購入価格 ¥680
書店でたまたま見かけて購入。昭和40年、つまり1965年生まれの男性をテーマ、ターゲットにした隔月刊の不思議な雑誌。私はもう少し後の世代なのだが、このVol.12では「愛しのチャリンコ」という特集が組まれていたので手にとってみたら、びっくりするくらいおもしろかった。
この特集、本当に簡単に要約してしまうと、1970年代の日本でバカ売れしたジュニアスポーツ車やドロップハンドル車などの歴史が紹介されている。私も小学生の頃、巨大なライトや、クルマの変速機のようなシフターがついた自転車(当時「デコチャリ」と呼ばれていた気がする)に乗っていたことがあるが、その頃のことを思い出した。
読んでいて、70年代の日本にはびっくりするほど様々な種類の、創意工夫に富んだ、おもしろい自転車が存在していたんだなと思った。スーパーカーブームを巧みに利用した、巨大なリトラクタブルライトのような子供向けのギミック以外にも、1979年には既に油圧ディスクブレーキを採用したスポーツ車が存在していたことを知ってびっくりした。特集内でも触れられているが、まさにガラパゴス的な不思議な自転車がたくさんあったらしい。
その後、ジュニアスポーツ車は少しづつ衰退、世はロードマンをはじめとしたドロップハンドル車の時代となるものの、世の中には「シラケムード」が蔓延し、若者は何かに夢中になるのをカッコ悪いと思うようになり、自転車を捨て、オートバイに走った。1985年、プラザ合意に起因する円高の影響で日本の輸出産業が衰退し、自転車の生産が国外にシフト。あのガラパゴス自転車達も消えて行った・・・という歴史も垣間見えてきたりする。その後は私達の誰もが知っているように、日本における自転車のイメージは、駅前で朽ち果てる9800円のママチャリ的なものとなり、使い捨ての折り畳み傘的な存在となっていった。
私は最近、台北サイクルショーを見学する機会があったのだが、そこで目にした様々なアイデア商品や発明品の類は、1970年代の日本の自転車業界のレベルに達していないのではないかと、この特集を読んでみて思った。本当に勿体ない。台湾や中国といったアジア諸国に、日本の自転車製造技術が少しづつ移転されていった頃、当時の日本が持っていたイノベーションは、どこに行ってしまったのだろうか。移転されることなくただ消失してしまったのだろうか。
ところで、この雑誌の巻頭で編集長の北村明広氏が、「昭和40年男」という雑誌について、次のように書いている。
「懐かしい心の原風景を誌面に多く取り上げているのは、あの日はよかったと振り返ってほしいからではない。みんな夢中になったあの熱を、もう一度胸のなかに取り込めば、今を生き抜くためのパワーが沸いてくるはずだと思っているからだ。」
この姿勢は特集「愛しのチャリンコ」でも貫かれており、ノスタルジーではなく熱気を感じる。それが読んでいて心地良い。
写真資料も豊富で取材も実に丁寧だが、執筆陣の文章が素晴らしすぎてどんどん読み進めてしまう。こんなおもしろい雑誌はここ数年読んだことがない。CBNを頻繁に訪問されている諸兄ならたぶん誰でも楽しめる特集ではないかと思う。
なおこの雑誌、調べてみるとアマゾンでは品切れのようだがAppleのAppstoreで電子版の取り扱いもあるらしい。ただ、紙のほうがおもしろいと思うので増刷を望みたい。
価格評価→★★★★★ 個人的には2000円払っても良いくらい
評 価→★★★★★ 素晴らしすぎる