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この号の編集後記における岩田編集長の文章がなかなかおもしろかった。飯島誠氏とTTバイク記事の撮影中、とある実業団の有名選手が通りがかり、その人と飯島氏がしばし歓談。しかしその有名選手はヘルメットをかぶっておらず、イヤホンもしていたとのことで、その選手が去ったあとに飯島氏は「いけませんねえ、ノーヘル」と口にしたとのこと。飯島氏によると、プロ選手は一般サイクリストのロールモデルでもあるべきで、模範的な行動が求められてしかるべき、ということのようだった。
サイスポの岩田編集長は、「ヘルメットを着用していない走り写真は掲載しない!」を基本方針にしているらしく、飯島氏と話が合ったのをうれしく思った、とコメントしている。
これを読んだとき、一瞬、「ヘルメットをかぶってほしいのなら、なぜそのとき現場でそのように言わなかったのだろう?」という印象を持った。しかし想像力をフルに発揮してみると、たぶん「知人以上友人未満」の大の大人の襟首をつかんで、頭をガクガク揺さぶりながら「メットかぶらんかい、おどれそれでもプロかぁぁぁ!!」みたいなことをやる人間は、たぶん友達が一人もいなくなってしまうだろう(笑) また、ヘルメット着用の是非については諸論あり、個人の信条・主義主張に属しうるテーマなので、自分の考えを無理に相手におしつけるというのも、やはりヘンな話だろう。
しかし編集後記でこの話題を取り上げた岩田編集長に、私は好感を覚えた。岩田氏のアプローチは非常に教育的だと思ったからである。なぜその場で本人に「プロは社会的責任もあるから、率先してヘルメットをかぶるべきではないか」と言わなかったのだろう、とは思ったが、やはり大人の事情もあるだろうし、思想の問題もある。また、4月号の29ページに出稿されているASSOSの広告では、ロードバイクに乗車中のモデルの男性は思いっきりノーヘルであり、一貫性がないような気がしないでもないが(岩田編集長といえどもRGTエンタープライズには逆らえないということなのか)、それはたぶんあら探し・揚げ足取りのようなものだろう。「それってダブルスタンダードではないのか」などと突っ込んではいけない。
圧力団体のおばさんみたいに、自分の思想をヒステリックかつ暴力的に押し付けようとするのは簡単だが、物事はそういう調子ではなかなか解決しない。難しい事態というのは、地道に、粘り強くやらないと打開されないことが多いことを、長いこと社会人をやっているといやというほど思い知らされる。岩田編集長はたぶんそういうことをわかっている人なのだろうと感じる。編集後記という、非常に限られたスペースでの孤独な戦い。こういう良識的な人が編集長である限り、サイスポはとりあえず大丈夫と言えるのかもしれない。
価格評価→★★★★☆
評 価→★★★★☆