購入価格 $820 @ eBayで中古品落札、CeramicSpeed製61806ベアリング、専用工具、スペアのスパイダー等おまけ多数。
市販最軽量クラスでアームやスパイダーの丈夫さにも定評があるBB30専用クランクです。アームは170mm。
例えば、BCD110mmスパイダーにMk.V 50/34Tを装着してロードで使用する場合、総重量は
・281+130+106+41=558g (左右アーム+BB+チェーンリングセット+スパイダー)
BCD130mmスパイダーにMk.V 53/39Tを装着してロードで使用する場合、総重量は
・281+130+113+52=576g (同上)
BCD130mmスパイダー単体は52g。
おまけ。BCD135mmスパイダーにカンパ11速用 53/39Tを装着してロードで使用する場合、総重量は
・281+130+126+57=594g (同上)
カンパ用BCD135mmスパイダー単体は57g。
なお、カンパUT用コンパクトリングに対応するスパイダーはありません。
となります。同じような重量のクランクセットを探すとなると、THM ClavicuraとかStorck Powerarms SLとかZipp VumaQuadとか、$1,000オーバーのカーボンクランクになってきます。重量からして7075鍛造かと思いきや、さにあらず。2000系アルミを使っているそうです。7000系を使えばもっと薄く軽くできたはずですが、引き換えに疲労強度が犠牲になるしコストもかかるのでしょう。現状で既に市販最軽量クラス、実際に使っていてもRotor3D+Q-ringsと比べてもさらに硬く感じられるし、文句はありませんが。強度の観点からすると一見無茶なように思える558g、上記のブレイクダウンをよく見ると分かるのですが、実はBBカップが不要という構造上のメリットと、一般的な軽量リングより数十g軽い過激なチェーンリングで稼ぎ出しているのだということが分かります。このリングの変速性能ですが、Shimanoやカンパと比べると当然落ちるもののFSAやStronglight CT2並くらいには使えますし、エグい位の切削をしている割には意外な程の強度も確保されています。一般的なM8径のナット・ボルトでの固定ではなく、インナー側にM10ファインピッチのスレッドが切られていて、ボルトを直接ねじ込む形式。11速カンパのリングも一回り細いM8ですが同じ形式ですね。指定トルクは10Nm、この部位としてはかなり高い設定になっていて、SLのスパイダーと組み合わせて使うとかなり高剛性に出来ているのが感じられます。もちろん通常のリングも使用できます。クランクアーム裏に来るボルトのみ若干の加工が必要になりますが、カンパ11速(XPSS)のリングだって付けられます。私はチタン製ナットをぶった切ってオリジナルのロックリングw(左写真右側)を作りました。カンパのフィキシングボルトはこのナットとツライチでカットしています(右写真はカット前の状態)。ちなみにこれで6Nmかけても一応大丈夫でしたが、リング側の穴をドリルで拡大してナットを埋め込む加工をすれば、より確実な固定が出来るでしょう。
このクランク最大の魅力はスパイダーとBBスピンドルを簡単にとっかえひっかえできる点。アームとはロックリングで固定されているので、専用工具(別売)さえあれば簡単に交換できます。
2x9とかトリプルもあって(さすがに144mmはないですが)、ディーラーを通じて$50〜100位で買うことが出来ます。極めつけはSRMやQuarqなどのストレインゲージ内蔵スパイダーですね。たとえばロード用68mm→MTB2x9に換装する場合でも必要なスパイダーとチェーンリング、BBスピンドル(スペーサーが必要な場合も)を用意すれば、1時間もかからず簡単にコンバートできてしまいます。こんな改造普通は迫られませんが、このモジュラーシステムの合理性を示す端的な例、とお考え下さい。以上、スペックだけ見るとレース用機材としてとても魅力的なのですが、いくつか不便な点はあります。
まずバイクへのインストールですが、BB30規格なのでスナップリング2枚を対応フレームのBBシェルに装着して6806または61806ベアリング2個をその外側に圧入してやる必要があります。圧入はハブベアリングプレスまたはヘッドセットプレスにサイズの合うコレットを組み合わせて行うと確実ですが、決して安い工具ではないので以下のものを使って代用することも出来ます。
・長さ150mm程度、M8のネジきりをした両切り長ボルト。ホームセンターで入手できます。
・M8ナット2個と、これを同時に回す為のオープンエンドもしくはメガネレンチ2本。
・内径9mm以上、外径42mmジャストの円形ユニクロ金具。見つからない場合は安い6806ベアリング2個を用意してコレットがわりにする。新品買うと1個800円程。
￥2,000～位で自作できると思います。ベアリングをコレット代わりにする場合、そのベアリングは圧入時に精度が犠牲になると考えておきましょう。できれば安く上げたいけどそれもいやだなぁ、となると意地でも外径42mmピッタリの金具を見つけるか、Park ToolのBBT-30.3など専用コレットが付属する工具(6,000円位)を買うか、きちんとした工具を持っているショップで取り付けてもらうか、の三者択一。作業自体は道具さえあれば簡単です。
