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BICYCLE CLUB キング・オブ・ザ・峠


 
AstorPiazzolla  2009-4-7 19:41
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BICYCLE CLUB 『キング・オブ・ザ・峠』

「峠」と聞いて、何を連想するだろうか?
ある人は、ロードトレーニングで越えるいつものルートを連想する。
ある人は、下りで路肩の砂に乗ってコケてしまい、ひどい怪我を負ったあの「峠」のことを思い出す。
またある人は、夏休みの自転車旅を連想する。

真夏のサイクリングの旅。ジリジリと照りつける太陽の下、汗をボタボタとたらしながら、上っていく。勾配が少し緩くなっては安堵し、木陰に入っては安堵する。自分の遅さに呆れながらもいつか、それにも慣れてしまう。ついに鞍部に到達し、止まってみる。県境の道標を見つめ、しばらく自転車にまたがったまま立ち尽くす。傍らの朽ち果てた木製ベンチに腰掛けて、ボトルを手に一休み。すると、脇の登山道から降りてきたハイキングの初老の男性が声をかけてくる。

「こんにちはー。おおーっ、自転車ですか、いいですねぇ」
「はあ、どうも」
「いや私も若い頃、散々走り回ってねぇ。新宿や上野から夜行に乗って輪行でさぁ。えっへへっ」
「へぇーそうですか。ボクも輪行、時々やりますよ」
「私の自転車なんて、そりゃ今みたいないいモノじゃなかったんだけどね。ブレーキも良く効かなくてさ。山もいいけど、自転車もいいよねぇ」

バイクラを立ち読みすらしなくなって久しいが、先月、久々に書店で立ち読みしていて思い出したことがある。2年ほど前のALPSLAB routeとのタイアップ企画 「キング・オブ・ザ・峠」のことだ。あれってどうなったんだろう?
というわけで探してみたら、ちゃんと存在していた。

 http://www.sideriver.com/bicycle/king/velo_king_king.html

 > 大好評をいただき、多くのヒルクライムルートがノミネートされた本企画。
 > ツワモノ揃いの峠から選考委員が悩みに悩んでキングと呼べる峠を決定する。
 > 栄えある日本一の座はどの峠に……!?

大賞は、・・・何というか、「乗鞍」、である。
随分とわかり易い結果というべきなのだろうか。それとも昨今の自転車ブームとは、つまりこういうことなのだろうか。また、関東コースでは、危険な金精トンネルを含む奥日光ルートが受賞していたが、審査員は、あのトンネルの怖さを知っているのだろうか。極めて狭い路肩と飛ばすクルマ。ダンプの大音響に気がおかしくなってしまいそうなトンネルだ。かつて走ったとき、私はそう感じた。あのトンネルに関して何のコメントもないのは、如何なものか。審査員が誰なのか、WEBではわからないのだが、ちゃんと実走したのか聞いて見たい気がした。あの程度の恐ろしさのトンネルは無数にある、と言ってしまえばそれまでだが。

さて、結果はそれとして、一つ一つのコースを見ると、これがなかなか、結構楽しめる。投稿者のコメント欄があるのだが、投稿者がその峠のことをよほど気に入っているのだろうなあ、と思わせるコメントが数多くある。走った本人が書いたコメント故、実感がこもっていて面白い。また、第三者がコメントを書き込む欄もある。

「このコースはバイクや車が多く危ない・・・」 
「菩提峠下のゲートから葛葉の泉まで桜沢林道崩落の為現在通行止めらしいです・・・」
「有り得ないルートです。道が間違っているはずです。・・・」
といった、有用なコメントがあったり、
「私め、奥美濃中心に密かに峠超えに日々練磨しております。但し、45になり足腰心肺機能が心配なこのごろ・・・行ってみたいと思いますではでは」
などというコメントもある。そして、
「37年前に初めてチャレンジしました。それまでにもたくさんの峠を登ってきましたが、この大きさに圧倒されました。」
というコメントを見ると、この峠、そんなにすごいのか!?などと勝手な妄想が膨らんでしまう。

300件以上ある応募コースを順番に眺めていくうちに、面白い書き込みを見つけた。相当な峠の猛者、もしくは峠好き、さらに言えば、「峠とは、止揚の場である」(*1) とでも言い出しかねない、ランドナーによる輪行にこだわっていそうな、相当なベテラン旅行サイクリスト?の、この猛者氏が、所々で書き込んでいるのである。全て見たわけではないが、これが大変面白い。

ところで、深田久弥氏の著作がきっかけで広まった「百名山」登山ブーム。中高年の登山ブームとともに、「百名山」登山も大変なブームとなり、ますます盛んである。起伏にとんだ地形と縦横に走る河川、そして極めて高い森林率を誇る日本には、数え切れないほどの山が存在する。そして「百名山」とは無縁な、しかし素晴らしい山が、それこそ数え切れないほど存在するのである。山名がついていて、登山道が存在するような、普通に登ることが可能な山の数は、数千を下らないのではないだろうか。

