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TBSテレビ・ディレクタ疋田智氏のblogである。先般の道交法改正の時は大変重要な役割を果たした。2008年もmelma!メルマガ・オブ・ザ・イヤー(スポーツ部門賞)を受賞している。
このblogの346号は大いに気になった。少々長いが、引用してみる。
(前略)
> ■「Lサイン」は有効だろうか
>
> 実は、先日、このメルマガの読者Hさん(個人的には知らない人です。あり
> がとうございます)から次のようなメールをいただいた。
>
> 車道右側通行の自転車は、ヒキタさんもご指摘の通り、本当に迷惑で困る。
> 迷惑なだけでなくリアルに危険だ。
> ヒキタさんは『すれ違いざまに罵倒せよ』とか言うけど、そんな恐いことは
> できない。
> ついては、そういう人々に何らかのメッセージを穏便に送れないものだろ
> うか。
> 私が提案したいのは『Lサイン』というものだ。
> すれ違いざまに右手の親指と人差し指でL字型を作り、ビシッと相手に見
> せつける。
> LはもちろんLeftのLだ。『自転車は左』というメッセージである。これがサ
> イクリストの間に定着すれば、一大ムーブメントになるのではないだろうか
> 。
>
> というような話。これ、けっこうグッドアイディアのような気がするのだよ。
> 車道右側通行の危険きわまりないヤカラは、まことに迷惑至極で、何とか
> したい。でも、何とかしたいのは山々なんだけど、なかなかどうにもならん。
> 実のことをいうと、私としても『罵倒作戦』には限界を感じていたところだっ
> た。
> その場限りで終わってしまうし、要らん軋轢を生むし、そもそも通じない。
> 通じないのに怒りばかりをかう(←これがタマラン)。
> 特に昨今は、忘年会シーズンということもあって、車道右側通行なん
> てしている連中は、酔っぱらっていることが多く、その場合、罵倒でもさ
> れようものなら、逆上して、大音声をあげつつ追っかけてくることがあ
> るのだ。
>
> ■君子危うきに……
>
> 逆上するのはたいていの場合「切れやすい若者たち」というヤツだ。そ
> れっぽい顔つきから、事前にも何となく分かる。
> 通常なら、こっちの自転車の方がはるかに速いんだし、そんなヤカラな
> ど、簡単に置いてきぼりにすることができるんだけど、彼らは酔っぱらっ
> ていることで力のセーブがきかないこと(たぶん)、もとよりアタマがあまり
> よろしくないこと(たぶん)、遵法精神などなきに等しいことなどから、赤信
> 号をぶっちぎり、全速力で追いかけてきたりするんで、追いつかれそう
> になって、少々ヒヤヒヤすることがあるのだ。ちょっと恐い。彼らには失う
> ものが何もないからね。実は先日、似たようなことがリアルにあったりし
> た。
>
> 【この話はここにも↓】
>
http://eco.nikkeibp.co.jp/style/eco/column/hikita/081212_nenmatsu/>
> ということで、罵倒作戦は、昨今、危険になり始めている。
> だからして「L」である。「Lサイン」。
> 私個人としては、もう今日からでも、このサインをビシッと逆走野郎に送る
> ことにしようと思ってるんだが、これに賛同する人、誰か広めてはくれない
> だろうか。
> こういうのはいわゆる「分かりやすい話」「形にしやすい話」であるからし
> て、マスメディアも乗ってくるような気がするのだ。となると、それをきっか
> けとして「左側通行の厳守」をアピールすることができる。
> これは自転車文化にとっては非常にいい話になり得るはずで、H氏も(た
> ぶん)私も(もちろん)大歓迎である。
> というか、本メルマガを読んでいただいているメディアの方々、ここはいっ
> ちょ、いかがすか?
(後略)
ここで考えたいのは疋田氏が『すれ違いざまに罵倒せよ』と言っているということである。
逆走問題だが、これはもう、日本の道路行政の不作為と人々の行動の歴史と伝統(ではなくて因習)が生み出したものである。最近の道交法改正で、自転車が車道を走ることを許されたわけではなく、自転車は昔から車両であり、車道を走行するのが原則だった。1978年の法改正で、指定された歩道を通行することが暫定的に認められたが、その後、自転車が車両であるとの認識が薄くなり、勢い、警察も、「自転車は歩道を走りなさい」などと白バイが拡声器で指導するなどという本末転倒な事態も稀に見られるようになってしまったのである。私自身がやられたこともある。
自転車なんて所詮、その程度のモノ。道路はあくまでもクルマのものであり、自転車が右を走ろうと左を走ろうと、ごく普通の意識で運転しているクルマの人々にとって邪魔であることに変わりはない。そんな車道を偶々自転車で走るのだから、右も左もなかろう。そして、グレた若者やチンピラなどではなく、普通の若者や婦人、老人に至るまで車道の右側通行はごく当たり前の日常風景になってしまい、今日に至るのである。そんなことは疋田氏にとっては、釈迦に説法のはずである。
自転車は左も右も歩道でも、どこでも走る。自転車の右側走行は、かくも歴然とした現状追認の歴史の産物である。私は渋谷で警察官が車道右側走行しているのをつい2年ほど前に見たことがある。そのくらい普通の出来事なのだ。車道の右側を自転車で走る若者や婦人や老人などに、例えば電車内で横柄なサラリーマンがケータイで通話する時に抱いているはずの確信犯的な意識がはたしてあるだろうか?私は、そんな確信犯的な意識を抱く人はまだ、少数派であると思っている。
従って、違法だからといって『罵倒』されたほうは、たまったものではないのである。
自転車に関して放置状態でまともに指導せず、逆に、むしろその方が好都合とばかりに道交法を意図的に曲げて運用してきた当局の積年の姿勢が今の状況の原因なのである。その上で逆走してきた単なる一市民を『罵倒』するというのはいかがなものであろうか?『罵倒』で何か状況が改善されるのだろうか?
