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自転車雑誌におけるHot Licks


 
ManInside  2010-4-5 23:19
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自転車雑誌におけるHot Licks

ジャズやロック音楽に興味関心がある方なら「リック」という言葉をご存知だと思う。「リック」とは個々のミュージシャンを特徴付ける「特徴的な音の繋がり」のことで、一流のミュージシャンなら誰でもすぐに「その人のプレイ」であることがわかる「リック」を持っている。

街中を歩いていて、テレビを見ていて、耳に入る音楽について、
「あ、ケニー・バレルだ」
「あ、ウェス・モンゴメリだ」
「あ、パット・メセニーだ」
と言った風に、「曲名は知らないけど、これは間違いなくあの人の演奏」と思う瞬間は誰にもあるだろう。

そういう時はだいたい「リック」が聞こえているのである(それだけじゃないけどさ)。

ところで、あるプレイヤーの演奏にリックが感じられるということは、ポジティブにも、ネガティブにも捉えられる。ポジティブな見方をすれば、それはプレイヤーとしてのスタイルが確立されているということである。スタイルを確立するというのは、それほど簡単なことではない。「これは○○のリックだよ」などと、アマチュアに真似されるようになったら、その時点で既に立派なことではある。リックを持っている人に対しては、基本的には敬意を払うべきである。というのも、リックは表現活動を継続しないと発生しないことが多いからである。

一方、「あいつの演奏はリックばかりだ」という言い方もある。つまり、どういう時にどういうフレーズ(リック)を繰り出してくるかが簡単に予測できてしまうと、ワンパターンなリックを使う、と批判されるのである。また、向上心のないミュージシャンになると自分が開発したリックを「身体に覚えこませて」しまい、「手グセ演奏」をするようになる。すると、歌心のない、指先だけのつまらない演奏になる(この場合の「リック」とは「紋切り型」とほぼ同義)。

向上心のあるミュージシャンは逆に、即興演奏の際に頻発する自分の「リック」を分析し、それを主旋律(テーマメロディ)に据えた楽曲を作曲することがある。リックを楽曲の主旋律にしてしまえば、そのメロディを即興の際に使うことは恥ずかしくてできなくなるから、結果、自分自身のリックから解放され、自然と新しい表現を模索するようになる。パット・メセニーやジョン・スコフィールドといった現代の(といっても一昔前か)ジャズ・ギタリストには、リックから生み出された名曲もいくつかある。

長くなったが、まとめると、「リック」とは何らかの表現を確立するプロセスにおいて必ず発生する「パターン化」なのだが、無自覚にパターン化された表現は途端につまらないものとなる。現代のジャズ音楽が完全に死滅した、つまらないジャンルになってしまったのは、そのせいである。今時ジャズを聴いている人は珍しいのではないだろうか。ジャズといえば、むかしはまともな音楽ジャンルだったと思うが、最近ではラーメン屋のBGMくらいに思っている人が多いのではなかろうか。

では本題に入ろう。
日本の全てのサイクル雑誌における自転車インプレは、ジャズ音楽と同じ運命を辿っている。
「無自覚なリック」が多すぎて、読者は「またかよ」とうんざりしてしまっているのである。

試しに私の手元にあるサイクル雑誌の完成車レビュー、ホイールレビューやタイヤのレビューから、「リック」を無作為に抽出してみる。

☆不快な振動をサッといなしてくれる
☆アワーグラス形状が
☆ターボのように加速する
☆剛性が高すぎず初心者にも優しい
☆入力に対する反応が速い
☆いったんためてから爆発させる
☆パチッと乾いた
☆ちょっぴりスパイシー
☆明らかに価格を超えた
☆相反する要素を高い次元で統合
☆打てば響くような加速
☆一踏み目からわかる
☆ヒラリヒラリと軽快に
☆いかにも上質なカーボン素材を使用

どうだろう。これでもほんの一部だが、皆さん見覚えがないだろうか。現代日本のサイクル雑誌における自転車及び自転車用品レビューコーナーには、枚挙に暇がないほどの「熱いリック」(Hot Licks)が溢れかえっているのである。

しかし我々はこれらのリックを目にして、「くーっ、タケヒロ・キクチのリックは今月もシビれるぜ」などと感動するだろうか。シガー片手にアイラ・モルトを飲みながら「くーっ、チャーリー・パーカーのリックは最高だぜ」と言うように、「くーっ、タツオ・ホソヌマの今月のリックはクレージーだぜ」などと感動するだろうか。むしろ、「また今月もか。もういい加減にしろ!」と、無自覚に繰り広げられる「歌を忘れたリックの嵐」に、「手垢にまみれたリックの屍の山」に、呆れることのほうが多くないだろうか。

