購入価格 ¥2000+税
250ページ余りの本です。サンツアーのリア変速機「スキッター」に始まり、ヴェロックスの「チューブラ―タイヤ修理キット」まで、変速機、駆動系、ハブ、リム、泥除け、ダイナモランプ等々、120点のパーツが登場します。私が使っていた、そして今でも使っている、昔のパーツも多く載っています。
人はなぜ部品たちに魅了されるのか。
文学の心で解き明かす
“自転車美”の秘密。
とは、この本の帯に記された文章です。「文学の心」など露ほども持ち合わせていない私ですが、それでもこの本はいわゆる
「クラシックパーツの蘊蓄マニュアル本」
という類の本とは少し違うなあ、というのがわかりました。
*─・‥…─*─・‥…─*─・‥…─*─・‥…─*─・‥…─*─・‥…─*─・‥…─*─・‥…─*─・‥…─*─・‥…─*─・‥…─*─・‥…─*
≪緒言≫の終わりの部分からの引用です。
以下引用>
パーツは字義通り部分ではあるが、むしろそこには自転車以上に、ある種の全体性が示されている。そしてその全体性は、巨大なシステムや立派な思想よりも、小さな愛すべき円環に通じている。
<引用終わり
著者の、この確信に満ちたメッセージを心に留めて読み進んでいけば、登場するパーツの使用経験の有無に関わらず、何かを感じることが出来る、と思いました。
*─・‥…─*─・‥…─*─・‥…─*─・‥…─*─・‥…─*─・‥…─*─・‥…─*─・‥…─*─・‥…─*─・‥…─*─・‥…─*─・‥…─*
≪あとがき≫から引用します。
以下引用>
私たちは、自分の身体のあり方にふさわしいものに、もう一度立ち返るべきなのだ。その中にむしろ頭脳よりも人間的なものが現れているとも言える、手を見つめるべきなのだ。
手間ひまかけた食事も、手作りの衣装も、ハンドメイドの自転車フレームも、そういう根源的な欲求から、今、見直されているのではないだろうか。
<引用終わり
この前に重要な記述がありましたが、引用はやめておきます。
≪緒言≫と≪あとがき≫。まるでJ.S.Bachのゴールドベルグ変奏曲の最初と最後のアリアのようです。
*─・‥…─*─・‥…─*─・‥…─*─・‥…─*─・‥…─*─・‥…─*─・‥…─*─・‥…─*─・‥…─*─・‥…─*─・‥…─*─・‥…─*
パーツのページをひとつだけ、引用します。一番最後に登場する 「ヴェロックス チューブラ―タイヤ修理キット」 からの引用です。このページの副題は 「ブリキの箱の中の宝もの」
以下引用>
その中にあるものは、何一つとして、物珍しいものでもなく、また高価なものでもない。が、これが何か、これが使われた形跡があるのを理解できる人は、そしてそのことに胸が切なくなる人は、どんなレアな部品よりも、このアッセンブルにサイクリングの本質を見るだろう。自転車を友とする人生のささやかな宝石が、この箱の中にある。それは、長い時間と距離の向こうに、見えてくる。
<引用終わり
この製品はCBNにも登場しています。
https://cbnanashi.net/cycle/modules/myalbum/photo.php?lid=21貧乏な学生時代、私は愛用者でした。今も持っています。一番最後に使ったのは、いつだったか。
初めてチューブラタイヤのパンクを修理したのは、出先の歩道橋の下でした。チューブラタイヤなど入手不可能な知らない街でその日2度目のパンクを喫して万事休す。知らない街の手芸店で太めの針と糸とカッターを買い、普通の自転車店でパンク修理セットを買い、当時のサイスポ別冊 「自転車の整備と修理」のチューブラタイヤのパンク修理のページを思い出しながらの初めての作業。弱い雨が降ってきたのを思い出します。すっかり懐かしい思い出になってしまっていますが、あの時の心細い気持を、この修理キットのページは思い出させてくれました。このブリキの宝箱を購入したのは、この事件の後、でした。
*─・‥…─*─・‥…─*─・‥…─*─・‥…─*─・‥…─*─・‥…─*─・‥…─*─・‥…─*─・‥…─*─・‥…─*─・‥…─*─・‥…─*
ブリキの宝箱のページを読み終わり、あとがきを読み終えたとき、円環は静かに完成し、緒言、そして最初のパーツ、「サンツアー スキッター」に戻り、ふたたび120の変奏曲を通読したくなったのでした。
価格評価→★★★★★
評 価→★★★★★
年 式→2012