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*通常タイアメーカーはコンバージョンキットを使ったクリンチャーリムとチューブレスタイアの組み合わせを認めていない場合が多いので、実行に移す場合は自己責任で、ということになります。またシーラントによっては含まれる成分(主にアンモニア)がリムの表面を侵してしまうこともあり、A社のシーラントをB社のリムで使えたけれどC社のリムは腐食が起こってしまったというような材質や仕上げによる適性の問題も一部見られるそうで、シーラントの使用自体を認めていないホイールメーカー(e.g. Shimano)も中にはあります。タイアやリムの選定には十分ご注意ください。本レビューに出てくるクリンチャーリム、HED. Belgium C2もTL対応として開発されたものではありませんし、このStan'sシーラントもラテックス系(メーカーはアルミを腐食させる物質など入っていないと主張していますが)、あくまで非対応の製品同士を裏技的に改造しているものです。従って本レビューの内容もまた安全に使える組み合わせであることを保証するものではありませんので、ご了承下さい。
さて、本題のレビューに入ります。
高性能シーラントと超軽量TLリムのStan's Notubesから出ている、700Cサイズのクリンチャー(以下CL)リムをチューブレス(以下TL)に対応させるためのコンバージョンキットです。ロードやMTBなど用途別(ホイール径やリム幅による違い)に数種類出ていますが、一般的な700C20mm幅程度のロード用クリンチャーはCyclocross Systemを使えばいいと思います。
中身は、
シーラント(1pint=約470ml)
12mmプラスチックテープ(10yard=約9m、リム内側幅17~21mm)
リムストリップ2本(44mmバルブステム、ナット付属)
シーラント用メジャーカップ・スパウト
これらを用いて、穴だらけ隙間だらけのCLリムの気密性を無理やり引き上げ、TL対応に変えてしまうのが本品。通常CLリムはTL対応リムと違いタイアベッド側にニップルを通すための穴が開いているので、普通のリムテープを巻いただけではシーラントを保持するのに十分な気密性が得られません。そこでプラスチックテープをタイアベッドに巻きつけ、さらにラバー製リムテープを重ねてシーラントが漏れないようにし、TLタイアを使えるようにしちゃいましょうというのがStan's Notubesの考え方。
今回このキットを使ってコンバートしたのは、HED.のBelgium C2というアルミリムです。タイアは、Stan'sの指定がHutchinsonなのでAtomを使うことにしました。しかし使用するにあたって、いきなり問題が。このBelgium C2は流行りのワイドリムで、さらにニップル穴の中心が交互に左右へオフセットしているためキット付属のテープでは塞ぎきれません。しかたがないので、別途21mm幅のプラスチックテープを追加購入して対応。内壁の幅が20mm以下のリムならば付属のテープでまず大丈夫でしょうが、ワイドリムの場合には追加で購入する必要が出てくることもあります。
まず作業前に作業をする場所を慎重に選びましょう。メーカー曰く環境に対する影響も薬品による毒性もないとのことなのですが、どれだけ気をつけてもシーラントは結構飛び散るし、辺り一面石鹸水まみれ・ゴム臭くなるなるのは避けがたいので、居住空間でやるのだけは避けましょう。またシーラントは空気に触れるとみるみる硬化してドロのような湯葉のような澱がでてくるので、手早く作業しないといろいろ手間が増えることになります。注入用シリンジのチューブに詰まると特に厄介で、詰まったものを無理やり押し込もうとすると大惨事必至。通常のインナーチューブにシーラント入れるよりも気を使わされます。バルブコアに湯葉状のものが絡みついたり、ブレーキトラックに付着したものが乾いてしまうと、綺麗に除去するのは結構面倒になるので、できるだけ飛散させないよう作業したいところ…なのですがこればかりは最初は難しいでしょう。私は排水管詰まらせるのが怖かったので風呂場は避け、タイル張りのバルコニーにリム保護の為ダンボールを敷いて行いました。外なら最後のお掃除が楽チンですし、あちこちに撥ねたシーラントは水で希釈したカーシャンプーとデッキブラシで簡単にこそぎ落とせました。お風呂しか選択肢が無い場合には、詰まらせないよう台所の水切りネットなどで対策をしておいたほうがいいでしょう。
コンバージョンに限らずチューブレスタイアの装着は手間がかかると悪評が付きまとっていますが、私もご他聞にもれず最初の交換には2時間近く費やしてしまいました。ビードが硬くてなかなかリムを越えてくれないのはVittoriaタイアで散々経験しているので大した問題ではなかったのですが…最大の難所はビードを上げること=リムサイドウォールのフックにビードを引っ掛けること。一度ブレーキトラックを越えたTLタイアのビードはリムに巻いたラバーストリップの上に乗っかり、バルブからポンプで空気を送り込むと徐々にストリップの上を滑ってサイドウォールに密着する・・・はずが、どうしても隙間から空気が漏れてしまい、ビードが上がりません。