トライアスロンのメッカ、宮古島の隣の隣にある島が、下地島。ひとつ手前の伊良部島とは6本の橋で結ばれていて、殆ど陸続きと言っていい。宮古島と伊良部島の間はフェリーが結んでいる。所要30分、高速船なら15分。港から伊良部島を横切るおよそ4kmの道を西へ走れば、川と見まごう程狭い海峡の小さな橋を渡って下地島に着く。
より大きな地図で 下地島 を表示下地島には巨大な空港がある。ボーイング747だって余裕で降りられる長い滑走路を持っているが、この空港で飛行機に乗り降りすることはできない。なぜならここは、パイロットの訓練を行うための空港だからだ。
この島にあるのは、空港と、訓練のためのフライトを支える職員・整備士らが居住する寮や住宅、訓練生や教官らが宿泊する施設など。あとは見事になんにもない。隆起珊瑚礁の作る風景と、エメラルドグリーンの海、島の西側に林、およそ200年前の大津波で運ばれてきたという高さ12mの大岩、色鮮やかな蝶、島の南にはサトウキビ畑、そしてジェット機の爆音。それだけである。これが航空ファンのリゾートアイランド、下地島である。地味だ。
それでは覚悟を決めて行くとしよう。なに、ケータイだってちゃんと繋がるし、伊良部島には病院もあるし、コンビニだってある。2、3日ぐらいどうってことはない。
自転車を持参する場合、フェリーに乗る前に輪行袋にしまった方がいい。航送の場合自転車も車両甲板に置かれるが、航行中盛大に波しぶきを被る。それに高速船では航送ができない。手荷物としてキャビンに持ち込むのが一番だが、フェリーの場合乗船口が車両甲板で、キャビンへは狭くて急な船内階段を通らなければならない。輪行袋を持っての上り下りはほぼ無理だ。つまり、輪行袋には波しぶきを被ってもらうことになる。
宮古島で宿を取って、下地島に日帰りで行く場合、宮古で自転車を借りて(宿でレンタサイクルを借りられる場合もある)フェリーで航送して行くという手もある。
伊良部や下地に宿を取っている場合は、宿のレンタサイクルを借りた方が何かと便利だ。
宮古島、平良港から船は出る。港の正面に浮かぶ島が伊良部島だ。
船会社は二つある。
はやて海運
http://www2.miyako-ma.jp/hayate/宮古フェリー
http://www4.ocn.ne.jp/~feri/乗船券は片道でいい。帰りは別の船会社の方が都合がいい場合もあるから。二つある乗り場を回って、とりあえず時刻表だけは貰っておく。帰りの最終便は18時台、夏期だけ19時台がある。乗り遅れると宮古に戻れない。
離島気分を満喫するなら、フェリーがいい。天気がよければ最高である。
iPodでメロキュアの「1st Priority」なんか聞いて過ごす、これ基本。
船から降りると、目の前には隆起珊瑚の断崖絶壁。斜めに貼り付く激坂。ここを登らないと話は始まらない。とはいえ伊良部や下地に宿を取っている人は、宿からの迎えのクルマに乗ればいい。
坂を上ってしばらく行くと、道が平坦になり、しばらく行くとファミリーマート宮古伊良部店がある。伊良部・下地両島唯一のコンビニ、ちゃんと24時間営業である。島の病院もこのあたりにある。バス停もあるが、バスなんか見たことない。クルマも殆どいない。たまに道の真ん中にクルマが止まっていたりするのだが、これが停車ではなく駐車だったりする。誰もいないクルマがぽつんと道の真ん中に置き去りになっているのだ。
道は西へとわずかに下りながら続いている。先程一気に上がってきた高度を、今度はおよそ4kmかけて降りて行くことになる。
島全体がほぼサトウキビ畑だが、さすがにこの道沿いまで延々続くサトウキビ畑という訳ではない。島の玄関である佐良浜、中核である伊良部、そして下地島空港を結ぶ幹線道路であるため、住宅や公共施設などが道沿いに集まっている。
伊良部の集落を抜け、橋を渡ると下地島。突き当たりを右折すると左に見えるのが「さしばの里」という住居・宿泊施設群。下地島空港の関係者の住宅や、操縦訓練生の宿泊施設などがある。空き部屋は一般観光客の宿泊も受け入れている。伊良部、下地両島には離島らしい個性豊かな民宿なども多いが、飛行機見物に来たなら宿泊はここがお勧め。エアマンたちと同じ釜の飯を食おう。
オーシャンハウスinさしば
http://www.safirabu.com/ここの「訓練スケジュール」のページは要チェック。JAL、ANA両社の訓練部門から直接入ってくる訓練スケジュールが紹介されている。注目は2010年3月、いよいよボーイング787が下地での訓練に入る…ってホンマかいな?(生産スケジュールがイタリアンバイク並みに延び延びになってるのだ)
道なりに進むと再び閉ざされた門の前で突き当たり。ここは空港の正門、ここを右折してしばらく行くと佐和田の浜が見えてくる。海面にいくつも岩が顔を出した入り江である。左折して突き当たりが空港のフェンス、その先は誘導路と滑走路だ。海に突き出た滑走路を囲むように道は続く、その突端がランウェイ17エンド、磁方位170°の方向に滑走路が延びているという意味だ。インターナショナルオレンジの誘導灯がエメラルドグリーンの海に向かって延びている。
航空ファンの楽園。下地島空港ランウェイ17エンドへようこそ!
