
○重量が軽い。しかもバランスがよく、ほとんどずり落ちてこない。
▲高価。
高価だが、もし次に自転車用途でサングラスを買うことになっても、私はまたこれを買う。
とくに近視の人にとっては大きな問題だと思うが、アイウェアの良し悪しはライドの快適さに大きく影響する。
それこそ、フレームや車輪の性能と甲乙つけがたいほどに。
もし、今使用中のアイウェアに不満がある人は、一度予算度外視で「自分にとって最もよいもの」を使ってみることをオススメする。
最後に、私が所有する他のアイウェアとの比較写真を撮ってみた。
左から、Flak Jacket BRIKO SPRINTER nike pursue。
レンズの端で福岡タワーをとらえてみる。
価格評価→★★☆☆☆
評 価→★★★★★
<オプション>
年 式→2010
実測重量27g