購入価格 試乗なので0円
馬鹿野郎!
「子どもがゲームしか欲しがらない」だの「集団でのひとり遊び」だの、いっぱしの評論家きどりの奴ばかり出てきやがって!
確かに子どもの夢が貧困だったり遊び方を知らなかったりするのは問題だ。
しかし豊かな遊びや本当の満足感を教えてあげたり、そのきっかけを与えてやるのは大人の仕事なんだよ!
かくいう俺も、つい最近まで「クリスマスプレゼントは DE ROSA の PROTOS がいいです」だの「コンポは SUPER ROCORD でホイールは BORA URTLA で・・・」だの「絶対に全部ください」だの好き勝手ばかり言っていたんだ。
どうやらここは、俺の体験談を通して、自転車乗りに本当に大切なことについて話さなければならない流れのようだな・・・
あれは俺が行きつけのショップで「DE ROSA 2015」カタログを読んでいたときのことだ。
俺「プロ選手のポテンシャルをフルに引き出すことを目的として開発されたPROTOS・・・
“STW”とは3要素の頭文字で、重要なことはそれぞれのバランス・・・
フレームの硬さやねじれ、そして重量をDE ROSAの尺度をもって構築させることにより、
フレームそのものが路面の不規則性を打消し、高い剛性を保ちながらも
快適なバイクとして乗る者のポテンシャルを引き出すのです。
2015年モデルはグラフィックに注目。現在のトレンドと近未来を先取りした左右非対称のデザインは斬新です。
専用デザインのハンドル、ステム、シートポスト、ボトルケージを標準装備から外すことにより、新価格でお届けします。
クリスチアーノは言う『プロトスの唯一の欠点、それは価格だ。』
かぁ・・・
いいなぁ、DE ROSA のフラッグシップ・・・」
ゴゴォォォォーーーン!
その瞬間である。
俺の幸せな妄想タイムをかき消すような怒声がこだまし、俺は眉間に剛腕パンチを喰らって吹っ飛んだ。
とおる「馬鹿野郎!
そんなものは名実ともにもっとベテランになってから読め!
おのれの意見もまだない者が、他人の意見を読んでも害になるばかりだ!」
声の主はとおる。
このショップチームのエース格だが、この昔ながらの体育会気質の根性論者である男が俺は苦手だった。
とおる「歴とした男子は華美を排するものだ。お前の CAAD 8 の乗り味が硬いというのなら、布でも巻いておけ」
ここまで言われて俺も堪忍袋の緒が切れた。
俺「そこまで言うなら勝負しましょう。もし俺が勝ったら、俺の走りについて今後何も言わせませんよ」
勝算はあった。
ちょうど、その時期そのショップでは DE ROSA PROTOS を試乗のために貸し出すということをやっており、
「どれだけ借りていいですか?」と尋ねたら、「日没までどうぞ」というありがたい返事をもらっていたのだ。
たしかにとおるはこのチームで一番の実力者だが、最近は俺も成長してきている。
上り主体の勝負に DE ROSA PROTOS の力を借りれば、きっと勝機はある。
決戦の日は次の日曜日。
コースはチームの練習でもよく使う、前半の長い上りと途中少しのテクニカルな下り、そして終盤の激坂を含むコースである。
DE ROSA PROTOS を駆る俺は前半の上りを自己ベストに迫るタイムでこなし、下りに入った。
現時点ではとおるにわずかに先行を許しているが、視界にはとらえている。
この下りを終えれば後半は激坂区間、俺に分がある。
じゅうぶん取り返せる差だ・・・
そう思った瞬間、俺は愕然とした。
下りでみるみるうちに差が開いていくのだ。
俺「馬鹿な・・・ DE ROSA PROTOS だぞ・・・下りの直線でもコーナーリングでもかなわないとはどういうことだ・・・」
その瞬間である。
路上で芝刈りをしていた謎の初老の男の表情がみるみるうちに鋭く豹変し、薄汚れた布の服を引きちぎらんばかりに隆起した右腕を恐るべき勢いで俺の顔面めがけて放ったのだ。