勿論、車道右側走行はいろいろな理由から、非常に危険であることは論を待たない。したがって、右側走行はやるべきではない。同様に歩行者に危険を感じさせるような歩道走行もするべきではない。しかし何事も、大人になってからではなかなか身につくものではない。今すべきは、小学生のうちから学校や地域単位で自転車の正しい乗り方を徹底的に教えることである。
何の因果か、スポーツ自転車に長年乗り続けてきて、徹底して車道左側走行にこだわってきた多くの自転車乗りが存在する(ビシッとキメてバカ高い欧州バイクに跨って平気で信号無視するような一部のアホなローディなどは除く)と思うが、そんな自転車乗りは一市民として、逆走している方々に、ちゃんと指摘し説明するという作業をするべきだと思う。疋田氏のblogでは「すれ違いざまに右手の親指と人差し指でL字型を作り、ビシッと相手に見せつける。」と言っているが、相手が逆走してくる危険な事態に遭遇して、すれ違いざまに片手を放して『L字』を提示するなどというのは、それ自体が危険な行為である。
覚醒した自転車乗りならば、はるか遠くの逆走自転車を発見することができるだろう。私は、逆走してくる人がいたら随分手前で路肩に停止して待ち構えて、手を上げてその人に停止してもらう。そして、「右側を走ると、すごく危ないからやめた方がいいですよ」と言うことにしている。場合によってはさらに詳しい説明を求められることもあるし、ごく稀にだが、「うるせえ」などと言われることもあるが、総じて相手の反応は意外なほど穏やかである。私は、ヒマではないが、そうするくらいの時間はあるし、一市民として、また長年、スポーツ自転車に乗ってきた者として、そんな風にすることは義務だとも思っている。
また、歩道をすごい速度で走っている高校生などを見かけたら、「歩道でそのスピードは危ないよぉ~」と円満な声をかけるようにしている。意外にも「すいませーん」とか「わかりました~」とか返事する若者が結構いるのである。少し面倒かもしれないが、このほうが『罵倒』や『L字』のような意味不明名サインよりもはるかに効果的だと思うのだが、いかがだろうか。
というよりも『罵倒』って一体、何なのだ?
馬鹿げた話である。無名の市民を『罵倒』したところで何も変わらないのである。そんなことをしたら、「イイ自転車乗ってるやつが威張ってる」と思われるか、いやな思いをさせてしまうか、怖がられるか、もしくは絡まれるかして、おしまいである。何ら生産的ではない。他の真っ当な自転車乗りまで誤解されかねない。罵倒すべきはロクでもない政治家や、人事ではなく購買案件として派遣労働をモノ扱いするような愚劣な経営者どもである。
さすがに疋田氏も
> 私としても『罵倒作戦』には限界を感じていたところだっ
> た。
と言っているが、その理由が実に情けないではないか。自分はブチ切れるようなアホな奴らとは違うんだ、というオーラが、さり気なく全開である。読んでいるこちらが恥かしくなってきた。
『すれ違いざまに罵倒』などという、何もよい方向に向かわせない、かつ下品極まりない行為を、自転車社会学のオピニオンリーダーと目される疋田氏が実践している(た)とは、まさに意外の一言である。あまりの驚きにこの稿を書いた次第である。
ところで、疋田氏はTBSのディレクタである。全くの推測だが、年齢から考えると年収は1500~2000万円辺りだろうか?通常、会社には就業規則で「兼業の禁止」風な項目があるはずなのだが、氏のおびただしい執筆、取材、講演その他の自転車にまつわる活動(無論、氏の副収入を形成している)は、兼業に当たるのだろうか?TBS内部での扱いはどうなっているのだろうか?勿論、兼業禁止とはいっても通常、休日にやっていることであれば原則的に自由であり、何ら制約を受けるものではない。勤務先で定められた休日に行っていると思うが、もし仮に、そうでないのならば、問題である。あれだけの夥しい自転車関連活動で収入を得つつ、TBSから高額の報酬を得ている、ということは何を意味するか(あくまでも仮定の話)。
TV局の収入は広告枠の販売収入の占める比率が大きい。つまり視聴者が日々購入する商品の値段の中に、彼らの給与分も含まれているのである。テレビの質というのはいつも議論されているが、安易な製作姿勢が目に余る昨今である。偽ミッキーや偽ドラエモンがいる中国のニセモノテーマパークがテレビで紹介されたりするが、パクリが当然の日本のテレビがこれを扱うのだからまさに、二枚舌(いや自虐的)である。疋田氏は、報道局から情報製作局に異動したディレクタとして、きちんとテレビマンとしての仕事を全うしたうえで、自転車に関わっていると信じているが、万が一にも、もしそうでないのならばこの際、自転車文化系ライターとして独立をお勧めする。
評 価→★★★☆☆
http://www.melma.com/backnumber_16703/