購入価格 ¥400くらい(セール品)
「巻きますか? 巻きませんか?」
どうやらその声は耳で聞こえているわけではないらしく、うすぼんやりとした余韻を残して
少年の脳髄を揺らし続けている。
「君は……誰だ?」
頭の中で呼びかけると、野太い男の声が返ってくる。
「ボク、ニップルレンチの精! やっとボクの声が届く人間を見つけた!」
すぐに体重三ケタの巨漢を連想したものの、声だけで姿は見えない。しかし逆にそれが少年の恐怖をかきたてる。
「姿を見せろ! バケモノめ!」
少年は叫び、拳をにぎりこむ。手の中には道で拾ったスポークレンチがあった。
「あいたたた! なにするんだ!」
「ええ? 君は……もしかして?」
「そうだよ! 今、君が持っているその銀色のニップルレンチがボクそのものなんだ!」
少年はゲームの駒にも見えるそれをしげしげと眺め、息を吹きかけてみた。
「寒いよう!」
「うわっ! 気持ちわるっ!」
「なんだと」
一段ひくい声と共に手の中の物体は重さを増し、少年の手は地面へと叩きつけられる。
「あひゃい!」
痛みと驚きで奇妙な叫びをあげた少年へと、可愛らしい声でニップルレンチの精が問いかける。
「怒った?」
「お、怒ってないよ!」
少年が震える声で答えると、すっと手に感じていた重さが消え、手を持ち上げられるようになった。
「死ぬかと思った……」
顔をゆがめつつ、少年は問いかける。
「それにしても君はどうしてそんな姿に?」
「話せば長くなるんだけど、一言で説明するね」
「説明できるのかよ」
つぶやいた瞬間、ふたたび手にかかる重さが増したので、少年は「怒った?」と叫ぶ。
「怒ってないよ?」
その声と共に重さが消えた。
「ふう……」
「説明していい?」
「あ、はい。どうぞ!」
「んっとね、悪いやつに本当の体を乗っ取られちゃって、だからこの姿は仮のものなんだ」
「ふーん」
「あ、君もしかして信じてないね?」
「信じろと言われても……」
「それも仕方ないね。実はボク一人じゃ不完全で、あと4人の仲間の協力が必要なんだ」
「5人あつまると本当の体を取り戻せるの?」
「ううん、どうしても最後に人間の力が必要なんだよ」
「もしかして僕にそれをやれと?」
「もちろんさ!」
野太い声と共に手の中のレンチが震えた。ピップ〇レキバンみたいだ。
「えー、嫌だよ。めんどくさい」
「そう言うと思って、実は動機を作っておいたんだ!」
「は?」
気づくと自分へと向かってくる集団があることに気づいた。どこか殺気だっているように見える。
「テキトーに自転車のホイールをバラバラにしておいてから、ボクたちはもう共犯みたいなものだよ!」
「そんなの知らないよ! えいっ!」
少年は握り続けて温まったレンチを投げ飛ばそうとした。しかし、
「あれっ? なんで? 離れない!」
「もうボクと君とは離れられないよ。魂の部分でつながったからね」
「嫌だぁー!」
少年は叫び、自分を追いかけてくる人々から逃げ出した。
「さぁ行こう! クロスゲーム(手組み遊戯)の始まりだ!」
Fin...
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おふざけはここらへんにしてマジメなレビューを。
CRCのクリアランス品として購入してみたもので、規格としては#14もしくは#15用の
アジア向けとか呼ばれるタイプです。
手持ちのニップルで試した限りでは、HOSIとSAPIM、DT SWISSのニップルに使えました。
どっしりとした造りで四面を支持するタイプですので、アルミニップルにも使いやすいです。
磁石は付かないので、たぶんアルミの鍛造品ではないかと思います。
これを使ってアナタもクロスゲームに挑戦しよう!
(一度こういうレビューを書いてみたかったんです)
価格評価→★★★★★(パークツールのプロタイプSW- 22.2と同等では?)
評 価→★★★★★(トルクをかけやすく、舐めにくいです)