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日本一の豪雪地帯、信州と越後の県境に接する広大な長野県栄村の坂道を堪能する、真夏の祭典。
これがサイクリングだ!と思わず唸りたくなるようなサイクリングイベント、「グルっとまるごと栄村」が、今年も8月2日に開催されました。今年が4年目ですが、私は3回目の参加です。
たった110kmほどでスタート地点に戻ってくるだけなのに、累積標高差は約2700mに達します。というわけで、平坦部がとても少ないこのルート。競技者には格好の山岳練習コースになり得ますが、私のような単なるサイクリストにとっては、ほとんど修行のようなコースに変貌してしまいます。こんなルートですから、自転車も当然、ロードバイクが大多数を占めます。
強烈な太陽が照りつけ、気温がどんどん上昇した昨年とは違い、今年は雨のちくもり、となりました。栄村のスキー場をスタートし、千曲川まで下り、しばらく集落を走ります。地元の人々、お年寄りやお父さんお母さん、小さい子供たちが声援を送ってくれます。その声援が途切れた辺りから、上りが始まりますが、しばらくして、雨が降り始めました。
しかし、雨はそれほど強くはならず、むしろ気温が急上昇しないので、体は楽です。でも、下りが非常に危険。鉄網のフタを通過するときには、細心の注意が必要です。
その越後側の山麓がスキー場で有名な、苗場山、怪鳥が翼を広げたような鳥甲山。それらの山間を、小雨の中、ひたすら上り、下ります。
「いや~、マジこれは、もう、シャレになりませんよねぇ」
などと言い合いながら、上っていく参加者たち。
「あれ、去年も出てましたよね?その自転車、おぼえてますよ!」
なんて言われて話が弾んで息も荒くなったり。
「これ、やばいっスよねぇ?毎年出られてるんですか?」
「きついっすねぇ。私は3回目ですけど、このルート、一人で走ったら遭難しちゃうかも知れないスね」
「そーっすよねぇッ!」
「自販機が無いし、クマのうんこが道路に転がってますしねぇ」
上りはスピードが出ていないので安全に会話ができますが、まさにこれが、山岳サイクリングのいいところです。
全く息も乱さず、悠然と登坂する若者発見。何故かスタンドが付いている廉価なロードに、普通の運動靴で乗るその若者のアキレス腱は、長距離ランナーのそれに見えました。
「もしかして陸上やってるの?」
「あの、クロカンスキーです」
「楽々上ってスゴイなー、地元?」
「はい、高校まで自転車通学で毎日50km」
まさしく伸び盛り。エンジンが違うとは、このことです。その後、おにぎり地点で錚々たるマシンが地面に寝かされている、その中で、一台だけスタンドで立っている高校生の廉価なマシンは、神々しくさえ見えました。
登坂中、masiの真っ赤なアルミフレームの人と並びました。シュパーブプロのブレーキがついています。
「あれ、シュパーブプロじゃないですか」
「そうですねぇ~。スプリング内蔵で長持ちしますね」
「ボクもロードで20年以上使ってますけど、全然大丈夫ですよ」
「あーそうですか。クランクも昔はシュパーブ使ってたんですけどねー」
「へぇ~、私もです」
グレーのデュラWレバー発見。
「ようやく見つけましたよWレバー仲間!」
「あー、これ8段なんですよねー」
苗場山登山口へ至るオプション登坂コースですが、登坂した後のガタガタのコンクリ道路の長い劇下りを考えると、気が重くなります。昨年はここで非常に高価なカーボンホイールをブレーキ熱でダメにした人がいる、などと噂される、というとんでもない下りです。
しかし、連日の降雨のため、状態が悪いということで、このオプションは中止となりました。この登坂の入り口で係員の説明を聞いた時には、「えっ、行けないの?」とつぶやきましたが、後ろの男性も同じことを言っていました。しかし、その言葉には明らかに安堵の色が見えました。残念というか、安心というか、そこを同時に通過した数人は、お互い同じような心境を共有したような気がします。これで、登坂標高差は330mほど少なくなりました。
昼飯を受け取り、一緒に参加してくれたF君と一緒におにぎりを食い、しばしの休憩です。見渡すと、さすがにロードが圧倒的多数。MTBや、私のような小径車は圧倒的少数派です。LOOKやTIMEなど、すごいマシンがたくさん見られますが、チネリ・スーパーコルサや、ANCHORのスチールバイク、そして件の高校生のスタンド付き廉価ロードなんかを見ると、なぜか心が和みます。
さあ、あと40kmと少しです。まだまだ登り下りは続きます。
エイドステーションが充実しています。また、地元の方々、おじいちゃんやおばあちゃんたちが待ち構えて差し入れてくれるバナナやきゅうり、トマトの旨さが、身にしみます。素晴らしいところです。観光の対象ではなくて、まるで自分の第二の故郷のような感覚を覚えます。今年もここに帰ってきた。そして今年もこの山岳路を走ることが出来た。自転車サイコー!
