自転車乗りとアミノ酸と私
馬鹿野郎!! さっきからファンラ●ドやサ●クルスポーツやバ●シクルクラブを黙って読んでいれば、カーボローディングがどうの、トレーニング後はアミノ酸を4000mg摂取だの理屈ばっかりこねやがって・・・ 自転車乗りにとって、そんな細かい計算式なんていらないんだよ!! どんなものでも好き嫌いを言わずおいしくいただく。 そうすれば、例えそれが脂肪であっても筋肉になるんだよ!! 実はこの風潮を見ていると、昔の俺を見ているようで少々興奮してしまったようだ。 俺の言わんとしていることは理屈で説明できるものではないから、俺の過去の経験について語らなければならないだろうな・・・
それは1年前のことであった。 俺が「英彦山サイクルタイムトライアル」を走り終え、一緒に出場した友人と昼食会場でお弁当をもらった後の出来事である。 俺はカロリーを計算して弁当から揚げ物を外し、足りない分はアミノ酸とプロテインで補っていた。
友人「せっかくおいしいから揚げなのに食べないのか?」 俺 「何を言っているんだ。 君のように揚げ物を欲望の赴くままに食べていると、 から揚げについている衣の部分で脂質の摂取が過剰になってしまう。 それだけではなく、ビタミンやミネラルの補給もおぼつかないだろう。 そもそも、君はプロテインを摂取していないようだが、 体重1kgにつき2g必要と言われるたんぱく質が不足してしまう。」 友人「さすがだな。そこまで気を配って食事をしているとは、さすが『長浜の鷹』は違うな。」 俺 「食べることもトレーニングのうちだ。 カロリーや栄養理論を無視してむやみやたらと食べる奴には、ガリガリかデブしかいないよ。 俺のように強靭な肉体を持ちつつ、脂肪がほとんど乗っていない パーフェクトな体をもつヒルクライマーとしては当然の知識だよ。ガハハハハ!!」
そこに同じくゴールした男がやってきて、おもむろにお弁当を食べ始めるのが目に入った。地元のおばちゃんがやって来て、から揚げだの豚汁だの焼きそばだのを次々と勧められるままに受け取っては、目の前にずらりと並べてつぎつぎと平らげていく。俺はそいつを指さしてにこう言った。
俺「たとえば、見ろ。あれが悪い例だ。 ただ単にたくさん食べればいいと思っている。 確かにカロリーは補え、筋肉はつくかもしれないが、あれでは脂肪もつきすぎてしまう。 ジャージの上からではわからないが、あのTシャツの下は間違いなく 脂肪だらけの体が隠されているはずだ。 俺のパーフェクトボディーとは対極をなす醜い体だよ、ブハハッハア!!」
そこにおばちゃんがソースを持って横を通りかかった。おばちゃんは足を滑らせ、ソースがその男のジャージにこぼれたのだ。
おばちゃん「ごめんなさい。すぐ洗濯するからジャージを脱いで。」
男はジャージを脱いだ。するとそこにはアンディ・シュレックばりの細く引き締まった肉体が現れたのだ。 脂肪はほとんどなく、腹筋は6つにしっかりと割れている。
俺はうろたえた。 「ば・・・ばかな・・・き、君は、どこのメーカーのアミノ酸を使ってるんだい? 俺はグリコのクエン酸&BCAAを使っているんだが、できれば君の使っているサプリメントの商品名を全て教えてくれないか?後、摂取量や摂取タイミングなども教えてもらえるとありがたい。」
その男は教え諭すように、ゆっくりとこう答えた。
男「お前の言う通り、確かに食事もトレーニングの重要な一部だ。 しかし、それはどんな高価なサプリメント摂るかということではない。 たとえばこのヤマメの塩焼き。俺には見える。 来る日も来る日も、暑い日も雪の積む日も釣竿を垂らし、 そしてはるばるトラックに載せて運んでくるおじいちゃんの姿が。 このヤマメもそういった漁師の人が汗水たらして漁をしてくれた おかげで食べることができるんだ。 俺が食べているのはたんぱく質でも炭水化物でもない。 こういった漁師や農家の方々の一所懸命な心を頂いているんだ。 彼らへの感謝の心を持ちながら食べる限り、 どんなものを食べてもそれは自分の肉体となるだろう。」
おれは今までの自分を恥じた。 俺に足りなかったのはカロリー計算でも栄養学の知識でもない。 足りなかったのは、食べ物への、生産者の方々への、料理を作ってくださる方々への感謝の気持ちだったのだ。 自転車乗りは、様々な人の想いを乗せて走る。 積んだ想いの重さの分だけ、自転車乗りは強くなれるのである。
評 価→★★★★★
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