購入価格 CHF 1,102.5 (+送料CHF 114 @ ベラチスポーツ)
2014年、Ksyriumシリーズの最高到達点として発表された125th。6,000セット限定生産でハブシェルが黄色いなどの特徴はありますが、例のMavic商法によって色とデカール変えただけの実質同モデルが翌2015・2016年も発売されている(2015 Ksyrium SLR、2016 Ksyrium Pro Exalith SL)おり、Mavicが言う"限定"にはいつも通りあまり意味がありません…こういう売り方、ちょっとト〇カっぽいぞ!!
ともかく、現在Mavicが持っているノウハウと製造技術をほぼ総結集して取り組んだであろうこのホイール、1年ちょっと使ってみたここらで感想をまとめてみたいと思います。なお、この125thのスペックはほぼそのまま2015のKsyrium SLR、2016のKsyrium Pro Exalith SLへと引き継がれているので、そのまま読み替えていただいても大丈夫でしょう。
さて、まずおおざっぱに125th(とそれに続く2015 Ksyrium SLR、2016 Ksyrium Pro Exalith SL)のコンセプトを言い表すと、"Ksyrium SL前輪とR-Sys SLR後輪の組み合わせ"。つまりスポークの空力が悪い点をなにかと指摘されるR-Sysに、比較的空力特性の良いKsyriumのフロントホイールを合わせて欠点を補ってやろう、というわけです。このコンセプトを体現したモデルは2012年からすでにKsyrium SLRとして存在していましたが、この125thはそのアップデート版ということになります。
それではまず計測から。
ホイールのみでの公称重量はフロント605g+リア750g(HG11=Shimano/SRAM 10•11s仕様)=1,355gでKsyriumシリーズ中最軽量(ED11=カンパ9•10•11s仕様は+15g、計1,370g)。
実測結果では…
フロント620g+リア774g(HG11仕様)=1,394g (ED11仕様のリアは+12gで計1,408g)
リムのチューブ側にスポーク穴は開いていないので、リムテープやプラグの類は不要。
おそらくリム単体での重量は400g切るかどうかというところでしょうか、絶対的には十分な軽さだと思いますが…カーボンリムでもないのにこんなにズレているのは作為なのか品質管理能力がお留守なのか、いずれにせよあまり印象がよろしくありません。カタログ値どおりならカンパのShamal Milleより軽いはずなのに、実際にはほとんど変わりません(Shamal Milleカンパフリー仕様実測 594g+812g=1,406g)。なお、ぱっと見全く同じに見えるリムは前後で微妙に形状が違うようです。フロントリムはハイト23.8mm、外幅19.3mm。リアリムはハイト24.3mm、外幅19.1mm(テクニカルデータより抜粋)。ノギスで測らなければ気づきもしないレベルの差ですが、何らかの意味があるんでしょう。
その他付属品の実測重量も…
クイックリリース(スチールシャフト): 52+57=109g
フロントタイヤYksion GripLink 125th=212g、リアタイアPowerLink 125th=198g、チューブ=82x2=164g(エア含まず)。
ジクラルスポーク用マグネット6g(ブレード部分には使用不可)。
Shimano/SRAM用のHG11仕様での総重量(QR込み、6.5bar時)はフロント985g、リア1,122gの計2,107gでした。
他にマルチツール(タイアレバー、スポークホルダー、M7ニップルレンチ、QRM+用カニ目レンチ共用)x2本、
とジッパー内ポケット付タイアバッグx2が付属します。
ここから使用を経ての個人的な感想と評価に入ります。1年半このホイールで走行した距離はおよそ3,500km、WTSとして設計されているのでタイアとチューブは純正装着のYksion GripLink 25CとPowerLink 25C(6.5~7bar)を基準にしていますが、Michelin Power Competition 23Cとラテックスチューブ(同じく6.5~7bar)でも試しています。
・総合評価
性能面での感想を簡単にまとめると、アルミクリンチャーとしては圧倒的なレベルで硬さと快適性が同居しているホイール、という感じです。空力性能はあまり芳しくないのかTT的な乗り方や高速巡航は得意ではないですが、40km/h以内でなら剛性と加速の鋭さを武器にシャープで軽快な加減速・ハンドリングが味わえます。操安性や直進性は概ね良好ですが高速でのコーナリングに若干癖があります。非常に硬いホイールながら不快な振動や路面に弾かれて跳ねるような挙動も無く、普段使いにも難なく対応できる使い勝手の良さが備わっています。