途中、葬列が出現しました。葬儀会場の公民館からお墓まで、葬儀参加者と坊さんが行列を作り、僧侶が何かを唱えつつ、ゆっくり歩いています。最後尾のおばさんが、
「来年も来てね。来年はここにいるからね」
と。いつもこの辺で私設エイドステーションを出していたおばさんなのではなかろうか?今年はお葬式があって、出来なかったけど、来年はエイドステーションやるからまた来てね、ということだと理解し、
「もちろん、絶対に来ますよ!」
とこたえました。
千曲川まで下りきって、最後の登坂はゴールのスキー場の裏手から上ります。
「オプションの坂、行きますか?」
「いえ、いいです」
「行きます」
さすがに、ここまで来るとヘロヘロになっている人も多く、最後の坂を選択しない人もいます。
いきなりコンクリートの荒れた道です。250mほどの標高差ですが、こんな坂沿いに、どこまで行っても、棚田が続きます。これは見事です。
そしてついに、ありえないような激坂が現れ、リズムではなく、筋力での登坂を余儀なくされます。一度止まったら、二度と走りだすことができない急こう配。F君は
「いや~、あそこは心が折れそうになりましたよ」
と。
しかし、この短かい超激坂を越えると、ピーク。あとはスキー場に下って、それで終わりです。
・・・富田勲の作曲になる、新日本紀行。栄村の道を黙々と上っていると、富田の音楽が聴こえてくるようです。
地方の農家や伝統商工業の担い手たちは高度成長期の発展から取り残される。急激な変化の影で人と人のつながり、土着の文化、風景を失っていく。今年も田んぼをやるんだ、と、黙々と働く人々がいる。ホルンが咆哮し、永遠の時の流れを刻む拍子木の毅然とした音色。緩やかに流れ、終止形に至らないかのような音は、覚醒を促します。
「2011年7月までにアナログ地上波は停波します」などという一方的宣告が当局から為されるも、栄村のような山間部で電波の周波数がアナログよりも高い地デジの電波がすんなり届くはずもなく、有線TVでも敷設しない限り、当然、地デジ難視聴地域となってしまうことでしょう。画が綺麗で情報量が格段にアップする地デジは全く大した技術ですが、一体、これでどこの誰がいい思いをする構造になっているんだか?技術はニュートラル。しかし、この技術を運用する連中がアホだと、ますます地方が疲弊し、独自の文化が過去のものになっていってしまうのでしょう。
それにしても自分は、栄村の「サイクリング」を、いつまで走れるのでしょうか!?
来年も小径車で走るつもりです。
※GIOS小径車で参加のこの方のBLOGが大変参考になります。
http://step22.exblog.jp/10063382/#10063382_1※前日は、隣の野沢温泉村のスキー民宿「山ぼうし」に毎年泊りますが、手間のかかった、しかし素朴な田舎の味わいは、凡百の絶品料理とは一線を画する、かなりの出色モノです。
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