もちろんストリップ上でのビードの滑りを良くするため石鹸水は吹付けてあるのですが、それでもどこかしらに隙間が生じて空気が漏れてしまう・・・試行錯誤を繰り返した結果、これはもしかしたらStan'sのキット特有なのかもしれませんが、タイアにシーラントを注入する前にサイドウォールをしっかりつまんでビードを引き上げ、ラバーストリップがもれなく石鹸水で潤滑されるよう石鹸水は霧吹きでたっぷりと吹き付けながらテンションが全周にわたってできるだけ均一になるようにすることが重要な気がしました。ビードがストリップ上をうまく滑ってくれないとストリップがよじれて気密性が損なわれ、エアとシーラントはダダ漏れ、いくらポンプを扱いてもエアは逃げる一方で一向にビードがあがらないというネガティブスパイラルに陥ってしまうようです。最初の1本には実に2時間苦闘しましたが、次の1本は20分くらいで完了。このへんはタイアの個性もあるようなので、万全の準備をした後はグッドラック!としか言いようがありません。格闘の記録はCBNフォーラムのスレッドにもありますのでご興味があれば覗いてみて下さい。
http://forums.cbnanashi.net/showthread.php?tid=246こうして苦労の末(?)TL化したホイールは1年半ほどの間、サブのさらにサブ位の出撃頻度で3,000km位しか使っていないのですが、最初に装着したAtom Tubelessにはまだしっかりトレッドが残っています。その間、FrogStarさんによるAtomレビューに出てきたような悪夢のようなサイドウォールからのエア漏れもパンクも一切ありませんでした。シーラント注入量は最初の30ml(≒1 fl oz)で継ぎ足しもしていませんが、これで恐らく必要十分な量なのでしょう。5ml位が作業中に石鹸水とともに流れ出てしまうようですが、気密性に特に問題はなさそう。ブチルチューブと比べても空気圧管理の楽チンさは特筆もので、私のセットアップでは2週間程かけて約1.5bar落ち、そのまま1ヶ月程乗らずに放置し続けても抜けきることなく4.5barあたりで安定するようでした。頻繁に乗る方なら月に1~2回エアを継ぎ足すだけで済んでしまいそうです。
本来の使い方から外れているので多少は目を瞑らなきゃならない、と分かっていても気になるのが重量面でのペナルティ。完成状態のホイールからコンバート前のホイールとタイア分を差し引いて計算すると、キット分の重量が求められます。
リムテープ1本分(2重巻) 10g
リムストリップ1本(44mmバルブステム付属、ナット付) 41g
シーラント1本分(1 fl oz、キット付属のメジャーカップ1/2) 25~30g
コンバージョンシステム単体だと、単純計算で1本あたり80g前後の計算です。これだけならばMichelinのラテックスチューブよりほんの少し重いかな?程度なのですが、この他にもにタイアそのものの重量増分がのしかかってきます。TLタイアとしては軽量な部類であるHutchinson Atomも1本あたり280g前後、最軽量でもTLは1本250g程でこれにキット分80gが上乗せされます。これはCLとしては重量級であるOpen Pave CG 24mm(1本260g)と同クラスで、Michelin Pro4 SC+R-Airといった軽量コンボと比べればホイール1本あたり100g近い差に。しかもこの差はホイール最外周部に集中することになるので、少なからず乗車感に影響も及ぼします。スムースな路面での巡航ではほとんど意識しないのですが、漕ぎ出しやヒルクライムはやはり少しかったるく感じます。実用上致命的なハンデになるものではありませんが、最軽量クラスのAtomですら感じることですから、CLからコンバートしたTLホイールに漕ぎ出しの軽快感を望むのは難しいでしょう。
その他、走行性能についてはタイア由来のものを取り除いてシーラントだけで評価を下すのは不可能なので評価を避けたいところですが、タイア由来と思われる硬めの乗り心地を除けばCLやTUと比べて大きなネガを感じることはありませんでした。乗り心地の硬さも標準的なCLタイアと比べると快適で、タイア選択次第でもっと向上させる方向に振る事も可能そうです。走行性能最重視のAtomでも、加速やコーナリング性能ではまだトップレベルのTUやCLに並ぶ域までは達していないというのが正直な感想ですが、腰砕けになったり引き摺るような低圧(Atomだと5.5bar)で高い総合性能を実現できていて耐久性も悪くないと来ると、ちょっと驚きです。
今はまだタイアの選択肢も少なく、システムとしても決して軽量ではないですし、定評あるTUやCLタイアを差し置いた上でわざわざ余計な出費と面倒を背負い込んでまでTLコンバージョンを行う意義は正直ないと言わざるを得ません。しかし総合的に見るとかなり高いレベルでまとまっているのは動かしようのない事実で、いずれMichelinやContinental、Bridgestoneのようなコンパウンドやラジアル構造に関してノウハウの蓄積があるメジャーが参入して新技術の投入競争に火がつけば、逆転する日が来るのかもしれないと思うと、とても待ち遠しくなりました。
価格評価→★★☆☆☆ (ホイール5~6本分のシーラントと、それに2本分のリムストリップとプラスチックテープでこれ。シーラント減らしてもうちょっと安く出来ないものか…)
評 価→★★★★☆(高いし不便もまだ多いですが、タイアが増えればきっと面白くなりますね)
カタログ重量→ N/A g(実測重量 1本当たりおよそ80g)