ここで一つ実験をしてみよう。上記のリックを用いて、ピザハットの「大人めハーフ&ハーフ」について語ってみる。

「ピザハットの『大人めハーフ&ハーフ』というピザを知っているだろうか? カマンベールチーズのとろけるような柔らかさと、カチッと乾いた熟成ベーコンのカリカリした食感という相反する要素が非常に高い次元で統合された、革新的な新製品である。正直、このピザを買うユーザー層は日本にはいないのではないかと思った。生地はパチッと乾いており、いかにも上質な小麦粉素材を使用しているのがわかる。舌の上で赤パプリカがヒラリヒラリとダンシングし、ちょっぴりスパイシーなディジョンマスタードが、いったんためた力を口の中で爆発させる。しかし絶妙にスライスされたピザひと切れのアワーグラス形状が、舌への不快な振動をサッといなしてくれる。Mサイズで2,500円という価格を明らかに超えている。歯切れの良さは一噛み目からわかる。咀嚼に対する反応も速い。塩分も濃すぎず、中年者にも優しい。素早い補給が必要なときに、食がもたつくことがない。上級者であればイタリアンクリスピーを選ぶとさらにこのピザのエッセンスを引き出すことができるだろう。だが、初期状態の三種のチーズが入ったプレミアムソフト生地から入っても問題はない。」

どうだろう。上記のピザのインプレで使用されている形容詞は、私が頭をひねって考えだしたものではない。サイクルスポーツとファンライドから拾ってきただけである。つまり、その気になれば誰でも「それっぽい」インプレを書くことはできる。考える必要はない。感じる必要さえない。ただ「それっぽい言葉」をパクッてきて、適当にちりばめて文章を構成すれば、立派なピザインプレ、じゃなかった、自転車インプレが書けるのである。自転車インプレライターになれるのである。

間違いなく、なれる。なれるのだが・・・なりたいと思う人はまずいないだろう。
だって、読みたくないでしょ、リックだらけのそんな文章。

リックというのは、「プロっぽく」見せかけるにはとても便利。音楽でも、文章でも、写真でも、なんでもそうだと思うが、紋切型表現というのはある。しかし大事なのは、「プロっぽく」表現することではないだろう。

音楽学校に行ったからといって優れた演奏家になれるわけではないし、写真学校に行ったからといって、良い写真家になれるわけでもない。基礎的な技術を習得し、それに磨きをかけることは非常に大事だが、それだけでは本当のプロにはなれないのは言うまでもない。

「サイクルベース名無し」に投稿されるレビューがサイクル雑誌のインプレ記事よりおもしろいのは、リックに頼ってレビューを書くような人が少ないからだろう。自分の頭で考えて、自分の感覚を検証して、適切な言葉を選んで書くというあたり前のことができている人がほとんどだからだと思われる。アマチュアのほうが本質的で、説得力のある、ためになるインプレ記事を書くことができて、文章で生計を立てているはずの一部の自転車ライター諸氏の記事のほうが意味不明でつまらない、というのは非常に不思議なことである。

評   価→★★☆☆☆
リックと認知されるだけでも実はすごい。しかしリックだけで評価されるのは一部の天才。手グセ演奏でも人を熱狂させられるのは、ギタリストでいえばジミー・ペイジくらいだろう。
<オプション>
1) 誤解のないように補足しておきたいが、「紋切り型のリックを楽しむ」という趣味も存在する。たとえば、水戸黄門では8:45に必ず印籠が登場するわけだが、あの場面を心待ちにするような趣味である。そういう趣味自体は、退廃的な愉しみだとは思うが、私は否定しない。実際、私は水戸黄門のファンである。サイスポの菊池武洋氏による連載「自転車バカ(今月の)一台」も、何だかんだと文句を言いつつ、毎月愛読していたりする。リックというのは、一方でひどく魅力的なところがあるので、大変厄介なものなのだ。みんなも気をつけよう。
2) リックらしいリックを特定できないのに、その人以外の表現ではありえない、といった不思議な演奏をする人もいる。最近のジャズではブラッド・メルドーやカート・ローゼンウィンケル、一昔前のジャズではエリック・ドルフィやアルバート・アイラー、オーネット・コールマンの演奏がそうであった。いずれも10年にひとりレベルの天才ばかりである。





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