購入価格 ¥考えるだけならタダだが…
ここに投稿するかどうか迷ったのだが、オーダーフレームを考えていて、
トップ長やシート長は決まっているのだがヘッドをどうすればいいかわからない、だとか、
または、フォークを交換したらハンドリングがどう変わるのか?
などと思っている奇特な方がいないとも限らない。
あと、ココのほうが目に留まるんじゃね?という若干スケベな理由によってフレームカテゴリに書いた次第。
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1.導入
一般的には、ヘッドが立ってトレールが短くなるほどハンドリングクイックで直進安定性に劣る傾向、逆もまたしかり、程度の説明しかなされないことが多いが、
自転車はバンクさせて曲がる乗り物、そこまで単純なわけではない。
例えばトレールが同じでも、ヘッドが立っている場合と寝ている場合では相当に異なるフィーリングとなる。
ヘッド角が1度、いや0.5度変わるだけで操作感はもう別物になってしまう。
このあたりの研究は自動二輪車の分野で詳しいが、詳しい本が見つけられなかった。
そもそも数式並べてはい終わり、と理論を解説しても仕方ない。それに単車と自転車は乗り方が違うところも多い。自転車に乗る人にとって役立つ情報である必要がある。
ヘッド周り設計による乗り味変化の傾向を自分なりに整理してみたかったこともあり、
同じフレームでオフセットが異なるフォークを試したり、ヘッド角が度違うフレームを乗ったりした経験をもとにしてまとめてみることにした
乗ってみた感想とジオメトリの考察を交えて、分かりやすく説明できたらと思う。
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2.用語確認
・ヘッド角: 地面とヘッドチューブのなす角度。「ヘッド角が大きい」=「ヘッド角が立っている」。
・肩下寸法: 通常はフォークのクラウンからハブ軸までの距離を示すが、今回は、ヘッドチューブ下端に接する平面と、これに平行でFハブ軸を通る平面との距離、と定義する。
・オフセット: フォークコラム延長線と、Fハブ軸との距離。
なお、ヘッド角、オフセット、トレールの相互関係について基本は理解している事を前提としているので、
・ヘッド角が立つとトレールが減少
・オフセットが増えるとトレールが減少
と聞いて、「あ~はいはい。」ってわからない人は予習してきたほうがいいかもしれないです…
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3.ヘッド角が異なるときのハンドリング変化
3種類のロードバイク
Bianchi via Nirone 7 (550サイズ、ヘッド角72.0度)
Lynskey SuperCooper (550サイズ、ヘッド角72.5度)
Cannondale CAAD5 (540サイズ、ヘッド角73.0度)
の比較。オフセットは3車ともに43mmであった。
所有していた時期が異なるため3種同時評価はしていないが、
ビアンキとキャノ、キャノとリンスキーの間では同じホイールで比較テストをしている。
当時残したメモを参考にしつつ、昔のことを思い出しながら書いてみた。
キャノンデールはシート角が立っていたため、実質的なトップ長は3車ともほぼ同じ。
ステム長+ハンドルリーチもずっと変わっていないため、ステム長が変化してハンドリングに影響を及ぼすことは無い。
各社のジオメトリ表を見比べると、ヘッド角は550サイズ付近では通常72.5~73.0度である。
3車の中では、やはりちょうど真ん中のヘッド角を持つリンスキーが一番乗りやすい。
これを基準として、
ヘッド角が立っているキャノは
・直進安定性が悪くなる。具体的には手放し運転が少々難しい
・コーナリング序盤で前輪がグイグイと切れこんで曲がっていく
・コーナリング中はフロントタイヤ主体で、地面に食いついた前輪を軸に走るイメージ
・フロントへの依存が大きいゆえに、前輪が滑るとあっさりこける。
・挙動は全体的に鋭く、速く、大きい
・コーナリングにおいてライダーの介入する割合が大きい
逆に、ヘッド角が寝ているビアンキは
・前輪の接地感が薄く、滑りそうで心配になる。
・コーナリング中も車体が素直に寝て曲がってくれず、ラインがアウト側にはらみがち
・遠心力に耐えるグリップは十分なのに、バイクが向きを変えてくれない印象
・不安なく曲がるには他車より速度を落としたり、意識的にバイクを倒し込む必要がある。
