偽りのサイクル 堕ちた英雄ランス・アームストロング
ジュリエット・マカー著、児島修 訳 購入価格 ¥2400 洋泉社
アームストロングとその周囲に対する濃密な取材に基づいたドキュメントです。 タイトルから明らかなようにドーピングに関する話です。各所に散らばっていた事柄をまとめあげた時系列の物語のようになっています。驚愕の新事実とか、盛り上がるストーリーがあるはずもなく、読み進めるのに根気が必要でした。
無数のドーピング検査をすり抜けたアームストロングやその周囲の選手ですが、とくに重要だったドーピングはヘマトクリット(血液の濃さ)をあげる手法だったのではないかと思います。造血を促すエリスロポエチン(EPO)が特に有効であったでしょう。ただし、当時は使用を検出する方法はなかった様です。輸血も有効ですが、自己血輸血を直接証明するのは今でも困難なはずです。全く別のドーピングにあたるテストステロンのパッチやステロイドなどは検査でひっかからないように用意周到に使う上に、UCIもスキャンダルを恐れ、ある検査が問題になった時も、理由をつけてすり抜けています。検査はあまり有効ではなかったようです。逆にアームストロング以外のチームがどの程度がっちりドーピングをしていたかが私には気になりますが、いくつか明示もしくは暗示されています。 例えば、アームストロングより古い時代の話ですが、某選手はヘマトクリットが60%あって、「ミスター60%」と呼ばれていたなど、頭の痛い事例が出てきます。50%以上は異常でしょうし、50%を大幅に超えると、血栓症など危険な副作用が心配と言われています。危険なレベルのドーピングが禁止されるべきなのは明らかです。 ただし、クリーンかドーピングをしているか、基準は検査にひっかかるかどうかです。EPOはだめで、低酸素室の使用はOKということでは選手の安全は確保できないでしょう。その点最近でてきた、バイオロジカルパスポートという考えは良いと思います。 過去のドーピング検査はレースの際のみ調べていたわけです。がっちりドーピングをして、ドーピングなしでは達成できない過酷なトレーニングを乗り越えて、検査陽性とならない状態でレースに挑むということができていたようです。 これは擁護でも皮肉でもないですが、アームストロングはドーピングが蔓延している中でも最も過酷なトレーニングを行っていたのでしょう。ただ、あまりにも勝利への執着が強すぎて、周囲を巻き込んでためらいなくドーピングを行い、苛烈なトレーニングを行い、勝ちすぎて、目立ちすぎてしまった。そのように理解しました。
価格評価→★★★★☆(内容から考えると安いです) 評 価→★★☆☆☆(好きじゃないけど必要な本でしょう)
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