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CYCLE SPORTS 2008年10月号


 
AstorPiazzolla  2008-10-24 22:56
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CYCLE SPORTS 2008年10月号

購入価格 ¥620

Qファクター。
これに全く無頓着な人もいれば、逆に非常に敏感な人もいる。「シビアにクリートを設定しないと、ペダリングがスムーズにいかない」、「トリプルクランクは気持ちよく回せない」とか、「Qが5mmも大きくなったら膝が痛くなる」という類の人々は後者である。私などはロードと比べてQが随分大きくなるMTBという乗り物は苦手なので、かろうじて所有する古いMTBにはフロント2枚の安いロード用クランクを何とか無理矢理つけている。単に遊びで乗っているだけなので、これでもよかったというわけだ。

そしてCYCLE SPORTS 10月号である。226ページ 『悪路走行限定! 鏑木裕の山岳自転車日記』では、MTBクロカン系のリアルレーシングの世界について、このQファクタの観点で論考している。引用してみると、

『欧米トップカテゴリー選手のほとんどは、今やフロント2枚仕様の2×9=18段変速で走っているのだ』

さらに。欧米トップカテゴリー選手がフロント3段に消極的な理由として3つ挙げているので要約して引用すると、

① ギヤ比適正化・・・軽すぎる3段のインナー22Tを排除し、28~30×42~44の2段とリアの11~32を組み合わせた仕様が走りやすいと考えている
② 軽量化とトラブル防止・・・2段化による軽量化と、機構簡素化によるトラブル防止
③ Qファクター狭小化・・・広がりがちなQを小さく設定することが可能となる

である。欧米が偉いというわけではないが、なるほど、と頷く話である。これに続けて鏑木氏は自転車を楽しむMTBファンに向けて 『世界のレーススタンダードである2×9は、日本の林道ツーリングに最適だ!』さらに、 『林道は、シングルトラックに比べると斜度が緩くて、激軽なギヤ比は必要ないことが多い。おまけにオイラはQファクターの狭さに常日ごろからこだわっていて、最近のBB軸一体式クランクはQファクターを詰められなくてじつに悲しい製品だ、と嘆いているくらいなのだ』と全開で本音をぶちまけている。

選手のような絶対的パワーを持たない凡人の私でも、フィールドが林道であれば、この話は全く同感である。週末には度々、標高2000m以下の低山を足で歩き回っている私だが、そこで容易に気づくのは、MTB走行にもってこいの林道が日本には本当にたくさんあるということだ。鏑木氏ご指摘の通り、こんなフィールドを2×9のハードテールで走り回ってみたいものである。

ところが実はこんなに素晴らしいフィールドをMTBが走っているのを見かけるのは、MTB仲間が集うような特定の場所を除いて、非常に稀だ。皆MTBで一体どこを走っているのだろうか?スポーツ系MTBの流通台数と林道などでの実走台数が全く不釣合いだと感じる。さらに山中の快適なシングルトラックは全くと言ってよいほど開拓されていない。ただしこちらはタイヤで道を削りながら走ってもらっては困るので、路面の適正を見極めて入らないとマナー違反になるが。多分、自転車に乗る人は山を足で歩き回っているわけではないので、「山を知らない」というだけなのではないか?私の住む北関東の田舎も、すばらしいフィールドだらけであるが、見るのは道路を突っ走るロードばかりである。・・・おっと脱線してしまった。

本題に戻って、鏑木氏のページでは2×9クランクの実例として、TAカルミナ、スペシャライズドのSワークスマウンテンクランクセット、そしてストロングライトの手頃な価格のオクサルツー(OXALE TWO)、を紹介し、Jシリーズの強豪、千田尚孝(せんだ なおたか)選手のOXALE TWOの実戦使用インプレも載せている。そして鏑木氏はアルテグラFC-6650Gを2枚仕様にしてMTBにどうにか装着し、

『この号が出るころには、大滝SDA120kmを、こいつで走り終わっているはず。はたしてどのような結果になっているか楽しみだ(つづけ)』

と結んでいる。結果は、鏑木裕氏が13位、そしてOXALE TWOで走った千田選手は見事優勝を飾った。試しにフロント22 32 44×リア11 12 14 16 18 21 24 28 32の3×9と、フロント28 44×リア11 12 14 16 18 21 24 28 32の2×9のギヤ比をグラフ化してわかりやすくしてみた(下図)。なるほど林道走行ならば2×9の方が扱い易いのではないか?と思えてくる。



2×9の潮流は確実に近づいているようだ。
一日も早く2×9が一般化することを望みたいのだが、そのために的確な提言がなされたという意味で、非常に有意義な鏑木氏のページであった。