・挙動は全体的に鈍く、遅く、小さい
・コーナリングにおいて、バイク任せにする傾向
という感想を持った。
この比較を見る限りはヘッド角が立つほどコーナリングは速そう、実際そういう傾向があるのだが、
各種の挙動が速いゆえに、バランスを崩した時のリカバリーも素早く的確なものが求められる。
このあたり、足回りを固めたレーシングカーに通じるものがある。
現在乗っているリンスキーは、ライダー半分バイク半分でコントロールしている感覚で、
積極的にバランスを崩して攻めることも、バイク任せ、たとえば片手を離して自転車の持つ特性に任せて下ることもできる。
ただ、ヘッド角が立っているほうが刺激的ではあるので、もう少し立っててもいいかなと思ったり。
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4.オフセットが異なるときのハンドリング変化
シクロクロス
Lynskey CooperCX (550サイズ、ヘッド角72.3度、推奨オフセット47mm)
で、3種のフォークを試した。
コルナゴのクロスバイク用アルミフォーク (オフセット50mm)
シマノPRO カーボンクロスフォーク (TRIGONと同じ物、オフセット48mm)
ワンバイエス OBS-C1 クロスモノコック(オフセット45mm)
現在使用しているのは、これまた中庸の48mmオフセット。
シクロクロスはロードバイクに比べてメーカー毎のジオメトリ差が大きく、
例えばBBドロップも10mmくらい違うなんてザラだし、ヘッド角も同サイズで70.5度~72.5度くらいの開きがある。
ただ、フォークは45mmオフセットが殆どの模様。
今回も3種同時比較は出来ていないのだが、50mmと45mm、50mmと48mmで比較しているので、それを参考にする。
なお、タイヤはパナのバスタークロス。舗装路に加えオフロードも走っている。
オフセット違うし、そもそもフォークによって肩下寸法違うし、ヘッド角変わっちゃうんじゃね?
と思った鋭い人はレビュー最後のオマケを見て納得して欲しい。誤差だ。誤差。
オフセット48mmを基準として、そこから
オフセットが50mmのフォークにすると
・直進時にハンドルをわざと切ると重い
・コーナー進入でバンクさせると、すこし遅れて、勢い良くグラっと切れこむ
・一定バンク角でコーナリング中は磐石の安定感
・抽象的に言うと慣性が大きい印象で、ゆっくり、大きな動きになる
また、オフセット45mmの場合は
・ロードバイクのようにハンドルを切れる
・バンクしたときの切れ込みはクイックで軽やか
・一定バンクでコーナー中、若干パタパタとハンドルが振れて落ち着きがない
・小さく鋭くクイックな動き
一般には、オフセットが大きくなるとトレールが減少して直進安定性が落ちることから、
オフセットが大きいフォークほどクイックなハンドリングになると思われがちで、私も試してみるまでそう思っていた。
だが実際にはむしろ逆の感想。
オフセットが増えると、コラムからステアリング系の重心までの距離が増えるため、バンク時に自重でステアリングがぐらっと切れやすくなる。
逆にオフセットを減らすと、勢いがつきにくくなってハンドリングが軽くなる。
ちなみに、重いSTIレバーから軽いスラムDTに交換すると、同じような変化が感じられる。
ファクターはこれだけではなく、設置点の移動だとか小難しい理論があるみたいだけど、勉強不足。
乗り比べたところ全体的に、45mmはクイックだけど落ち着きがない印象。50mmは大型車のような、鈍重だが安定した感覚だった。
レースはクイックな45mmがいいのではないかと思ったが、シクロクロスのレース中、
コーナーで前輪が石を踏んで姿勢を乱すような状況でも、オフセットの大きいフォークは車体のスタビリティを保持してくれた。
路面のグリップが低く不安定で、外乱も多い状況ではある程度ダルな操作性のほうが乗りやすい。
操作感がクイックすぎると、車体の姿勢をいちいち自分で修正してやらねばならず、ミス、ひいては落車にも繋がる。
思いの外はっきりと差が出たが、慣れればどれでも違和感なく乗れるようになったし、個性と受け取れるレベルの違い。
味付けはけっこう変わる割にネガが出にくいため、気分転換にいじってみるのも楽しい。
とはいえロードバイクでは43mm、45mmオフセットが殆どなのだが。
なお些細なコトだが、オフセットを大きくするとフロントセンターが伸びるので、ペダリングしながら小回りしてもつま先がタイヤに当たりにくくなる。
