[Cycling Courses] 蔵王エコーライン
仕事が一段落したのでいぎたなく寝むりこけていたら、日付が変わる頃になって意力・気力・体力が漲ってきた。 明日は久々に自転車でどっかに・・・、と思い窓を開けてみると、えらい曇っている。 外に出て街の方を見てみると、お、空が低い、こいつはラッキーかもしらん。
そそくさと準備を済ませて蔵王に向けて出発した。 日中だったら麓までの片道40kmも走っているだけで楽しいのだけれども、今回は登り始めるタイミングを逃すと全てがパーになる。 夜中から登り始めたいので無理せず車。
深夜なので麓近くまでアッサリ辿り着き、自転車を降ろして登り口まで行き深呼吸。 覚悟を決めるつもりが実際にはビビる一方、落ち着くどころか弱気になるばっかり。 仕方ないので前後のライトとヘルメットライトを確認し、ゆるゆるこぎ出してみると不安はあっさりと消えた。 大鳥居をくぐってカーブを曲がり、真っ暗闇の短い直線で快調に回す。 ああ、自転車ってやっぱ楽しいわ、こいでるだけで楽しい、という状態は、残念ながら数十秒で完全終了。
道がやや狭くなって急に傾斜が始まる。 もう200mくらいで後悔し始める。 大鳥居から自動車専用道のハイライン入り口までは大体17km弱くらい、もう絶対無理だろと思う。 プロの入り口くらいの人だと山頂までの18.7kmを1時間切るらしいのだけれども、残念ながら自分はビギナーの入り口レベル、レースもトレーニングも全く興味がなくて知識もない。
遠い昔に陸上競技をしていた頃の記憶をたどって無理せず淡々と行こうと思ったのだけれど、あっという間にローまで落ちた。 直線だとか右カーブでは意識してシフトアップを試みるものの、左カーブだとほぼロー一択。 日中走るとコーナー前後にブラックマークがこびり付いているのが見えるので、おそらくは走り屋が車でドリドリやってんだろうと思う。 でも今日は、雨が降りそうなせいか平日のせいか深夜過ぎるせいなのか、全っ然車が通らない。 貸し切り状態なので疲れに任せて安心してフラつかせて頂いた。 昨年末に登った時には登り始めてすぐにFD調整ミスが発覚し、ローを失った。 あれを経験しているので多少は楽だろうと思っていたのだけれど、甘かった。トゥースイート。 きっちりローに落ちても余裕で死ねる。 貧な脚には12-28Tなんて乙女ギアでも役不足だった。
きつい坂と急な坂が繰り返し現れる山道を一時間近く登り、ようやくエコーラインの旧料金所跡を通り過ぎる。 年に一度の蔵王ヒルクライムではここまで70分がビギナークラスの足切り。 タイムはどうでも良いのだけれど、まだ三分の一ちょっとしか登っていないという事実に軽く絶望する。
小野寺坂道くんのように「ああああああーっ!」と叫んでみても、全っ然ペダルは回らない。 これはのりりん七巻に出てくるノリとかミナミの状態。
ふと気付くと、道の両脇から覆いかぶさるように生えていた樹木が消え失せている。 若干明るくはなってきたけれど、代わりにというか何というか、霧雨が降り出していて視界は極度に悪い。 少し先ですらも霧で見づらく、体だけでなく精神的にも極度に疲弊する。 さらには蔵王エコーラインの中でも一番の急坂と九十九折が延々同じように続く区間に突入し、もう何度も心がへし折れる。
右カーブの内側にそば屋が見えた。 そんな東雲の頃に開いてはいないのだけれど、ようやく道や景色が変わり始めるポイントなので少し気を取り直す。 カーブを抜けた先が冬期通行止めのゲートがあるあたりだ。
まだ三分の一以上残っているなあ、と軽く気が遠くなりかけていたところで、突然に霧雨が止んだ。というか霧そのものが消え失せた。 知らないうちに落ちていた頭を上げてみると、一気に視界が開けている。
