購入価格 ¥ロードソロ部門5000円
馬鹿野郎!!
自転車乗りのくせに、何を小さなことで一喜一憂しているんだ!
自転車競技など健康な体さえあれば、何とでもなるだろう!!
お金がなくて自転車が買えないということは、逆に言えばお金さえあれば自転車が買えるということだし、時間がなくて自転車に乗れないということは、時間さえあれば自転車に乗れるということだ!!
まあ、かく言う俺も、下りの恐怖におびえ、下りで生じるタイムロスを心底呪った時代もあった。
俺が言わんとすることを説明するには、俺の過去の経験について語ったほうが早そうだな・・・
それは忘れもしない2011年4月29日。
俺はなおきととしおとともに、オール九州3時間耐久ロードレースinオートポリスに参戦した。
本日のバイクはCAAD8(RS80ホイール)。
下りコーナーの安定感を重視したチョイスで、結果的にこれは正解だった。
微風、晴天。ただスタート前は寒かった。
明け方の最低気温は10度を切っていたのではあるまいか。
それでいて最高気温は20度を超える悩ましいコンディション。
アンダーアーマーコールドギア上下+デマルキ+ウールのマイヨグランペール+ナリーニ指切りで挑む。正解。
やや高地にあり、天候も変わりやすいここでは、ウェア選びは慎重に。
午前3時起床。4時自宅出発。
グリコアミノ酸をスプーン1杯飲んで出発。
基山SAで基山ラーメン。
6:50オートポリス到着。
7:10まで受付、
7:20まで試走。
2周走れた。
この大会はサーキットで行われるが、ビギナーも子どもも混在する。
また、毎年落車・救急車・担架を目にする。気をつけて走らなければならない。
要注意ポイントは、ピット前(チーム参加者がピットin・outのために進路を変える)と上りのはじめ(急激に減速するから追突に注意)だ。
でやぁぁぁ
アップなんだから足に負荷がかからないように走ることだけを考えて2周する。
ホームストレート後ふたつめのコーナーが下りきったところにあり、そこが一番のビビリポイントであることを確認。
モータースポーツによるスリップ痕がたくさんあり、恐怖をあおる。
漕がすに40km/hオーバー。
精神的ビビリのせいでフロントフォークがやや不審な挙動をする。
アップのペースで走っても1周のAVEが25km/h。
このぶんだと30周走破の悲願は達成できそうだ。ちょっと自信。
開会式後にも1周試走できた。
スタート直前、ポラーボトルとは別の水を200mlほど、さらにウィダーinゼリーマスカットを注入。
デヤァァァーーー!
スタート直後、身長180cmを超える巨体のとしおのアタックが炸裂する。
なおきと俺はその後ろで足を温存しながら上りでは俺が引く。
それが今回の作戦だ。
最初の2,3周は3人同じペースで周回。
しかし下りで俺が遅れては上りで追いつく、の繰り返しで効率が悪い。
このままではチームの足を引っ張ってしまう・・・
集団の後方には、小学生くらいと思しき少年が頑張っていた。
少年は、上りで先頭を引いていた俺がこんな後方にまで下がってきているのが不思議な様子で、こう俺に尋ねた。
「おにいちゃんはさっきまで一番前にいたのに、けがでもしたの?」
「ガハハハハ!俺は怪我なんてしていないさ!山の神はゆっくり下ってくる、それだけのことさ!」
話ついでに、自転車人生での数々の激闘について俺は語り始めた。
やまめ釣りの初老の男との出会い、軽量カーボンバイクとの激闘、そして今日は元教え子と、古い級友と3人で参加したことも。
聞けばその少年は何か重い病気を患っているらしく、今日は医者の反対を押し切っての参加だそうだ。
そのためか少年は強さに、とりわけ先頭を単独で引くことや山岳で勝利することに強い憧れをもっているようで、俺の話に目を輝かせるようにして聞き入っていた。
俺は徐々に、とりとめもない考えにとりつかれていた。
健康に恵まれ、自転車のトレーニングも自由にできる俺が、無様な走りをするわけにはいかない。
また、もしかしたら、俺の背中が、この子を勇気づけることができるのではないか―――
意識がものすごく研ぎ澄まされていくのが感じられた。
視線の揺らぎがなくなり、耳元を切る風の音がいつしか聞こえなくなり、景色の流れが止まって見える。
ゴォォォーーー!!
