購入価格 €463 @ Starbike (ダイアルゲージ等のオプションは含まず)
http://www.dtswiss.com/Products/Proline/DT-truing-stand.aspx 一連のホイール関連工具の大トリ。
DT Swissが作った振取台。もう見たまんまの単純明快な構造、馬鹿でかいアルミ合金プレート(少なくとも500mmx350mmx25mmはある)からCNC切削で作られる豪快な工具、というよりもはやホイール修正用治具と呼んだほうがしっくりしますね。Park Tool TS-3が生産終了となった今、一般に流通している振取台の中ではHozanと並ぶ希少なヘビーデューティーモデルでしょうか。構成パーツは少なく、メインフレーム・工具不要でスライドしハブナットをクランプする鉄製のエンド・ベーススタンド・アルミ製マルチリンクアーム+測定子3本・バイスにクランプする為のアルミブロック・M8ボルト5本で全部。メインフレームの左右にアームを固定するためのボルト穴が各3箇所ずつあけられており、リムの外径に合わせて選択できるようになっています。対応ホイール径は12インチ~29erまで、クイックシャフトだけでなくDHバイク用の20mmスルーアクスルもオプションのアダプター併用で対応、とおよそ考えつくほとんどをカバーしています。さすがにホイールトップメーカーDT Swissが作っているだけあって、カタログスペックから手抜きの匂いは一切嗅ぎ取れず。アルミ製だし無根拠に軽量なのかと思って特に構えずに買ってみれば、届いてビックリ怒涛の総重量8kgオーバー。うっかり机からひっくり返して足の上にでも落とそうものなら確実に骨を粉砕します。こんな粗大なモノをStarbikeは送料たった€12.5で請負い、気の毒にもDHLとわが国の郵便事業はドイツからせっせと我が家へ運ばされましたとさ。ちなみに通関で余計に手間取るといったような面倒は一切無く、通常の消費税納付が発生したのみで1週間程度で手元に届きました。
もう見た通り物凄く堅牢な作りで、ハブをクランプしてクイックを締めればガタは一切なしです。可動パーツもパーツの絶対数も必要最小限に抑えた、極めてシンプルな構造ゆえに耐久性も高いと思われます。実際にはホムセン家具の如く自分で組み立てるのですが、メインフレームが異様に重いのでちょっと面倒。立派な凶器になりますよコレ、私なら逆○裁判あたりのゲームで出てきたら真っ先に凶器としてマークします。まあ、それはいいとして設計通りなら13mmのオープンエンドスパナと5・6mmヘックスレンチがあれば取説無しで余裕で出来る位単純な作業…のはずがマルチリンクアームを固定するための取付穴にタップがきちんと最後まで通されておらず、アームが取り付けられなかった…しかたなくホームセンターでM8のタップを買ってきて浚い直しました。いざ組みあがってみると…置き場に困るwww 重量が重量なので、安全性の観点から無造作に机や床の上に置いておくわけにも行かず、思案の末に使わなくなったPCデスクの改造を思いつきました。デスクトップPCとまあだいたい同じような重量だから耐加重も大丈夫だろうし、写真のように天板4隅をボルトで剛結すればいいかと。ついでに良くアクセスする工具を整理してディスプレイしてみたのですが、なかなか良い作業スペースが出来たんじゃないかと思っています。座り慣れた椅子で作業できるしキャスター付で簡単に移動もできるし、この中古PCデスクは第2の活路を見出した、いやむしろこっちが天職だったんじゃなかろうかというくらい。
他にもベースプレートにアルミブロックをボルト付けしてベンチバイスで固定する方法もあるのですが、そんな馬鹿でかいバイスもワークベンチも普通持ってませんから、これはショップ向けの方法ですね。あとは床に直置きして使用、ですが座り込んだままホイールを覗き込む姿勢を長時間保持するのは前傾姿勢に慣れている身でも思いの外しんどいものです。
早速性能と使い勝手についてまとめてしまうと、じっくり時間をかけて妥協無く精度の高いホイールを組むには何の支障も無い一方、パパッと短時間でそこそこの精度のホイールを組む用途には、向いていないんじゃないかと感じました。理由は、単体でセンター出しが出来ない為。ホイールを組む上でこだわるならばちゃんとしたセンターゲージを使うのは当たり前のことなのでしょうが、時間や効率にセンシティブなショップやレースメカニックにはPark Toolの振取台にオプションでつけられるゲージは便利なはず。納得いくまで時間を割ける気長なホビーユーザーならこれは問題ないのですが、TS-2以上のスタンドに慣れてしまっている方は面倒臭いと感じられる可能性が高い。そこそこの値段で抜群に美しく、私の記憶が正しければ発売されてから悠に5年は経過しているのに、数ヶ月前に購入した私のシリアルナンバーが500にすら届いていないのは、きっと私のような変人が買うばかりでプロは見向きもしなかった、というのが実情を反映しているのでしょう。
