購入価格 ¥740(アングラーズ)
日本には古来から和竿という竹を原料とした釣竿がある。
和竿は分解可能になっており、継ぎ目には割れ防止のための補強として木綿や絹といった糸が巻かれ、その上から漆(うるし)を塗り磨き上げられている。そこにさり気無く施された意匠は大変美しく、最高級釣具としてはもちろん、正真正銘の美術品としても扱われている。
カーボン製になった現在の釣竿も構造自体は同じ。糸はナイロンに、漆はエポキシに変わったが、継ぎ目の他に糸を通すガイドにも、糸による美しい装飾が添えられている。
参考:カーボン製の釣竿の継ぎ目(左) ガイド部(中) ロゴ部分の装飾(右)
ちなみに全て私の愛竿。(市販品)
私も幼少の頃から釣りを嗜み、小学生の頃から独学で自作の竿を製作。それを釣り場に持参しては魚にブチ壊されていました。(笑)
補強糸も当時から自分で巻いていたので、飾り糸の装飾作業自体はそれなりに得意。
今回はその頃の記憶と技術を久々に呼び覚まし、自転車を装飾してみました。
[材料]
材料は釣具屋さんの釣具自作・補修用素材コーナーに置いてある、『飾り糸』という糸と、仕上げに使うコーティング剤。釣りの世界には釣具を自作したり自分で補修したりする人が少なからず居るため、こういった素材が普通に販売されています。
糸は同じ太さで揃えるのが上手く仕上げるコツ。
細い糸の方が繊細な仕上がりになりますが、敢えて太くして武骨でワイルドな仕上がりにするのもアリだと思います。
今回使ったコーティング剤は、以前投稿したレビュー、
PEラインによるスポーク結線
https://cbnanashi.net/cycle/modules/newbb/viewtopic.php?topic_id=13714&forum=106&post_id=23797#forumpost23797でも使用したセルロースセメント。
エポキシやマニキュア等のクリアコーティング剤でも代用可能です。
[製作テーマ]
今回作るテーマは世界選手権のチャンピオンジャージでお馴染みのアルカンシエル。
ジャージの色は白地に上から、【青、赤、黒、黄、緑】の順なので、【白、青、赤、黒、黄、緑、白】の順で糸を巻く構想を立てました。
しかしここで一工夫。
装飾全体を際立たせるために、白は銀糸で、黄色は金糸で表現する事にしました。釣具の装飾でよく使われる技法です。
今回はシートポストを装飾します。
下は装飾前の写真です。
[製作方法]
最初に巻きたい部分を良く脱脂し、位置決め用にマスキングテープを貼ります。
次に飾り糸の裏面に書かれた巻き始めと巻き終わりの糸の処理方法を参照しながら順番に糸を重ねて巻いていきます。
今回は銀色が3回巻きで他色がそれぞれ7回巻き。糸の太さと巻き数を揃えれば色の幅はほぼ一緒になります。
一番端の銀糸の縁取りは細く巻く程美しいですが、巻き数を減らす程巻き初めと巻き終わりの糸の処理の難易度が高くなります。
また、色の数が増えると巻き始めと巻き終わりで複数本の糸を同時に処理する必要が出てくるため、更に難易度が高くなります。(1色の巻き数が多ければ気にしなくても大丈夫ですが。)
作業自体は99%の根気と、1%の手先の器用さがあれば大丈夫です。(多分)
この6色アルカンシエルは高難易度の装飾ですが、2~3色なら割と簡単にできます。
なお、手で押さえている糸を放すと解けてやり直しになるため、作業途中の写真撮影は断念しました。
巻き終わった後の写真がこちらです。
巻き終わったらマスキングテープの方に糸を寄せて整え、余った糸を切り、慎重にマスキングテープを剥がします。
最後にコーティング剤を塗って硬化させたら完成です。
[使用感]
ただの自己満足です。
と、言ってしまえばそれまでで、見た目には非常に満足していますが機能的な性能は皆無。
空気抵抗は減らないし、数gとはいえ重量は増える。
塗装やステッカーと違い手間も掛かる。
そして補強としての意味は無い。
だが、飾り糸独特の装飾は見ていて飽きがこない。
仕上がりにはとても満足しております。
ちなみのこの方法、糸が巻けるモノなら何にでも装飾できるため、自転車の色々な部分に応用可能です。フレームやステム、MTBのブレーキレバーに装飾を施すと、とてもカッコいい予感がします。(そのうちやるかもしれません。)
価格評価→★★★★★(糸を6色揃えても1,000円掛からなかった。)
評 価→★★★★★×∞(ただの自己満足です。)
~製作後記~
自転車界にはクロモリフレームのラグに美しい彫刻を施す文化があります。一昔前には、オプションでチェーンリングやハンドル、シフトレバー等のパーツに彫刻と塗装を施すフレーム工房やショップもありました。
しかし、カーボンフレームが全盛となった最近の自転車界にはこういった手作り感溢れる美しい工芸装飾が少なくなってきている気がします。
個人的にはとても寂しいです。
だからこそ、私はこういった工芸品的な装飾を自分でやってみたかった。
私は自分で自転車をいじり、そして自転車に乗るのが趣味なのだから。