購入価格 拾五萬千弐百圓

名車・BromptonのスタンダアドたるM3L, 其の2009年モデルである. 旅行の友として, 買つた. 噂に違はず, 折り畳まれたコムパクトな状態は, 感動的である. 思へば, コムパクトさに感心して, 買つたのだ. 折り畳み自転車と云ふものは, 単に重量が軽ければ良いと云ふものではない. たとえ重量が九㌔㌘だつたとしても, 突起でゴツゴツしていたり, 持ちにくいと, 存外に不便なものとなり, 「さて, 良い天気だ. 今日は輪行でも, しやうかな. 」という気概を, 削いでしまうのである. 寧ろ, このBromptonのやうに, 車重が拾弐㌔㌘もあつたとしても, 箱型に纏り, コロコロと転がせたほうが, 遥かに快適で, 便利である.
このBrompton, 隅々まで計算され尽しているやうで, 兎に角完成度が高い. その為, 素人が下手の横好きで改造などしやうものなら, 途端に竹箆返しを食らう. 即ち, ブレエキレバアを前方に出せば, 折り畳み時にフオークやホイルに干渉. コロコロをシヨツプオリジナルの大径に変更せしむれば, 自立が不安定と成る. 一時が万事, 「こちらを立てれば、あちらが立たぬ. 」 この調子であり, 改造を目論む者は, 往々にして, 泥沼に嵌ることが多いやうだ.
思ふにこの自転車, 個々のパアツを, より良い物に交換する(ベタアにする)ことは, 一向に構はないが, 所謂「カスタム」を愉しむ場合は(チエンヂする), 周到な計算が必要となる. Bromptonのカスタムに於いては, 「走行性能」だけでなく, 「可畳性」及び「可搬性」といふ, 異なる三つのデイメンシヨンの, 妥協点を探る必要がある.
さて, 走行感であるが, 吊るしの状態では, 些か鈍重な印象を与える自転車である. これは, 恐らく, 純正のタイアと, ペタルのせいであらう. 純正黄色印ブロツクタイヤは, 即刻シユワルベ・コジヤツク等の, 軽量スリツクに換えるべし.
また, 乗車前に, リムテエプの交換が必須である. 細く青い, 貧弱な純正リムテエプは, うねうねとリムを這つており, 百キロ程度の走行で役目を終える. これは, 例えば仏蘭西ゼフアル社の, コツトンリムテエプなどに換えれば良からう(なお, 付属のゼフアル社ポンプは, 口をひつくり返せば仏式となる. 必要に応じて, 仏式バルブのチユーブに交換しておくのも良いだろう).
純正ペタルも, ちよつと坂を上れば, 「ベキベキ. キシキシ. 」と, 今にも壊れさうな悲鳴を挙げる. ペタリング時のBromptonの異音は, BBではなく, ペタルが発するものである. 早速, 我が国の「三ヶ島ペタル」(FD-6)に交換しておこう. ロンドン子も, 所沢の工場で生産されるこのペタルの高剛性振りには, さぞ驚くであらう. それでいて, しつかり折り畳みなのであるから.
リムテエプ, タイヤ, ペタルを交換すると, ぐつと走行性能が増す. 改造を好まぬ愛好者であつても, この三点の改良は考慮されたし.
走りは, 基本的に鈍重であり, 軽快とは云ひ難いが, この可搬性は大きい魅力であるし, それなりに走る. 吊るしの状態で百㌔走は, 到底無理であるが, 四十・五十㌔は十分に乗れる距離であらう(私は, 初乗りで百㌔走つたが, その夜, M3Lは拙宅の玄関にて, 突然, 「ぷしゅぅぅぅぅぅぅ・・・・」と, 放屁するかのごとく, パンクした). 「すみません. 私は, 百㌔も走れないのです. 」と音を上げているかのようであつた. なかなか, 愛嬌のあるやつである.
変速であるが, スタアメイ・アアチヤア社の内装三段ハブは, ギア間が離れすぎているため, 矢張り不便である. 低速側でも, ちよつとした坂道はなんとかなるとしても, 峠は, 絶対に無理である. ロンドン・ブリツヂは登れても, 渋峠は, 無理.
この自転車で百㌔乗らうとか, 峠も越えやうと思ふのであれば, 大規模な改造は, 避けられぬ. それには, 大金が掛かる. この自転車は, ほぼ吊るしのまま乗るか, 徹底的に改造するか, 二者択一なところがある. 中途半端な改造は, おすすめしない. 心の弱い者, 生活に窮している者は, 決して手を出してはならぬ. あのmascagni氏が, 以下のコオナアでいくら費やしたか, 計算してみたまへ.
https://cbnanashi.net/cycle/modules/newbb/viewtopic.php?topic_id=4537&forum=49勿論, 私もまた数多くの改造を加へている. あれを試し, これを試し, 試行錯誤を重ねている. 個々のパアツについては, 追々レビュウする予定であるが, この自転車, 兎に角大変な金食い虫である. にも関わらず, 弄るのが楽しくもあるので, 困った自転車である.
価格評価→☆☆☆☆☆ 改造を始めると, ちよつとした地獄である
評 価→★★★★★ 弄るのが楽しくて仕方ない.