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5.肩下寸法とフォークオフセット変化に起因するヘッド角への影響
気になる人も若干いるようなので、計算してみた。

上図のように、Rハブ軸を通りステアリングコラム延長線と直交する直線をひく。
この直線で肩下寸法を上側h1と下側h2に分ける。
オフセットはk、Rハブ軸からコラムまでの距離はLとした。
ヘッド角HAは、アークタンジェントを用いて、
HA=arctan{h2/(L+k)}
と求まるはずだ。
逆関数がわからない人は、tan(HA)=h2/(L+k)と書けばわかるだろうか。
ここから、オフセットkを変えてみる。
トップ550mm、ヘッド角73度のフレームで、L=892, h1=98, h2=286 (mm)
オフセットを45mmから5mm前後させてみると、ヘッド角変化は約0.085度。
いくらヘッド角の微妙な変化で乗り味が変わるといっても、これは誤差といってもいいんじゃないだろうか。
今度は肩下寸法を変えてみる。フォークはメーカーに寄って肩下寸法が異なるし、
ヘッドパーツも下ワンのスタックハイトはまちまちである。
フレームのジオメトリでh1が決まってしまうためh2だけが変化する。
これも、デフォルトの286mmから5mm前後させる。すると、0.28度の変化。これは予想外にでかい。
ヘッド角73度付近では、肩下寸法1mmの差で0.056度の変化。
これはでかい。例えば10mm変われば、ヘッドアングルが0.5度も変わってしまうため、
フォーク交換で意図しないハンドリング変化をきたす可能性がある。
オフセットだけではなく肩下寸法もチェックしたほうが良さそうだ。
多少異なっていてもヘッドパーツ交換で3mm程度は調整可能なので、相殺できる場合もあろう。
逆に肩下寸法の変化を利用し、フォーク、ヘッドパーツ交換やスペーサー自作によりヘッド角を変えることができるので、
ちょっと変わったカスタマイズとして挑戦してみるのもいいかもしれない。
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6.総括
図ひとつでバッサリまとめ。適当だが、位置関係は合っている。
ホイールサイズやハンドル幅が変わると多少なりとも話が違ってくるので、700c限定にしてみた。

太いタイヤ履いた26インチホイールの外径は700cより大きいくらいだから、比較できないわけではないのだが。
MTBはヘッドが寝ていてオフセットはシクロクロスと変わらないため、シクロクロスの左あたりに位置する。
実は紙上でもう少し正確に作図をしてみたのだが、トレールを極端に変える、たとえばヘッドが立ってオフセットの大きい自転車が無いことが興味深かった。
フォークが寝ているものはオフセットの大きなフォークを組み合わせてバランスさせている。
そういえば確かに、ドミフォン用バイクは極端に立ったヘッドにマイナスオフセットのフォークを組み合わせていた。
トレールは結局、ある範囲内に収まっていれば、1~2mmの差を気にする必要はあまり無いのだろうか。
逆に、トレールが推奨値を外れたらとんでもなく乗りにくい乗り物になると推測することもできる。
聞きかじりだが、マイナストレールはヤバいそうな。
負の安定性、すなわち、外乱でちょっとハンドルが切れたら、どんどん切れこんでいって転倒まっしぐら。
蛇足だが、最近の戦闘機はみんなこんな感じで、それを電子制御して無理やり安定させて飛ばしているらしい。
理由は、ステルス性を追求したら飛ばなくなったというのもあるが、運動性を高めるため。
不安定は高い運動性に繋がるため、わざと不安定にしているそうな。
近い未来、オートバイや自転車もこうなるかもしれない。ヘッドパーツにモーターが入っていて細かく姿勢を制御、なんて夢物語じゃない。
平地巡行、上り、下り、そしてスプリント。状況によってステアリングの特性を変えるなんてお手の物だろう。
妄想はとにかく、現状でわかったのはこんなところ。
ホイールベースが変わったらどうなるの?とか、
前後重量配分でどれくらい変わるの?とか興味は尽きないので、
今後もぼちぼち調べていくつもりです。
価格評価→★★★★★ 思考するだけならタダであるが…
価格評価→☆☆☆☆☆ 上に示したフレームやパーツ代金を全て足すとこうなる。
評 価→★★★★★ でも、得られた経験はとってもプライスレス