一方一筋縄でいかないのがBBスピンドルのベアリングへの挿入。圧入とまでは行きませんがベアリングとスピンドルのはめ合わせがかなりきつく、Cannondaleのマニュアルにもラバーハンマーで軽くたたいて入れるように指示されているくらい(これはBB30全てがそうなのではなくHollowgram SL特有の問題らしいのですが)。スピンドルの、ベアリングのインナーレースと当たる部分がごく僅かに盛り上がって設計されているのが原因なのですが、実際にはスピンドルの加工精度にごくわずかなゆらぎがあり、叩き入れなくても掌で押してやる位でわりとすんなり入るものから結構強く叩かないとダメなものまで、かなり個体差があります。強く叩くのは当然ベアリングに良くないですから、どうにもならない場合は20分程度冷凍庫でスピンドルを冷やしておくと収縮して入りやすくなるようです。んじゃ外すときはどーすんのってことになるんですが、スピンドルだけ冷やす方法(例えば冷却スプレー等)を考えるか、ベアリング再利用は諦めて叩き出すかしかないですね…しかしスピンドルはアルミ製なので前者の方法は熱伝導を考えると困難なのではないかと思います。このメンテナンス性の悪さだけはなんとかならないものか。
アームとスピンドルは圧入なので、脱着には専用工具が必要です。これも別売りだったはず。
しかしバラすのが面倒だからといってサボるわけにもいきません。徹底したパーツ数削減の為ベアリングの保護は決して手厚いとは言い難く、カートリッジベアリングの外側にあるものといえばアルミ製の薄いシールドとプラスチックシムのみ。カートリッジ内のボール保護はラバーシールのみで耐候性は決して高くありません。トラブルを避ける為の定期的な分解とチェックはもちろん、マディコンディションのトレイルや土砂降りの中での走行前後はきちんと洗浄・カバー下に耐候性の高いグリスを盛ってやるなどマメなケアが必要になりそう。MTBだとトレイル走行後は全バラしですかね…ロードでも雨天走行後は分解してグリスアップが必須かも。全てのパーツに一切の遊びがなく、ギリギリの耐久性で設計されていることの代償でしょうか･･･この耐候性の低さはBB30クランクのほとんどに共通する問題のようですが、前述のスピンドル付け外しの面倒さがあるゆえにHollowgram SLは余計に厄介です。ベアリングの精度については、CeramicSpeed製のものに換装済みの中古を買ったので評価外としますが、CeramicSpeedでも純正(どうやらセラミックはFSAのOEM)でも高額なアップグレードになる割に効果は体感できないと思うので、比較的安価なスチールベアリングをこまめに交換する方が賢いでしょう。一番入手しやすそうなNTN製深溝非接触両側シール(6806LLB)を例に取ると1個800円位と、あまり安くもないのですが。
実際に使用してみると、Mk.Vリングまで含めて恐ろしく硬く仕上がっているクランクです。Rotor 3DとQ-ringsもかなり硬い組み合わせだと思いましたが、Hollowgram SLを載せたCAAD10からRotor 3Dを載せたS3へ乗り換えるとクランクアームが柔らかく感じてしまうほど。負荷をかけながらインナー→アウターへ変速してもHollowgram SLの方がシャープに切り替わります(SRAM RED使用)。まあしかしサードパーティー製としては良くできているものの、カンパやShimanoのリングと比べるとやっぱりもたつく感じはします。デザインについては主観になりますが、精悍で市販されているクランクの中ではダントツの格好良さだと思います。
まとめると、超軽量で硬さも最高レベルだという触れ込みはたしかに嘘ではありませんが、通常はかなり高価なものであり性能維持にはそれなりに手間と整備スキルとコストを要するレーシングパーツなので、誰にでもお勧めできるものではないと思います。軽量化の側面だけに着目すると対費用効果はあまり大きくないと思うので、ホイールなどが手付かずならまずそちらへ投資し、他で絞るのが厳しくなってくるまでとっておいたほうがよさそう。一方で簡単に交換可能なスパイダーや市販クランク中でもぶっちぎりで狭いQファクター139mmなどレース用機材としてはもう魅力満載。コストや整備の手間度外視で性能最優先ならば、考慮する価値ありでしょう。
価格評価→★★☆☆☆(eBayなど中古市場でも高値安定だが競合製品より若干安い?)
評 価→★★★★☆(間違いなく最高レベルの性能を誇るが、レース指向でなければここまでは正直必要ない)
年 式→2010
カタログ重量→ 580g(実測重量 558〜594g)
おまけ:あなパーにも写真を挙げましたが、特殊なコンバージョンキットを使うとBSA68mmのフレームにも装着可能。現在は絶版になっていて入手困難なスピンドルを用いる改造ですが…まあ、無理矢理つけてもチェーンラインもQファクターもデタラメなので、敢えてやる改造じゃありません。