以下、項目に分けて詳しく分析してみましょう。
・加速
漕ぎ出しから圧倒的に軽い加速感。定価もカーボンホイール並なら実力もカーボンキラーといった感じで実に痛快。速度域問わずロスを感じさせませんが、ペダルに伝わる感触が独特。踏み込んだ瞬間にごく僅かなタメがあり、続いてすぐに弾き返すような反撥が返ってきます。リズミカルにトラクションを吐き出すので、まるで性能の良いサスペンションがついているかのよう。かなり硬いホイールでありながら、路面の不整や雑なペダリングを打ち消すように進む懐の深さも持っているのがこのホイールの凄いところ。
・巡航
35km/h位まで性能不足は全く感じません。そのレンジまでは外周の軽さと高いねじれ剛性がもたらす軽快感の方が支配的なのでしょう。ハブの回転も"転がらない・回らない"というMavicハブのイメージを覆すスムーズさ。が、40km/h超になると慣性重量の低さと空力性能の低さからか、脚を止めた時の速度の落ちが速くなります。純正タイアの転がりも35km/h位まではそう悪く感じることもないのですが、Michelin Power Compのようなトップクラスの転がり抵抗値を持つタイアほど転がりがいいわけではありません。下りのコースティングで比較すると、60km/h付近で概ね2~3km/hの差がつきます。原因はコンパウンドの差だけでなく、25Cという太いタイアの空力性能があまり良くないことにもありそうです。Yksionは結構軽いタイアなので漕ぎ出しなどで重量ハンデを意識することはないですが、前後とも15mmとごく普通のリム内幅に25Cの組み合わせでブレーキトラックからムニュッと横へはみ出しており、これがドラッグを発生させてスピードの伸びを妨げている気が…ちなみに同じPower CompとラテックスチューブをShamal Milleに履かせて計測するとさらに+1~2km/h向上するので、ホイール本体の空力特性もリムハイトなり、と言ったところ。Neutronは高速域での速度維持はもう少し良かった気がしますがリム重量に100g以上差があるからでしょうか。すでにNeutronは手放してしまっているので直接比較はできませんが。
・ハンドリング
平地で乗る限りは軽く自然で扱いやすいですが、高負荷時に少し癖があります。純正装着のYksionは安定性が高く扱いやすさにも長けているのですが、40km/hを超えるあたりからフロントとリアのグリップがちぐはぐになることがあります。軽量リム特有の腰高で不安定な感じではなく、どうもフロントのグリップがリアのトラクション性能についていけていないようなのです。例えば舗装がちょっと荒れた下りコーナーなどで、リアはビシッと安定して再加速態勢なのにフロントが落ち着かずラインが外へ膨らんでいくことがあります。最初はタイアのせいかと思ったのですが、前後ともコンパウンドの柔らかいPower Compに変えるとタイアが流れる代わりにフロントが外へ引っ張られる感触をより強く感じるようになりました。使っているうちに慣れましたが、これがなければもっと魅力的なのにと思うと…今のところ原因がはっきりわからないので、この先もタイアを換えたりしながら改善を試みていこうと思います。
・快適性
ほぼ最高レベル。フロントはアルミリムにアルミ合金スポークなのでそれなりに微振動を伝えてきますが、タイアやフォークに余程硬いものを使っていなければ気にする必要はないレベルでしょう。リアホイールが素晴らしく、すでに何度も書いているようにトラコンプスポークのおかげで縦方向にも柔軟で非常に乗り心地の良いホイールに仕上がっています。ライダー、機材込みで100kgという荷重制限がある純レーシングホイールですが、快適性はライトツーリングでも問題なく使えてしまえそうな程。
・ブレーキング
私はヘビーウェットでは乗らないので評価できませんが、ドライではExalith処理と専用パッドがリムブレーキとしては最高レベルの仕事をしてくれます。絶対的な制動力やコントロール性だけなら他にも良いリムはありますが、Exalithがスゴいのは酷使してもリム側に磨耗の兆候がほとんどみられない点。跳ね石などで所々チッピングしている箇所はありますが、擦れて剥がれているような様子は3,000km程度では見つけられません。同じくセラミックをプラズマ電解蒸着させたカンパのPEO処理は、ウェット時や異物噛み込みなど悪条件下での耐摩耗性がExalithに及ばないようです。そこは昔からセラミックコーティングを採用し続けているMavicに一日の長があるということなのでしょう。パッドの磨耗スピードはどちらもかなり速いですが、カンパのパッドの方が少し柔らかい分磨耗も速い気がします。初期制動もPEOの方が鋭くホイールロックまでの特性もわかりやすいので、PEOの方が個人的には好ましく思うのですが。パッドの鳴りが酷いのはExalithの弱点で、トーインがちゃんと出ていないと建てつけの悪い雨戸を開け閉めするときのような振動と不快な音を撒き散らします。トーイン出しにはTacxのチューナーなどを使うのが確実ですが、3枚位重ねた厚紙をシム代わりにパッドとリムの間にかませてアライメントを取る方法でも大丈夫。名刺位の厚さの紙がちょうどいいようです。
