購入価格 約¥9,000.-(使った部品の値段の合計)
(I. 序)
自転車の走行抵抗の大きな部分は空気抵抗である。日頃からフォーム改善を考える競技系
サイクリストは言うまでも無く、そうでない人(私)にとっても、対気速度を測定したいと思うことは
よくある。また、対地速度(一般的な速度)との差をとれば、風速の進行方向成分もわかる。
風車型の速度計は低速で感度が落ちる・高速で感度が非線形に変化する問題がある。
キーワード:自転車・ピトー管でウェブ検索すると、製作記事中心の日本語サイト 1 件(引用 1.)と
NOTIO という製品の複数の商業サイトがヒットする。残念ながら後者製品を見たことが無く、詳細は
わからない。
中華通販サイトを眺めると、ここ 10 年、ドローン(固定翼無人航空機)向けのピトー管や
圧力(差圧)センサを良くみかける。所詮、戦闘・偵察機レベルではないのだが、値段が安いので
部品を買って自転車用の対気速度計を作ってみた。
サイクリスト向けウェブサイトに投稿するものなので、ピトー管による測定の原理、プログラムや
回路図についてはこの記事で言及しない。
(II. 製作)
私の生業は、電気回路やプログラミングでは無い。今回のモジュール間の配線くらいで有れば、
昔に中学校の実習でやったラジオの半田付けよりずっと簡単だ。全くの未経験者には難しいかも
知れないが何らかのプログラムを作ったことがあればなんとかなる。自宅でも職場でもたまに
Python で簡単なプログラムを書くので、今回は Micropython (組み込みマイコン用の Python)を
選んだ。経験者なら Arduino なり、好みのプログラミング環境を選べばよい。
組み合わせる部品にもよるが、現在使用中の部品と値段(日本円)は、
a. マイコン(ARM Cortex-M4, 8 MB spi flash, モジュール, 中華) \700.-
(Micropython は自分でインストール。)
b. ピトー管とシリコーンゴムチューブのセット(中華) \450.-
c. 取り付け用のフロントフォーク GoPro(GP) マウント(中華) \800.-
d. 微差圧センサ(D6F-PH5050, オムロン) \5,000.-
e. 液晶表示器(AQM1602XA, モジュール, 秋月電子) \780.-
f. マイクロ SD カードスロット(モジュール, 中華) \50.-
g. GPS 受信機(u-blox NEO-6MV2, モジュール, 中華) \400.-
h. 廉価なケース、基板、ピンソケット、抵抗、電線など(秋月電子)、 \1,000.- 未満
全部で 1 万円も掛からない。電源のモバイルバッテリと記録用マイクロ SD は手持ちのものを使った。
最低限の速度表示なら、a-e (+h) でよいし、無線(BLE, ANT+)で手持ちのサイコンやスマホに
転送するなら、そういうモジュールを選ぶ必要がある。表示器やセンサは好みだけでなく、その時々
在庫商品として容易に入手可能なものを選ぶ必要がある(補足 1.)。
どれほど使い物になるか分からないので、捨てても惜しくない安い部品と少ない手間(既製品
モジュールを電線でつなぐだけの簡単な製作方法、簡単なプログラミング)で取りかかることにした。
各モジュール、マイコンの電圧はすべて 3.3 V に統一し、接続はすべてシリアル・デジタル
インタフェース(I2C, SPI, UART)にした。圧力センサとの接続は、昔からあるアナログのものと
比べ随分楽になった。
全くの(プログラム・工作)未経験者が作れるかどうかは分からないが、マイコンとモジュール間の配線は
それぞれ、4-6 本程度で、私の場合はプログラミング環境に Micropython を使いその場で動かして
プログラムの動作を確かめ・修正できるので、引用 1. の記事と比べ大幅に楽をしている。
部品が一通り揃った4 月中旬、 6 時間後には速度計部分の組み立てとプログラムが出来て、図 1
(GPS 無し、ケース無し)を室内・扇風機の風で動作確認した。信号はフロントフォーク GP
マウントに付けたピトー管、シリコーンゴムチューブ、微差圧センサ、電線(デジタル信号と電源,
計 4 本)の順でマイコンに繋がる。この液晶画面は風速、現在時刻、差圧、温度を示している。
フロントフォーク中心のキャリパーブレーキ固定穴に前述の GP マウントを共締めし、前方に
向かって水平にピトー管を取り付けた。泥除けを付けているので、前輪回転の影響はない。
マイコン、センサや液晶表示器などは中華ハンドルバー・バッグの透明マップケース
(スマホケース?)に押し込み、ピトー管から伸びたシリコーンゴムチューブ 2 本を接続した。