不意を打たれた俺はなすすべもなく吹っ飛ばされ、「一歩ずつ 千里を刻む」の看板にブチ当たり、意識が遠のいていった。
意識朦朧となった俺は、いつしかおじいちゃんの幻影を見ていた。
俺「おじいちゃん、どうして真冬でも全裸に靴下なの?」
おじいちゃん「つよし、一個の丈夫が不必要なものに身を包み着飾れば、その分だけ気が縮んで生涯しわができるものじゃよ」
そうなのだ。これは勝負に対する姿勢の差だ。
俺は勝つために策を弄し、コースを選び、あまつさえ借り物の機材を投入さえした。
そこにはたとえ力で劣ろうとも己のすべてをなげうって何とかして勝機をつかもうという気概がなかった。
覚醒した俺は、またとおるの後を追い始めた。
今日は勝負の日だと言っていたが、思えば今日俺はとおるとも、自分自身とも、まだ何者とも戦っていない。
もうとおるの背中は見えなくなっており、今さら追いつくことはできないだろうが、走り出さずにはいられなかったのである。
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【要点をまとめます】
まず、このレビューは購入しての物ではなく、1日、80kmほどの試乗によるものであることをここにおことわりしておきます。
左がPROTOS、右はRNC7で前日に同じコースを走り記録したもの。
両日とも風向きを含む天候の条件はよく似ており、公平な条件と言えそうです。
【白糸TT】距離7.2km、437m、平均勾配6%。
26:28 - 27:33
この時期&しばらく走れてない現状では上々ともいえる26:28。英彦山ごろの全盛期に乗れば、かなりのタイムが期待できるだろう。
白糸TTの1分差というのはRNC7と586UDの差と同じ。これは体感と一致。
PROTOSの30分~1時間程度のヒルクライム性能は586UDと同等と私は結論づける。
ただし乗り心地は異なる。パワーライダーほどPROTOSのよさを引き出せるだろう。
ヒラヒラした軽量感を強調した味付けは586UD。
【レッドバロンの坂】距離1.6km、31m、平均勾配2%。
3:03 - 3:12
ゆるく短い上りのサンプル。
ここに述べている3つの比較では、最もアドバンテージは小さく感じました。
【裏愛宕】距離0.6km、42m、平均勾配7%。
2:06 - 2:16
短い激坂のサンプル。
距離0.6km、42m、平均勾配7%という数字だけ見ると大したことないが、ここは序盤に20%超の激坂がある、まさに「筋トレ」である。
体感的にはここのアドバンテージが最も大きかった。
1分程度ではあるが全力のアタック。
普段山岳アタックは引き足も意識して走るのだが、PROTOSは全力で踏むと下死点で脚が勝手に跳ね返ってくる感じがある。
リズムに乗るとめちゃくちゃ踏みやすい。1分もたずに脚終わったけど。
先述の下死点で脚が跳ね返ってくる感覚ははじめての感覚。
RNC7にも586UDにもない。なんだろうこの感覚は。
ウィップするようなフレームじゃないと思うし・・・
そしてタイムがこの時期に自己ベストにわずか3秒差の2:06って・・・全盛期なら確実に2分切れるな。
逆に言えば、今の私にとって1分しか維持できない高強度でモガかないと、このフレームの意図した性能を引き出せない、とも言える。
総じて、剛性は高い。どんなにモガいても全くしならない。
それでいて、乗り心地はとてもマイルド。
軽量・高剛性・乗り心地の妥協点がとても高い。
高ケイデンスもいいが、高トルクで踏むと加速がいいと思った。
高パワーで走れる人をターゲットにしているが欠点はない感じ。
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価格評価→★★☆☆☆(このレベルの剛性を私は必要としていない。ならばもっと安いものから選ぶ)
評 価→★★★★★(軽量高剛性なのに乗り心地を犠牲にしていないのは見事)
年 式→2015