同じ航空会社の同じ機種でも、毎回降りてくるコースが微妙に違ってくる。シミュレータで訓練を重ねても実機訓練に入ったばかりだと、まだ技倆が安定していないのだ。教官の叱咤が聞こえてきそうだ。訓練生はおそらく汗だくだろう。
車輪が地面に着くと、そのまま離陸操作に移る。ノンストップで何回も何回も離陸と着陸を繰り返す。タッチ・アンド・ゴーと言う。ごくたまに着陸できずに高度を上げて行く機体もあったりする。悪天候などで着陸を中止する場合の訓練だろう。フライトが終われば教官からの細かく厳しい指摘が待っているのだろう。
さて、あなたが訪れたとき、下地島の天候が南の風・快晴なら、それはとてもラッキーだ。エメラルドグリーンの海の上を、こちらに向かって降りてくる旅客機を見たければ南の風・快晴は絶対条件、これが北の風だと離着陸の方向が逆になる。飛行機は風に向かって離着陸する。
常に風に逆らい、空の高みを目指すんだ。なんてRockなヤツなんだ!最高だぜベイベー!
…とか言ってる場合じゃない。北の風だと逆光側からこちらに向かって離陸、高いところを通り過ぎて、海の上に出て順光になった時は後ろ姿になってしまう。これはがっかりだ!
特に冬場は、そうなる確率が高い。こればかりは運を天に任せるしかない。
さて、そんながっかりなときはさらに空港西側へ足を伸ばすとしよう。クルマも人通りも殆どない、舗装だけは立派な気持ちのいい林間コースをサイクリングだ。今頃の時期はたくさんのリュウキュウアサギマダラが出迎えてくれる。
途中には、国の天然記念物「下地島の通り池」や「帯岩」などの奇景もみられる。
「下地島の通り池」は、二つの池が底の洞窟で繋がり、さらに海にも繋がっている。このため深度によって塩分濃度や水温に大きな差が出るため、潮の干満で池の水の色が様々に変化する。内部の洞窟は絶好のダイビングスポットだ。
「帯岩」は、1771年の大津波で海底から運ばれ、この地に乗り上げた大岩と伝えられている。高さは12m、周囲は60mだそうだ。どんだけでかい津波だったんだか。佐和田の浜で海面にいくつも顔を出した岩があったが、あれもその時のものだという。実は宮古諸島全域にこうした岩がゴロゴロしているのだが、下地島に転がってた岩は空港建設の際にダイナマイトと重機でひとつひとつ砕いてダンプで運び、空港の整地と滑走路北端の埋め立てに使ってしまっため、陸上に残っているのはこの帯岩ひとつだけなのだそうだ。
なるほど、この道はそうした砕石を運搬するために造られた道だったのか。
やがて道は左にカーブして林を抜けると、右手に小さな入り江とごくささやかな浜が見える。頭上をジェット機が通り過ぎる。17エンドの反対側、35エンド側に出たことになる。滑走路は左手の丘の上になる。その先の三叉路は左右どちらも同じところに繋がっている。ここから先はしばらくサトウキビ畑の中を進む。橋が見えてきたら、その先は伊良部島である。
橋の手前で左折すれば、さしばの里に出られる。
橋を渡って左折すれば、佐和田の浜の向こうに滑走路を望める平成の森公園へ行ける。下地や伊良部に宿を取っているなら、午前中はここから飛行機を見物するのもいい。
橋から二つ目の角を左折すれば伊良部集落だ。島を横断する県道90号線で、フェリーが発着する佐良浜に戻れる。佐良浜・伊良部往復と下地島一周で走行距離は概ね25km前後である。
輪行の場合、帰ったらなるべく早く洗車しよう。海が穏やかでもかなりの塩分が付着している。錆びるのはあっという間だ。
それと沖縄の道路はどういう訳か路面のμが低いようだ。特に交通量の多い本島の幹線道路で、舗装が古く轍になっているところはドライコンディションでも危ない。一雨降るとアイスバーンに近い状態になって、発進時派手に空転させてしまっているクルマもよく見かける。駐車車両回避の場合など車道に大きく入り込むときは要注意。
評 価→★★★★★(時々この島で暮らしたいと思うことがある)