電源はバッグ中のモバイルバッテリーからの 5 V を 3.3 V に変換した。停車中(走行中の写真は
撮れなかった)の状態を図 2 に示す。上段は対気速度(2.4 km/h つまり向かい風)・時刻(07:32)、
下段は GPS 方位( N 北)・ GPS 速度(ほぼ 0 km/h)・気温(16.8 度)を示す。
(III. 実走)
最初のテストとして、近所の散歩コースを1時間ほどゆっくりと走りました。組み立てがバラック状態に
近く、ゴムチューブなどあちこちをガムテープで仮止めしているので、長距離を普段の速度で走ると壊れる
からです。当日は日本全国的に風の強い日でした。
体感では最初は横風、後半は追い風と思いました。全体のコースは南から北への往復ですが、
行き帰りは違う道も通り、風向きはずっと安定というわけでもなかったです。時々強い横風で車体が
ふらつきました。センサを複数(例えば 3 個)に増やしてベクトルとして検出し、走行軌跡とともに
地図上にプロットすれば面白いかも知れません。
測定点は 200 ms 間隔で、GPS による対地速度はノイズが多いので移動平均(4点)をとっています。
測定結果(図 3) の青・橙・赤線はそれぞれ対地速度・対気速度・標高で、横軸は1 目盛 10 分
です。(GPS 対地速度の最初の大きなスパイクは、 GPS 測位が安定するまでの測定値の暴れです。)
全体の傾向として、前半は対地速度・対気速度に強い相関があり、横風の体感とも一致します。
後半は下り基調・強い追い風で、対地・対気速度に差が見られます。全時間域で対気速度がマイナスに
なっている点が多数ありますが、ほとんどすべて一時停止中の追い風によるものです。図中の標高が
最大のところで休憩中も、後方から風が吹いていました。逆に、時間軸の最初から 1.5 目盛の所で
対地速度ゼロで対気速度プラスになっている点は、一時停止中に向かい風を受けていることになります。
対気速度センサの応答速度は、移動平均前の GPS 対地速度のそれと比べて、早いように思います。
実際の対気速度の測定・表示には約 50 ms (メーカデータシート記載の測定待ち時間 33 ms を含む)
かかるのですが、乗車中に液晶画面を見ていると風向きや進行方向が変わるたびに敏感に測定値が
変化しました。
対して GPS (NEO-6M) の情報更新頻度は 5 Hz (200 ms) ですが、実際はずっと遅いのかも
知れません(GPS 受信機内部のことまではわからない)。GPS ではなく、複数の磁石を使ったホイール
センサを使えば対地速度の応答や精度を改善できるかも知れませんが、車体への配線が増えるので
今はやりたくありません。
細かいところでは、図 3 中の時間軸の最後の 2.5 目盛ほどの間は、町中の交差点・信号を通過する
ストップ・アンド・ゴーの繰り返しで、目の前の自動車との車間を詰めると対気速度が大きく下がること
(ドラフティング)が走行中に液晶画面を目で見て実感できました。(こういう実験は、大変危険なので
お勧めしません。)
(IV. 今後の展開)
データ取得方法の工夫、ユーザインタフェースの改良、取得したデータの個別事象の解析(例えば、
前走者・車の種類や距離の関係、向かい風での疲れない効率よいフォーム)など、走行中に
壊れなければ少なくとも1年くらいは楽しめそうです。
(補足)
1.
\3,000-5,000.- 程度かつ個人で 1 個から買えるデジタル式の微差圧センサを探すと、
TE Connectivity (MS4525, MS5525), オムロン (D6F-PH), Sensiron の 3 社くらいしか
無いようだ。基本的にこれらは産業用で受注生産らしく、 1 個かつ短納期の場合は、その時々規格が合う
流通在庫を買うしかない。比較的安価な大気圧センサを 2 個使い引き算することも考えられるが、
ゼロ点ドリフトが避けられないので絶対にお勧めしない。
私の場合、中華通販で大量に売られている MS4525(ドローンのオートパイロットで良く使われる)を
最初は破格の安さで買ったが B 品(不良廃棄品)で、大手電子部品商社から前述のセンサを
買い直す羽目になった。その結果、引用 1. の記事と同じセンサを使っている。なお、制御や読み
出し方法はセンサに依るので、各メーカのデータシートを読んでプログラムする必要がある。
(引用)
1. 信州MAKERS
https://shinshu-makers.net/shinshu_makers/価格評価→★★★★☆(一度 B 品のセンサをつかまされたダメージ: -1 減点)
評 価→★★★★★(しばらく楽しめそう。)
年 式→2023
実測重量 約 130 g (モバイルバッテリーを除く)