米津一成『自転車で遠くへ行きたい。』河出書房新社
2008年6月30日初版発行。定価1,300円税別。
自転車で遠くへ行きたい/行けるかなあ/行くとどうなるんだろう と思っている
人にオススメの一冊。
■目次
プロローグ
第1章 ロードレーサーという乗り物
第2章 100kmを走る
第3章 200kmを走る
第4章 300kmを走る。そしてもっと遠くへ
第5章 ロードレーサーをもっと楽しむ
あとがき
■体裁
ソフトカバー、B5版、無線とじ、巻頭カラー4P、本文192P
■感想
自転車で遠くへ行きたい。/その「遠く」とは物理的な距離だけではない。
ロードレーサーはあなたの心も「遠く」へ連れていってくれるはずだ。(プロローグより)
う~ん、かっこいい。
いわゆる初心者向けの自転車エッセイですが、たいへん上等です。
初心者向けの雑誌やムックで多い構成は、冒頭に「自転車のジャンルわけ
(MTBとロードとミニベロとクロスバイクと)」があって、「各部パーツの紹介」があって、
「ショップへ行ってみよう」があって、「ウェアやメットやライトや鍵の紹介」があって、
たまに「サドルにまたがって膝小僧から垂球ぶら下げてポジション出し」なんかの写真があったりして
(え~と、これ、初心者むけ…?)、「各地で参加できるレースやイベント紹介」があって、
「では行ってらっしゃい」というものが多いように思う。昨今この手のカラー写真が多くて見栄のいい
雑誌やムックはいろいろと出版されています。
そこから先の、どこに行ってどんなふうに楽しむかは個人の自由ということで、雑誌には詳しい記述が
ないのが普通だけど、この本は逆です。
「ショップ選び」とか、「ウェア選び」とか、「クルマとの共存(追い越され方)」とか、
「サイクリングイベントに参加しよう」とか、「輪行しよう」とか、ネタは前述した初心者向け雑誌と
同じなんだけど、内容がいちいち個人的で、ゆえに具体的かつ明快で分かりやすい。
このあたりの個人性/具体性が、凡百の雑誌なんぞと本書とを分ける点でしょう。
ありそうでなかった種類の本です。
テキストが多くて文中の写真もモノクロという、ぱっとしない見栄えなのに(失礼!)増刷されて、
続編も出版されています。好評のようです。
先ほど河出のホームページを見ると、2万部突破とのこと。おお。すごい(のか?)
本サイトで名著の誉れ高いバックデータ満載の、ふじいのりあき著『ロードバイクの科学』が理系の高峰なら、
本書は文系方面から具体性を攻めているといっては大げさか。大げさですね。
わりと淡々とした記述で声高なところのない文体ですが、それがいい感じ。
あと、ブルベについての詳細な記述も本書の特徴の一つ。
(夜間走行でブルベの参加者が)…向こうから走ってくるのに遭遇すると「あれは一体何だ」と
びっくりするほど明るい。対向車にあんまりびっくりされて逆にあぶないんじゃないかと思えるくらいだ。
ハンドルバーにつけたライト、ヘルメットにつけたライト、フロンとホイールのハブにつけたライトという
他の乗り物にはない縦に三つ並んだライトを煌々と光らせた「謎の高速移動物体」といった風情だ…
400キロとか、600キロとか超長距離を走る「距離感の壊れた人たち」の話も魅力的です。
あとがきで筆者はこのように述べています。
(本書では)…体験したこと、感じたこと、心の中に残ったことをできる限りありのままに、
自分の言葉で書いたつもりです。この本を読んでくれた皆さんにそれが届いたならばとてもうれしい
のですが
いやどうして、きちんと届きましたよ。春になったら、いっちょう出かけますか。。
続編『ロングライドにでかけよう』と合冊して文庫か新書に入れてください、河出書房新社さん。
その際写真はぜひカラーでお願いします。
価格評価→★★★★★本って安いですよね
評 価→★★★★★面白かったです