購入価格 ¥14,800
私事で恐縮なのですが、ここしばらく左膝を痛めていた私は、なるべく膝に負担をかけまいとビンディングペダルを封印し、その結果として引き足不要の骨盤を立てないフォームで走っていました。しかし、上半身をつっかえに見立てて脚力で漕ぎ進むあの感触は忘れ得ず、いつかまた必ず昔のフォームで走りたいと切望していました。
膝の状態はそれほど深刻ではなかったのですが、今後爆弾を抱えるのだけは回避したかったので、快方に向かってからも慎重に慎重を重ね、まだ昔のフォームは封印していました。しかし、ここ最近めっきり調子が良くなったため、ついにこの夏昔のフォームを取り戻すことができたのです。
というわけで、前の二つのレビューは骨盤を倒したフォームでの話だったのですが、今回は骨盤を立たせたフォームでの新たなレビューとなります。
【座り心地】
このサドルは、ご覧の通り座面がアールを描いています。つまり、基本的には一点固定でどっかり座る人に向いているのだと思います。その一点を見つけるためにセッティングに要した時間はなかなかのもので、前後位置、角度とも根気よく調整しなければなりませんでした。
しかし、一たびその一点を見つけるや、素晴らしい感触を得ることができました。私の場合、会陰部から尻の結構深い部分にかけての広い面積がサドルと接触している感じで、すっぽり包まれているようなホールド感を味わうことができました。それもまとわりつくようないやらしさではなく、局部周辺のどこにも圧迫感のない、安心感を生むような心地良さなのです。これにはクッションの柔らかさも多分に貢献しているものと思われます。なお、某雑誌に「クッション性が強いので、体重50kg台よりもやや体重のある人向き」とありましたが、57kgの私にとってはちょうどよい具合に感じられました。
腰を据えてトルクをかけながらグイグイ加速するような場面では尻が跳ねることもなく、バイクとの一体感があります。メーカーによると、身体がやや硬い人向きのサドルのようですが、脊柱、股関節とも柔軟でアリオネ向きの私でも何の違和感もありません。
後方から見るとサドルトップがかなり丸く見え(実際には、座面はそれほど丸いわけではありません)、またサドル幅は130mmとかなり狭い部類に入るかと思われますが、実走してみると特に気になることはありませんでした。もっとも、私は骨盤を立てたフォームだと、どのサドルでもそれなりに快適に走れてしまうという便利な(あるいは鈍感な)尻の持ち主なので、話半分に受け止めていただいたほうがよいかと思います。幅広で座面がかなり平たいSDG Bel Airもまた私の尻に合っているのですから不思議なものです。
このサドルで骨盤を立てて走るようになってからは、数10kmのトレイルライドならレーパンなし、200kmくらいのライドでも薄いパッドのレーパンで充分という感じになりました。以前は分厚いパッド入りのものが手放せなかったのですが。
【前後移動】
一点固定型と先ほど申しましたが、MTBでは傾斜に合わせて尻の前後移動を行う場面も多く、どこでも座れるという要素も重要性を帯びてきます。実のところ舗装路を走っていたときはあまりにホールド感が心地良すぎて、ダートに突入して尻を移動させた瞬間失望なんて事態も想定していたのですが、幸いにも杞憂に終わりました。
上りではベースがしなるためか、はたまたクッション性が高いためか、前方に座ってもまったく問題ないという印象でした。いっぽう、サドル後方に座ると尻が前に落っこちそうな感じになってしまいます。また、テール部分が上方に反り返っているうえに後ろに張り出しているため、急な下り坂で腰を後方に引く動作がとりづらいように思われました。この点は先述のホールド感を確保するためには致し方ないところではあるのでしょうが、下り系のライダーには深刻な問題とも言えるかもしれません。
【外観】
キウムレールの輝きは何とも上品ですし、ペラペラすぎず適度にスマートなシルエットの美しさは随一だと個人的には思っています。ただ、カラーはホワイト・ブラック・グレーのみなので少し寂しい印象です。円高の今なら、本国サイトで自分好みの色のサドルをカスタムしてもよいような気もしますが。
【解脱】
このゴビは紆余曲折を経て、私にとってほぼ完璧に近いサドルにまで登り詰めました。座り心地に関しては、これ以上は望めないかも、というレベルです。尻のホールド感と前後移動のしやすさ(後方への移動は少し苦手ですが)のどちらも犠牲にすることなく、加えて見た目の美しさをも損なわないという、機能美を具現化したかのようなサドルです。
これで私もサドル選びという輪廻からめでたく解脱することができました。もう他のサドルを見て悶々とする日々とはサヨナラです。こんなことを言っていられるのも今のうち、再び輪廻の円環に放り込まれるような気も多分にしますが。250gという重量がちょっと気になるところなんですよね・・・・・・。
価格評価→★★★★☆ 満足
評 価→★★★★★ 解脱の価値
年 式→2009
カタログ重量→229g(実測重量→250g)