いつしか俺は下りの恐怖を克服し、ノーブレーキで下りコーナーに突っ込んでいった。
48km/hで恐怖を感じず、さらに漕ぎ+エアロフォームを入れられるようになった。
下りを楽しいと感じたのはいつ以来だろうか。
下りを克服後、明らかにペースが上がる。
1周ごとに貯金ができ始めた。
30周回は確実。
しかし・・・1時間経過を待たずに尿意。
さらに1時間後にも尿意。計2回、コースアウト、トイレストップ。
この日はコーヒー飲んでなかったのに!?スタート前の水が無駄に多すぎたか。
ゴール後、先ほどの少年と再会。
「あきらめなければ必ず病気に勝てるさ。いつか必ず山岳で勝てる強靭な肉体を持つことができるようになるから。退院したら俺が鍛えてやる。それまで頑張るんだぞ」
本当は、俺の気持ちを奮い立たせてくれたことに礼を言いたかったのだが、気恥ずかしくてこんなことしか言えなかった。
そのかわりに、たまたま荷物の中に入っていた内山プチ監督の「ヒルクライムバイブル」をあげることにした。
そして俺は、少年が入院しているという病院の名前を聞き、別れた。
そして、時は流れた。出張の際、たまたま少年が入院している病院の近所を通りがかったので、俺は見舞いに立ち寄ることにした。
その男の子の名前がある病室には誰もいなかった。
「すみません看護婦さん、ここに男の子が入院していると聞いたんですが・・・」
「あの子のお知り合いの方ですか。実は・・・」
看護婦さんから話を聞くと、その少年はつい先日亡くなったのだそうだ。
なんでも、長年の夢だった自転車レースに出ることができて、とても喜んでいた矢先に病状が悪化したのだという。
「では、あなたがつよしさんですね。これを渡すように頼まれていました。」
「ヒルクライムバイブル」である。あるページの間から、一枚の紙切れが出てきた。
「つよしおにいちゃん、だまっていてごめんなさい。
つよしおにいちゃんがこの手紙を読んでいるということは、ぼくはもう死んじゃってるとおもいます。
ヒルクライムバイブルの本、ありがとう。
つよしおにいちゃんがしてくれた自転車レースの話、すごくたのしかったです。
もう自転車には乗れないかもしれないけど、次に生まれかわって大きくなったら、絶対にもっとレースにも出てつよしおにいちゃんみたいな病気に負けない強い体になります。だから、そのときは一緒に練習に連れて行ってね。」
俺の手の中で、弱々しい幼い字がにじんだ。
どこに入院してるのかを聞いたあの時に、この少年は既にもう自分がこの病院から出る日が来ないであろうことを知っていたのである。
どんなにレースに出たくても、強さへの憧れをもっていても、トレーニングすることなどできない運命だったのだ。
俺は気付いた。
お金がないとか、自転車がハイエンドモデルでないとか、下りが怖いとか、取るに足らないささいなこと。
健康なこの体があるからこそ、好きな自転車にも乗れるのであり、トレーニングができる体を持っているということに常に感謝の気持ちを持たなければならないと悟ったのである。
--以下、参加データ--
【2011年4月29日】 ○日田オートポリス
Dst:92.55
Tim:3:00:54
Max:48.2
Ave:30.7
最大心拍198
平均心拍133
1659kcal/46%fat
時間内30周回達成。
補給食はウィダーinゼリー1、パワージェルトロピカル1。
水は家水満タン+粉アミノバリュ。
水はラスト30分やや不足も、ギリギリ許容範囲といったところ。
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【2009年4月29日】 ○日田オートポリス
Dst 90.06km
Max 57.0km/h
Tim 3.04.48
Ave 29.2km/h
平均心拍162
(目視でときどき飛んでた。信憑性▲。少し高めに出ている?)
2441cal/26%FAT
GIOS(DURAホイール仕様)で。
3人それぞれソロ参加。
3時間経過時点で、30周回目の途上。
つまり、「疑惑の30周回達成」
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【2008年7月21日】 日田オートポリス
Dst 53.62km
Max 51.0km/h
Tim 1.48.25
Ave 29.6km/h
CAAD8(R550)で。
チーム戦。
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価格評価→★★★☆☆
(ガッツリ走りを楽しみたいならソロ参加がおすすめ)
評 価→★★★★★
(福岡近郊―――といっても、3時間近くかかるが―――では数少ないクローズドサーキットでのレース。)