が、しかし、「百名山」。深田久弥氏を「百名山」故、深田先生と呼び、ひたすら有名な「百名山」を目指す夥しい数の人々。そして、その中でもさらに有名な特定の山はオーバーユースとなり、削れ、崩れる。時間スレスレの行動を旨とするかのような観光バス登山者も大挙押し寄せ、騒々しい、無粋な山に変貌して行った。この問題は様々なところで論じられているが、極論すれば、「百名山」というキーワードに囚われた瞬間に、山のよさ、懐の深さを、じっくり味わう山行ではなくなってしまうのである。旅行会社的には儲かる「百名山」、メディア的にも儲かる「百名山」。多分、「百名山」を選定した深田久弥氏は今頃、天国で後悔している事だろう。

しかし、「キング・オブ・ザ・峠」にそんな心配は無用である。登山のような大規模なブームにくらべれば、自転車で峠フィールドを行く人数など、高が知れているし、所詮、ほとんどオンロードだからである。(もしMTBが百名山よろしくシングルトラックを開拓しまくり、大挙押し寄せたら、大変な問題となろうが、山中で見かけるMTBの数など、実は無いに等しいというのが現状である。) むしろ国道レベルの峠フィールドでの問題は、高原を行く観光バスの相変わらず汚い排ガスや、クルマで訪れる者がさりげなく捨てるごみのほうである。バスの排ガスが汚くないのは都内のみであり、地方では相変わらず旧式車両故、黒煙撒き散らし状態のバスが少なからず運行している。栃木県のJR日光駅始発の東武鉄道の定期バスは時々すさまじい黒煙を上げて奥日光に上って行くそうだが、その奥日光地域では環境保護のために低公害ハイブリッドバスを運行しているのだという。これでは悪い冗談ではないか?

そして、「キング・オブ・ザ・峠」。
バイクラは、「キング・オブ・ザ・峠」を、手垢にまみれた「百名山」のノリで企画したのではないだろうか。どこの馬の骨かわからんヤツではなく、他ならぬバイクラの厳正な審査で決定した峠の王様。これこそが正真正銘の「峠のキング」だ!と。

さて、件の猛者氏は、キング・オブ・ザ・峠の選定結果について、何か不満があったのかどうか知らないが、
「というわけでキング・オブ・ザ・峠の結果も、百凡なそれになってしまいました」
などとあちこちで書き込み、毒づいている。しかしバイクラの意には反するのだろうが、キング・オブ・ザ・峠の特定のルートが、受賞していることには、もちろん、大した意味などあるはずもない。ましてバイクラが特定ルートを授賞することにも、意義はない。バイクラが特定の峠を授賞したことではなく、様々な人が推薦する様々な峠の情報を収集し、その情報を誰でも閲覧可能な状態にした、ということにのみ意義があるのである。

バイクラはのたまう。

 > ツワモノ揃いの峠から選考委員が悩みに悩んでキングと呼べる峠を決定する。

大きなお世話である。

そう、件の猛者氏が、ある峠のところで書き込んでいた、次の言葉、

「こうして見てみると、自分にとっての峠、が大切なんだなあとふと思う。すごい峠道はいくらでもある。だが、あれこそがオレにとってのキング・オブ・ザ 峠。それで十分じゃないのか?と思えてきた。」

に止めを刺すのである。創刊当時の高い志は何処へやら、自転車バブルに舞い上がって踊るだけの今のバイクラには、そんなことに考えが及ぶだけの思慮深さはなさそうではあるが。

自分にとって最高の峠は、どこにあるんだろう?最高の峠って何だろう?何で峠を走るんだろう?・・・そんな風に思いをめぐらせ、キング・オブ・ザ・峠の情報を参考にして自分にとって新たな峠を目指すもよし。そして、無名の峠を地図から探し出して走るのも、中学生のころ無謀にも友人とママちゃりで挑戦して、ついに到達したあの峠に再び行くのも、また愉しいのである。そうすれば、いつか本当に、「峠とは、止揚の場である」などという瞬間にも、もしかしたら出会えるかもしれない。


評   価→★★★★☆(データベースとしての価値のみ)


*1) 「サイクリスト」の道標的月刊誌であるニューサイクリングの1979年頃の号で、御子柴慶治という方が4ページに渡って『峠』を論考している。その中で氏は次のように記している。

「峠」という字は、この一字でもって「山」と「ふもとからふもとへの道程」を調和させる。はじめのふもとでの迷いや不安。山への回帰(民族的かも知れぬ)。完結を求める旅。人。人間。峠はそれらを調和する。(中略) 僕は期待をこめてこの「調和」を「止揚」と書きたい。『峠とは事物を止揚する空間である』と書きたい。


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