購入価格 ¥1512(今の定価)
馬鹿野郎!「環境問題とかお前ひとりが頑張っても無駄」だの「そんなに環境が大事なら満員電車にでも乗ってろ」だの知性と理性のたりない奴ばっかり出てきやがって!確かに電車の効率は良い。それでも、自転車の環境に対する優位性はゆるがないし、何より、環境負荷を低減しようという心意気が大切なんだよ!どうやらここは、人間ひとりが持つ可能性の意外な大きさについて語らなければならない流れのようだな・・・
あれは職場の新年会での出来事だった。何かにつけて俺をライバル視している数学教師かずおが俺を煽る音頭がこだまする。
かずお「n杯飲めて~n+1杯飲めないわけがない!
つよしのちょっといいとこ見てみたい!
そ~れ、帰納法!帰納法!」
そんなことがあって場もあたたまってきたので、同じ生徒指導部でしかも同じ自転車乗りということで気の合う同僚であるけんたろう先生の横に移動し、俺たちは自転車談議に花を咲かせていた。すると隣に、今年新任のかおり先生がやってきて、話に加わってきた。かおり先生はスラリと背が高く整った顔立ちに「一度も染めたことがない」という黒のストレート、大きな瞳が印象的なかなりの美人なのだが、学校広報誌の4月号の職員紹介で「似ている有名人:エジプトの壁画」と書いたためにあだ名が「メジェド様」になっている。聞けばかおり先生は最近引っ越したのだが、それを期に自転車通勤を始めようと思っていたところ、俺とけんたろう先生が乗っているかっこいい自転車が気になり始めたのだそうだ。
かずお「かおり先生、そんな奴らの話を真に受けちゃダメですよ!脳みそ筋肉になっちゃいますよ!
自転車は環境にいいなんて言ってるけど実は自動車におけるガソリンと同等かそれ以上に
飲食にお金がかかるし、タイヤなどの消耗品にかかる費用は自動車の比じゃないですからね!
本当に環境のことを考えるなら電車が最強ですからね!フハハハハハ!」
俺「そっ、それは、ちっ・・・違うナリ!」
それから俺は55~81kgとフレームの素材により幅はあるものの、いずれにしても製造過程における二酸化炭素の排出量は少ないこと。走ることでエンジンである人間は二酸化炭素を吐き出すが、それは太陽エネルギーにより植物が大気中の二酸化炭素を固定した炭水化物をエネルギーにしているので、大気中の二酸化炭素は元に戻っただけの「カーボンニュートラル」と考えることができること。そういった諸々の知識を話したのだが、かずおは
「これだから脳筋は・・・」
などと言って去っていってしまった。
そんなことがあった翌日、我が校でも始業式があった。その中での校長先生のお話に、俺は衝撃を受けることになる。
こんな話だった。
・・・皆さんは「環境問題」という言葉を知っていますね。「大気汚染」「水質汚染」「地球温暖化」など、人間が活動することによって地球の環境に変化が生じることによって起きる様々な問題のことです。現代の地球には様々な環境問題があり、その範囲は広く、影響は深刻です。
ガソリンを燃やすと、1リットルあたり2.31kgの二酸化炭素が出ます。私の場合、家から学校まで約10km、私の自動車の燃費は1リットルで10kmなので、一日往復20kmということになり、4.6kgの二酸化炭素を出すことになります。これが一年に200日通勤したとして、4.6×200=924kg。なんと、私一人で、一年で1トン(1000kg)近い二酸化炭素を出す計算になるのです。
さて、スギの木は一本で一年に14kgの二酸化炭素を吸収すると言われています。私が一年に出した二酸化炭素を吸収してもらうためには、924÷14=66本の木が必要です。言いかえれば、私が自動車通勤をしなければ、66本の木の代わりをした、あるいは66本の木を救った、ということになります。
たった一人の人間の努力にしては、意外と大きな影響力だと思いませんか?これがもし本校の職員50人で取り組もうということになったら66×50=3300本、もし生徒のみなさんも含めて900人でとなると相当グレイトなことになり66×900=59400本です。
私が今回一番言いたいのは、自動車を使うなということではありません。環境問題のことだけでもありません。自分にできることを、たとえたったひとりでも、今すぐに始めることの大切さを伝えたいのです。「私一人だけ頑張っても無駄」という考えは、できることまでできなくしてしまいます。たったひとりの人間にできることは、意外と大きいのです。・・・
日ごろ騒がしい我が校の式にあって、今までになく静かな空気があたりを包んだ。昨日の俺たちの話を聞いていたのだろう、校長が俺の意思をくんでくれたことに、俺は感動していた。俺のすぐ横にかずおは立っていたが、表情は読み取れなかった。
------------------------------------------------【要点をまとめます】------------------------------------------------
この本が2008年の4月に発行されてからもうすぐまる10年が経つことに驚いている。
10年が過ぎようとしている今読んでも全く色あせていない。
速度と空気抵抗の関係からコーナーリング中にブレーキをかけるとスリップしてしまう理由、
山越えのロングライドではどれくらいのカロリーを必要とするのかなど内容は非常に多様性に富んでいる。
これだけの内容を客観的にかつ科学的に解説した本は稀有である。
まだ読んだことのない方には是非オススメしたい。
価格評価→★★★★★(わずか1000円かそこらでここまで読ませてくれるとは)
評 価→★★★★★(伝説の名著)
独特な挿絵もまた魅力