こちらは私が愛用しているmeadのインデックスカード。
これを3枚重ねてパッドの後ろ1/4あたりまで挟み1.0mm程度のトーインを出しています。リムに初期馴染みが出るまではこれでも全然足りず、峠を1本下って麓近くまで来る頃には盛大に鳴き始める程でした。Exalithブレーキパッドには1と2がありますが、2の方がコンパウンドが柔らかくビビりや音鳴りが少なくなっているようです。そして2の方が若干磨耗が速いようにも感じます…
最初の800km位まではパッドの方が尋常でない減り方を示します。アタリが出るまでの距離は使い方や気象条件等によってかなり変動するでしょうが、私は峠で使う機会が多かったせいか、パッドの減りが落ちつく頃には1セットほぼ丸々摩り下ろしてしまっていました。アタリがでる、といっても目で見て触ってはっきり分かるような磨耗の痕跡は現れず減りの鈍りでそう判断しているに過ぎないのですが。この専用パッドがまた強烈に高くてですね…コンパウンドが柔らかめのものなら非Exalith専用パッドでもそこそこ使えるレベルのストッピングパワーがありますが、やはり性能はガクッと落ちます。
ついこの間交換して直後に峠を一本下った後のリアキャリパーのパッド。すでに前1/3位まで削れ始めているのが分かるでしょうか?
・サービス性と維持コスト
このホイールを自分でメンテナンスする場合必要になるものがいくつかあります。
・フリーボディ専用オイル (コード99613601)
・トラコンプリング脱着用ツール (コード99608001)
・トラコンプスポーク用マグネット(Garmin GSC10など後輪で速度を取る場合)
・17mmスパナ(オープン・メガネは問いません)、5mmヘックス、マイナスドライバー(軸長50mm、先端5mm程度あればなんでもOK)、ラバーハンマー
日常的なメンテで必要になることといえば、フリーボディ内への注油とトラコンプリングの交換位。
スポークは基本的にスレッドロックが塗られているので、落車などでリム振れが出たりスポーク交換の必要が出てこない限りはいじる必要がないでしょう。稀にセンターがズレていたりスポークテンションが低い個体を買わされてしまうこともありますが(詳しくは後程)。
まずはリアハブ(FTS-L)の分解から行きます。
分解方法はネットを彷徨えばいくらでも出てきますが、Slowtwitchの解説が一番わかりやすかったです(英語ですが)。
http://www.slowtwitch.com/Tech/Mavic_hub_How-To_4006.htmlここで出てくるのはCosmic Carboneのハブですが、分解手順と大まかな構造はまったく一緒。アクスルエンドのネジが逆ネジ(ナット側を反時計方向に回して緩める)でアルミ製なので少々脆いこと、ラチェットの爪やDS側のアクスルエンドとフリーボディの間に挟まれた小さなワッシャをなくさないように注意が必要なくらいで、とにかく冗談みたいに単純な構造ですから何も難しいことはありません。
これがフリーボディの内部とハブ側のラチェット機構。
…R45やRecordハブを見慣れた目にはこの構造は衝撃的で、申し訳ありませんが自分でバラして現物を目にした瞬間爆笑してしまいました。
ああ、ハブってこんなにもシンプルで平気なんだw
潤滑にはグリスではなく専用ミネラルオイルを使います。これはMavicホイールの取り扱いがあるショップならどこででも手に入るもので、50mlボトル入りで2,000円前後。安くはないですが、一度の注油で使う量はせいぜい数滴なので、一本買えばホイールの寿命分位は余裕でカバーできるでしょう。フリーボディを外す時にアクスルエンドワッシャがフリーボディ内側のベアリングに張り付いていることがよくあるので、フリーボディを外して作業する場合は落として紛失しないよう注意が必要です。これを入れないとフリーラチェットが作動しません。オイルは10w程度の粘度ですが、ラバーシールへの攻撃性などを考えるとエンジンオイルの流用はやめておいた方が良さそう。再びエンドナットを締めるときの締結トルクは指定がありませんが、締めすぎると破損するので緩まない程度のキツさで十分。スレッドロックも塗ってあるのでステムキャップを締める位でOKだと思います。