雲の上に抜けていた。 目の前の空が真っ青。 真っ青っていうのはこんな青の事を言うんですねってくらいの青。 ちょうどエコーラインで数少ない直線に差し掛かったあたりで、空に向かって道が伸びていくように見えた。 道の右側には雲海が広がり、左側には山が聳えていた。 自転車を停めて振り返ってみると、すぐに後ろに生き物のような雲が漂い、その奥に道路が飲み込まれていた。
急激な精神の高揚は肉体の疲れを忘れさせる。
そう思ったのは束の間で、人の体はそんなに都合よくは出来ていないことを思い知らされた。
仕方がないので残り数キロをまたフラつきながら登り続けたのだけれども、視界が開けて明るくなっていたのは楽だった。 しかし山頂に近づくにつれ、道端にカメラを構えた人が出始めたのでうかつに呪詛の言葉を吐いたり奇声を発したりが出来なくなってしまった。 おまけに雪の残る山頂近くはまだけっこう寒いため、自転車を停めてゼイゼイやっていると心配した車が停まって声をかけて下さる。ご親切にどうも。
自転車で登れる一番上、ハイライン入り口付近に着いた時にはもう激しく後悔していた。もう二度とこんな事してたまるかと。ざけんじゃねっつんだよと。 でもまあ、何とか間に合った。
しばらく東の空を見下ろしていると、墨絵のようだった雲海の一部が明るくなってきて、その中からオレンジ色の欠片が出始めた。 雲海から少しずつ顔を出していく太陽は直視していても全く眩しくはない。 太陽が上るにつれ、雲海が隅々まで金色に染まっていく。 自分の足元よりも下の方から出始めた太陽が完全に上り切るまで、雲海の陰影も表情を変えていった。 他でも絶景に出会った事は数々あるけれど、蔵王のご来光ほど宗教的な景色は未だ見たことがない。
帰り道の下りは、只々寒い。
初めは普通にルートの紹介をしようとしたのですが、あまりにつまらない説明文にしかならなかったので好き放題にやらかしてみました。 反省は、していませんw
蔵王エコーラインの宮城側の入り口から山頂までのデータは以下の通りです。
距離:18.7km 標高差:1,334m 平均勾配:7.1% 最大勾配:12.0%
毎年5月に行われるヒルクライムレースでは山頂まで貸し切りとなりますが、通常は山頂に至る最後の約2kmは自動車専用道となるので通れません。
個人的には雲海からのご来光が一番好きなのですが、明け方を選んで行ったからといって必ず見られるわけではありませんし、山頂まで雲に覆われている日などは視界が悪く危険性も高まります。 なので、決して夜間のヒルクライムをおすすめする事は出来ません。 日中でも十分に景色は良いので、時間と体力と相談しながら安全に楽しく登るのが一番かと思います。
登っている間はほぼ汗をかき続ける事となりますので、水分と補給食は多めに準備された方が良いです。 地図では途中に幾つか茶屋のような所が載っていたりもするのですが、ほぼ潰れています。 現時点で生きている自販機は確か一箇所だけ、日中空いているお店だと多分宮城側に二箇所、じゃなかったかと思います。 トイレは途中3~4箇所あります。
時間帯によっては走り屋が出没するので必ずキープレフトを徹底し、見通しの悪いコーナーでは安全マージンをしっかり取る必要があります。
もしも夜に走られるのであれば、前後のライトと反射板、予備の電池などくれぐれも余裕をみてご準備頂ければと思います。
周辺に温泉も多いので時間がある方はおすすめですが、山形側は酸性湯なので入ると逆に湯疲れする方もいらっしゃいます。 宮城側に降りるのであれば、麓の鳥居を出て右に折れて遠刈田まで行けば神の湯という共同浴場が300円、朝5時半から6時45分、9時~22時の間入れます。
評 価→★★★★★(100%個人的好みですw)
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