ところでQファクターといえば、一般的には、ペダルがねじ込まれる左右のクランク平面間の距離のこと(のよう)である。単なる距離をなぜファクターと呼ぶのか?と訝しく思うのだが、由来を知らない理工系の専門学校生や大学生、勤労者なら迷わず、共振純度を示すQuality Factorの略だろう、と思うはずだ。そして、自転車ならQuality Factorが大きいということはペダル間隔が狭く、クランク軸からサドルトップまでの距離比率が大きくなって、パワーロスが小さくなるようなイメージがあるってことなのかなあ・・・?と、電気回路、電子デバイスや機械、材料などの共振系の純度、すなわち損失の少なさを示すQuality Factorから勝手な連想が膨らんでしまうだろう。

ところが違った。Quack Factorだった。アヒルなどがガーガー(quack)と鳴きながら左右の脚で歩く様子を模したところから来ているらしい。なお、実質的な意味でのQはクリートの位置で大きく変化するのは言うまでもない。

ロードバイクのQはチェンリングが2枚しかないので、銘柄による差こそあれ、もともと大きくないが、それに加えて、クランク面がシューズで激しく擦れるほどクリートの位置を内側にセットする選手が存在する。恐らく、ペダリングに際してその方が自分にフィットしているから敢えてそうしているのだろう。藤野智一選手(現BSアンカー監督)が1998年の全日本選手権で優勝したときのマシンを見たことがあるが、クランクには激しく擦れた跡が残っていた。マシンを道具として使い倒す勝負師のマシンだった。

さて、Qファクターが大きいほどパワー伝達効率が低くなるという説があるが、明快なデータを見たことがない。無論、自転車中心面から離れたペダルという所に力が入力されるのだから、Qファクターが大きいほど、フレームやホイールやタイヤをより大きく撓ませる、より大きいモーメントが発生する。フレームもホイールもタイヤも、完全弾性体ではないから、撓ませるために使った仕事のうち、幾らかは損失となる。したがって、Qが大きければ自転車自体の損失は(人体の効率はさておいて)間違いなく増大する。

問題は、この損失がQによってどのように変化するか、である。Qを140mmから160mmに変化させたとき、ライダーが200Wをペダルから入力しているときに最終出力端子であるタイヤ接地面に伝達されるパワーが0.2Wだけ減るのか?2Wなのか?それとも20W減るのか? 20Wも減るのなら、選手は当然トレーニングを積んで小さいQでペダリングする技術を身につけるべきだが、0.2Wなら、ペダリングしやすいクリートの位置を自由に選べばよいことになる。さて如何ほどか?

かの国で虚業の金融巨人が倒れたことなどはジャンル違いの対岸の火事とばかりに、バカ高いマシンと符丁で語る奇妙なインプレが跋扈する21世紀初頭の日本における「自転車バブル」。こいつに警鐘を鳴らすかのごとく地に足をつけ、身の丈に合った自転車で考えて実践する比類なき名著『ロードバイクの科学』の著者なら、当然Qファクタに関してこの程度のことは考えているし、道具がそろえばやってしまうだろう。だが精密な実験は、実はそれほど容易ではない。200Wの入力に対して2W程度の出力差を有意に計測するのは周到な設備と計測技術が十分整わないと不可能だろう。

一方、この数年で、大手完成車メーカーなどではこぞって有限要素解析(FEM)を導入し、近年ますます強大化する計算パワーに物をいわせて精力的に構造解析を行なっていると思われる。ブリヂストンやCERVELO、TREK、Bianchiなどが”Solidworks”または”ANSYS”といったFEMツールを使っていることはネット検索で容易に知ることができる。欧州カーボンフレームの総本山、台湾のGIANTも当然やっているだろう。

自転車のフルモデリングを適切に構築することは容易ではないだろうが、自転車各部の損失構造や挙動を解明して、本当に優れたフレーム構造、ジオメトリに関する理論的知見を一般ユーザにも少しずつ提示していただけることを、この際、気骨のあるメーカーに望みたいものである。ついでに、意匠は優れるが構造的には全く無意味なPinarelloのONDAフォーク(Pinarelloは周到にFEM解析して縦横剛性を適正化したと主張しているらしいが、それは”ONDAフォークでも適正化できる”であって”ONDAフォークだから適正化できる”ではないだろう)に関しても。・・・おっと今度は延々と脱線してしまった。

   いずれにしても、MTBの2×9潮流よ、来たれ!


※FEM(有限要素解析)の概要は、例えばこちらが参考になります http://ums.futene.net/

価格評価→★★★★☆
評   価→★★★★☆



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