購入価格 ¥3800+税
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(1903年)7月1日にパリを出発するツールを見に来たのは、わずか数十人の好奇心の強い見物人だけだったが、7月19日のヴィル・ダヴレイ(Ville d’Avray)の最終ゴールに集まった群衆は10万人に達していた。
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マイヨ・ジョーヌという禁断の実を味わった後は、彼らは一変し、時には己の人生を完全に変えてしまうことさえあった。たとえば、2004年のツール・ド・フランスで10ステージもの間、総合リードを守ったトマ・ヴォクレールが良い例である。彼はフランス人のプロ冒険旅行家で、総合順位など気にしてはいなかった。しかし、アミアン(Amiens)からシャルトル(Chartres)までの第5ステージ(200.5km)でロングスパートに加わった後、総合リードを奪ってしまう。(中略)総合順位で18位だったが、フランスでの名声はすでに生涯保証されたも同然だった。
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二人の死者が出ている。ひとりは1967年のトム・シンプソンで(中略)、もうひとりは1995年のファビオ・カサルテッリがポルテ・ダスペ峠の下りで命を落としている。
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ツールを模倣することはできない。なぜなら、それは情熱だから。
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ツール100周年といえば2003年。90回目の大会でしたが、2007年にフランスで出版された本が版を重ねてやがて2010年に和文翻訳されたのがこの本。立派な箱から引っ張り出して中身を開ければ、ツールを雄弁に証言する資料のレプリカがまるで飛び出す絵本(じゃなくて秘密の袋とじ)のように綴じこまれていてちょっとビックリ、という、意表を突く体裁・・・何だこれ、ヘンな本だなあ。書店の棚でも居場所に窮するようなデカい本。
しかしベルナール・イノーの序文を読んだ途端に、ものすごくいい本に脳内格上げされてしまい、思わず買ってしまい・・・。秘密の袋とじがいくつもある構造故、たった64ページの割に分厚く、長辺が30センチほど、重量が1.8kgもあり、場所をとります。どうせなので飾っておいてもいいか、と思わせる見栄えのよろしい変形本です。
64ページしかないのになかなか読み進まない不思議本でもありますが、以下がおおよその目次。ベルナール・イノーの格調高いまえがきからスタートします。
ベルナール・イノーのまえがき/世界最大のレース/第一回大会/足固めの1920年代/黄色ジャージの物語/イタリアの台頭/山の王者/ボベの時代/アンクティルの時代/メルクスの時代/テブネの時代/イノーの時代/レモンの時代/インドゥラインの時代/アームストロングの時代/宝物に隠された物語/・・・・
ツール・ド・フランスという祭典の奥行き、歴史の重さが伝わってくる袋とじの中身・・・『資料のレプリカ』ですが、運営責任者の手紙、ツール出場のための選手との契約書、1910年のツールの協議規約などなど、実に様々な逸品のレプリカが袋とじ(笑)の中に収納されています。
各ページに掲載される何気ない写真にも史実が顔をのぞかせています。1934年の総合優勝者アントナン・マーニュの自転車の写真をよーく見ると、ギアが単段である一方で、トウクリップ&ストラップは1980年代まで使われていたものと寸分違わぬもので、ビンディング以前のペダルシステムが1934年にすでに完成されていたことがわかります。驚きです。
また、私がツールに興味を持ち始めた当時は、アイウエアを使わないのは当たり前で、グローブすらも着用しない選手がいたのですが、遥か初期に遡るとゴーグルが使われています。前走車が巻き上げる土誇りから目を護るために必要だったんですねぇ。
で、初版が2007年ということで、ランス・アームストロングも時代を作った選手として大きく取り上げられています。そういう意味でも100周年後の数年間という時代を感じてしまう、というか、ある意味、時代の証言者的な書籍になっています。
なお、フランスではどうやら第5版が2012年に出版されているようで、表紙のデザインも僅かに変更されています。ではこの日本語版がフランス版の何年版に該当するのかといえば、じつはよくわからないのですが、おそらく、2010年版と思われます。
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私がサイスポを書店で立ち読みし始めたのが多分、中学3年、1976年あたりで、当時はまだエディメルクスが現役だったはずですが、そのころ、ツールというものを認識していたかというと、そういう記憶はありません。はっきり認識したのはおそらく、1979年にイノーが2回目の総合優勝を飾った時で、私は高校3年でした。当時のサイスポ9月号がツールを詳しく伝えています。この号は立ち読みではなく買って、何の因果か、捨てずに保存してあります。また、当時の欧州レース事情と言えば、千葉洋三さん(アマンダ代表)の記事をよく拝見しましたが、この号では、ツール特集とは別ページで、千葉さんの連載「海外レース展望」に文章だけで4ページにわたって書いています。当時の私はおそらく、何もわからないまま、「すげぇ世界がある!」的な興味で読んでいたのだろうと思います。
もちろん、TV放映もTV報道も一切なし。写真と記事でのみ知る世界でありました。あれから40年近く、様々な選手たちが駆け抜けていったわけですが、こういう本を眺めることで、全く知らなかった歴史的背景、伝説やいくつもの事実、そして自分の怪しげな記憶が整理され、ツールに対する考えや認識を新たにすることが出来、すべてがつながったような感覚に囚われました。
現代ツールの実況解説に耳を傾けるのも楽しいですが、こういった実に愉快で面白い書籍をじっくりマイペースで精読するのもいいものだ、と思います。
ところで、翻訳がところどころ少しヘンです。具体的には指摘しませんが、ツールのことをあまりよく知らない人が翻訳し、校正したのでしょうか?まあ、私は全く気になりませんでしたが、気になる人は気になるかもしれません。
価格評価→★★★★★
評 価→★★★★★
年 式→2010
著 者→セルジュ・ラジェ, ルーク・エドワード・エヴァンス
日本語版出版→スタジオタッククリエイティブ
重 量→1.8kg