各部を具に見ていきます。本体にマルチリンクアームが3本ボルト止めされていて、この先端に各種測定子を取り付けてリム部での振れ幅を測定しながら使用するのですが、センターを出すための機構は備わっていません。アームそのものについては後述しますが、Park Tool TS-3やTS-2のように(結構ズレるとの評判ですが)左右アームが均等にスライドするような機構は備わっておらず、別売オプションで専用のセンターゲージとかも…ありません。少々面倒なのですが、このスタンドを使うならセンターゲージを別途用意する必要があります(個人的にはホイールをクランプしてクイックも締めこんだまま使えるPark Tool WAG-4推奨)。それと、ハブ幅の変更は左右エンドについているノブを緩め手動で移動させることで行うのですが、幅を表記した付属ステッカー(これも貼る時は目視に頼るか、完璧にセンターの出ているホイールを使ってじっくり確認する他なさそう)以外移動幅の目安は無く、ここでまたセンターが出しにくくなっています。20mmスルーアクスルも含めておよそ考えつくほとんどのハブ形式に対応しているのはいいのですが、センターアームも自在に動くから目安にはならないし、何かしら基準になるものをつけておいて欲しかった。まぁ無くてもなんとかなるから良いんですけど。
さてお次はこの振取台の目玉、赤い3本のマルチリンクアーム。真ん中にあるノブを緩めると自由自在に動き、締め込むと全てのリンケージが連動して固定される仕組みなのですが、ノブを回すのみのワンアクションで全てを固定・解除できる上に保持力も充分で、1個150g近いミツトヨのゲージとその倍近くあるアームの自重をきっちり支えます。まさに目からウロコの便利さ、斬新な機構が気になって眠れないので調べてみたら、Baitellaという内視鏡や呼吸器といった医療機器を保持するための道具を製作しているスイスのメーカーが特許を持っていて、付属するのは一番ベーシックなものながらもかなり高価なものであることが判明。同サイズのものは国内価格1本¥15,000程するそうで、3本買う資金でまるごと買いなおせてしまう。簡単には壊れないだろうけど、壊さないように気をつけないと…先端は8mm径のクランプがあり、マイクロゲージ他各種測定器具に差し替えられます。このクランプ径は規格があるらしく、8mmは一般的なものとのこと。まあ後述するオプション類を買い足さなくたって、完璧なホイールが組めます。
写真向かって右アームについているのがスタンド付属の測定子(先端はもともと直径10mm程の円錐状測定子が付いていましたが、リムを傷つけそうなのでボール測定子に交換済)で、もう一個同じものが左側に、先端を丸い皿状の測定子に換えたものがセンターについていました。アームを動かさずとも、ネジとスプリングでリムとのクリアランスを微調整できる機能付き。DT Swissからも純正オプションでダイアルゲージが出ていますが(Mahr製でDTロゴ入り)1個€80程度と妙に高い上、海外輸送のリスクや校正で送り返す時の手間を考えて、私は国内大手ミツトヨ製のものを2つ購入して代用しました。国産なら1個¥5,000も出せば相当な高精度のゲージが入手できますし、アフターセールスも万全。縦・横ともに1/100mmスケールで確認しながら心ゆくまで振れ取りできます。ついでにローラー測定子(3,000円程度)を一個入手しておけばリムを傷つけずにスムースな測定が可能です。まぁこれらはあればちょっと便利だな位のものなので、しいて買う必要はないでしょう。まして1/1000mm計測できるようなゲージはベアリングの左右方向の遊びまで拾ってしまうでしょうから、かえって使いにくくなるでしょう。あ、デジタルで自動ゼロだししてくれる機能は便利かも…
この質感…瑣末なことはもうどうでもいいな。TS-3の存在感もすごいけど、このスタンドにもコストそっちのけで性能を追求したプロダクトだけが持つオーラがある。絶対儲かってないだろうなコレ…DTにこれを売り続けさせているのはプライドなのかはたまた良心なのか、TS-3同様いずれは消えゆく運命なのでしょう。
最後に。購入に当たり本社HP経由であれこれ質問を投げたかけたところ、3日ほど空けて台湾にあるDT Swissサービスセンターのエンジニアさんがコンタクトしてきてくれました。色々と親身になって細かいことまでアドバイスをしてくれて、私の中でのDT Swiss株はもううなぎ登り。小さなショップを別とすると、ZippとDT Swissのコミュニケーションは例外的に丁寧で親切だったのが印象に残っています。いい買い物でした、一生モノとして使い続けます。
価格評価→★★★★☆(狂気の沙汰、でも内容を考えればバーゲンプライス)
評 価→★★★★☆(センター出しの件は不便だけど、不満にはならない)
年 式→??? (一体いつから売れ残ってたんだろうか?)
カタログ重量→ ---g (実測重量 8.20kg)