旅で出会った自転車乗り

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　自分探しというわけでは全然ないのだけれど、数年ほど旅をしていたことがあります。そのときは自転車にも乗っていたけれど、どちらかというとオートバイのほうが好きで、鹿児島から北海道まで行ったりきたりしていました。
　
　バイクのりの聖地、北海道。
　いまでは全盛期に比べると驚くほど旅人の数も減っているそうですが、僕が旅していたころはそれでもまだ大勢の旅人に出会いました。
　一般的な感覚で言うと、会社や学校の休みを利用して１週間～１ヶ月も旅をすれば、長期間なのかもしれませんが、ずっと旅尽くしで感覚が鈍ってくるのか、「ひと月なんだー、へぇ、短めだね」という反応。そんな人たちばっかりいるようなキャンプ場を転々としていました。

　そんな中で出会ったのがこのおじさん。当時で４０台前半だったかな、とにかく自転車の積載量が半端じゃなく多い。自炊道具一式はもちろんのこと、テント二つ、ほとんどの修理をこなせそうな勢いの工具の数々。


　聞くと、各地を渡り歩きながら登山するのがメインの旅だそうで、長旅のトラベラーにありがちな自慢話をするわけでもなく、楽しい話満載の人でした。

　大体どのくらいの荷物を積んでいるんですか？と尋ねると、図ったことはないけれど、６０キロはくだらないと思う、とのこと。
　一日の走行距離は５０キロも走れれば御の字とのこと。旅で出会った人の中でも、かなりインパクトのある人物でした。



価格評価→★★★★★(出会いはプライスレス）
評　　　価→★★★★★(いろいろ学びました）
＜オプション＞
年　　　式→１９６５年式くらい？（人が）
カタログ重量→　g(実測重量約８５Ｋｇ

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せっかく2009年上半期にノミネートしていただいたレビュウなので、もう少しツッこんだ内容、および追記と訂正をしておこうかと思います。

上に書いた彼の名前は、独活山宇宙太（自称）。
自称といいますか、自転車に限らず長旅をした経験のある方ならご存知だとは思いますが、自称他称の差はあれど、大抵の旅人はキャンパーネーム（以下CN）と呼ばれるニックネームで呼び合うのが一般的です。少なくとも、僕が旅をしていた数年前はそうでした。
旅の始まりはみな本名で自己紹介するものですが、同じキャンプ場に連泊するような人ならば、あっというまになにかしらのＣＮをつけられてしまいます。
旅超初心者で米の炊き方を知らなかった彼はライス君と命名され、なんとなく油ギッシュな顔をした青年はゴキちゃんなどと呼ばれ、あるいは、酒を飲みすぎてリバースしてしまった子はゲロ子（かわいい女の子なのに）などという不名誉なＣＮをしょわされる、といった具合でした。
独活山さんも元は違うＣＮだったのかもしれませんが、なにしろ僕が知り合った時点で旅歴10年以上のベテランだったので、もしかすると、過去に不名誉な、もしくは平凡な（髭ぼうぼうだと「熊さん」などとネーミングされた人は山ほど存在する）ＣＮから改名したということは充分ありえることですが。

観光地を巡ったり、各地の名物を食べ歩くのが目的ではなく、登山をメインに旅をしている、あえてジャンル分けするならば山系旅人の彼にとって、自転車走行時の快適性は二の次なのか、はたまた結果的にそうなってしまったは謎です。が、登山予定がないときはおおむねキャンプ場で次の計画を練ったり、のんびりしていることが多い人だったので、いつもぼんやりしながらギターを弾いたりしていた僕などは彼と話す機会も多くなります。
氏の話はいつ聞いてもとても楽しく、また旅の先輩として勉強になることも多々ありましたが、決して自発的にこんな所に行った、こんなことをした、といった自慢気なエピソードなどはなく、なんとなく話の流れだったり、こちらから質問したときに答える、そんな好感の持てる人でした。

ある日、テントの前に張られたブルーシートの下で、なにやら作業する彼がいました。そこで初めて、彼の荷物がなぜこれほど多いのか、その一端を垣間見たのです。
そのときの作業内容は、あまりの荷物の多さにキャリアの一部が破損してしまい、その補修をしていたのですが、広げられた工具の数々、まあ出ること出ること。
プライヤ・ニッパ・レンチ各種・パイプカッタ・チェーンカッタetc,etc……
補修用の予備パーツもさることながら、パンクしてその用をなさなくなったチューブもどっさりとあり、それをキャリアの補強材として利用する生活の知恵、もとい旅の知恵などもふんだんに持ち合わせてらっしゃる。
それにしても、携帯性よりかは作業効率だとのことで、工具類はほぼ皆さんが自宅作業で使用するようなサイズのものばかり取り揃えてあり、なるほどこれじゃ荷物もあれだけになるわけだ、と納得したわけです。
そのせいでキャリアが壊れて本末転倒だよね、などと笑いながら話してくれましたが、山に登るときはともかく、登山口で降ろしてしまえる荷物が重かろうがかさばろうが、彼にとってはたいした問題ではなかったのかもしれません。

さて、訂正事項があります。上で、荷物の重量は60kg以上、と書いていますが、追記するにあたり、当時の記録をひも解いて確認したところ、なんと0,1t超であることが判明しました。ひゃ、百kg。

思い返せば、当時400ccのツアラーオートバイに乗っていた僕でさえ、大して多い荷物ではなかったにもかかわらず、40kg積んでいたと記録しているので、60程度では写真のような状態にはならないでしょう。
おおよそ無造作に積んだとしか思えない外観にしか見えませんが、彼曰く、重量バランスを考えた理想的な積み方になっているのだそうです。

自転車自体にもかなりの補強が加えてあり、総重量はおおよそ120kg以上。250ccクラスのオートバイを人力で移動させるなど、おおよそどれだけマゾなのでしょう。そういえば、登山家という人たちも傍からみればドＭにしか見えないわけで、案外おかしいことではないのかもしれません。たぶん違うと思うけど。

さて、長文になったついでにちょっとしたおまけ話をして終わりにします。
独活山さんのテントの中で、彼と、もう一人、旅を始めて間もない女の子とくだらない雑談をしていました。僕はやや遅れてその輪に入ったのですが、彼がこう訊ねてきました。
「そういえば誕生日っていつ？」
それに答えると、二人して息を飲んだのがはっきりとわかりました。
一呼吸置いて女の子が
「私もおんなじ日なの！」
と言うので驚いているとさらに
「今、君が来るまでその話をしてたんだけど、俺も同じなんだよ」
という返事に、偶然とはいえ、３人とも歳は違えど同じ月の同じ日に生まれていて、しかもほぼ同時にその事実を知ったことに、これはすごい確率だよね、としばし興奮を隠し切れなかったのでした。

余談に余談を重ねてしまいましたが、一応自転車関連といえなくはない、しかもJOKEスレッドなので、話がいささか脱線してしまったことをお詫びします。
こんなごく一部の旅人たちの中でもさらにコアな部類に入るかもしれない、そんな変な経験談ということで、笑って読み飛ばしていただければ幸いです。

価格評価→★★★★★（過ぎた日は遠い花火ではない……）
評　　　価→★★★★☆(この手の話を書くと、また旅したい衝動に駆られるので個人的な心情でマイナス）