そしてもうひとつの定期メンテ、トラコンプリングの交換。
作業の半分は上のフリーボディ分解と共通なので同時にやってしまうのがいいでしょう。
脱着工具とリング2個セットを合わせて2,000円程度。自分でできるようになっておくといいでしょう。
リングの交換方法は付属マニュアルに詳しいので、内部の写真だけで詳しくは省きます。
アクスルを抜く必要があるので、先にフリーボディ取り外しまでの作業を済ませておきます。トラコンプリングにアクセスするにはフォークサポートを引きぬき、マルチツールのカニ目でプリロードキャップを回して取り外します。
写真ではアクスルが入ったままですが、フリーボディを外してあればアクスルは手前側に引き抜けます。
これが新品のトラコンプリングとリテーナークリップ。
特に交換のインターバル指定はないようですが、走行の負荷でスポークヘッドに押され潰れてくるので異音が発生することがあるそう。リアハブからパキパキ音がし始めたら要交換のサインだそうで、リングを再装着する時にグリスを塗りこんでおくと異音発生防止になるようです。このリングはトラコンプスポークのニップルを回す時にもあらかじめ外しておく必要があります。
以上二つはできるようになっておいた方がいいでしょう。
もうひとつ、スポークテンションとリム触れの管理があるのですが、フロントホイールはともかくリアはちょっと特殊な構造なので、テンションメーターや振取台など機材がない場合はプロの手に委ねるのが安心です。スポークもリムも破損すると高くつきますし…
実は私の購入したものは初っ端からリアホイールがセンターズレを起こしていて、自分でセンター出しとテンション調整を行いました。フロントホイールはともかく、リアのトラコンプスポーク側のニップルに触る場合は要注意です。トラコンプスポークはご存知のように中空のカーボンコンポジットチューブで、すでにリング交換作業の説明のところで書いたようにリングを外さずにニップルを回せばトラコンプスポークを捻れさせてしまい、最悪破断します。一定以上捻れるともう元に戻らない不可逆のダメージを負ってしまいますので必ず外しておきましょう。
ニップルはMavicの独自規格で、M7と呼ばれるもの。社外のニップル回しなどもありますが、樹脂製でアノダイズを痛めにくいので付属のマルチツールがベストじゃないかと思います。軽いセンター調整やテンション調整くらいなら不要だと思いますが、全部緩めてスポークを交換するなどとなった場合はスレッドロック(コード99620401という専用品がある)を塗り直しておいた方がいいでしょう。
注意しなければならないのは振れ取り作業中のスポークテンション管理。
テクニカルマニュアルを見ると、このホイールの指定スポークテンションは(Ksyriumとしては)やや低めなようです。ジクラルスポークのフロントは110~130kgf、同じくジクラルのリアDS側スポークは110kgf、NDS側のトラコンプ(カーボンコンポジット)スポークは90kgf。現在これらのスポークに対応した換算表を持つテンションメーターが市販品には存在しないのですが、新品状態でのフロントホイールのスポークを基準に判断すればある程度のテンション管理は可能です。使用するメーターの精度などが絡むので測定結果の披露はしませんが、まずフロントホイールのスポークテンションを測り、リアDS側のスポークテンションがそれを超えないように調整してやるというのがユーザーレベルでできる唯一の方法。この方法ならParkのTS-1でも可能です。ジクラルスポークのテンション管理をもっと厳密にやろうと思うと専用メーター(非売品)と専用の換算表が必要で、要するに心得のあるディーラーに持ち込まないと無理ということです。トラコンプスポークにもある程度テンションはかかっているはずですが、ちゃんと測定して管理する方法ってあるんですかね??? R-Sys SLRのフロントスポークは70~90kgf(素のR-SysやSLは75~95kgfらしい)で指定値は存在しているんですが、Mavic御用達のメーター換算表でも測定値がNot ApplicableとかXとかになっています…まあカーボンコンポジットスポークはテンションに依存しなくとも大丈夫だと言いますから、締め過ぎにさえ注意すればそう神経質になる必要はないのかもしれません。
価格評価→★★★★☆ 定価だと二の足踏みますね、120,000円程度で買えたのはラッキーでした。
評 価→★★★★☆ 快適性の高さと小気味良い反応が素晴らしい。ちょっとしたハンドリングの癖とイマイチパッとしない空力性能に目を瞑れるなら最高。
年 式→2014
カタログ重量→ 1,355g (実測重量 1,394g)