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自転車の
同人誌といえば『シクロポリス』や『ロングライダース』
漫画・アニメと言えば『弱虫ペダル』『シャカリキ!』
小説といえば…
私の中ではこの『追い風ライダー』だったりします。自転車が絡む小説は探せばそれなりにあります。例えば、高千穂氏の『ヒルクライマー』。映画なら『クイックシルバー』『メッセンジャー』『自転車泥棒』『少年と自転車』…そういえば『シャカリキ!』は映画化もされてましたよね。
好きな趣味に絡む作品というのは、意外にあるようでないなあと思っています。そりゃあそうです。自転車と一口に言っても、人によってはレース機材ですし、またある人によってはサイクリング機材です。また、オンロードかオフロードかという根本的な前提が違ったりします。よって、一般的に「自転車が絡んだ作品」といって共通認識が得られる作品って少ないはずなんですよ。
そもそも、自転車が絡んでいるから見るんだー…なんていいつつも、その作品に自転車そのものやその文化とは無関係の何かを求めてたりするじゃないですか。
前置きが長くなりました。
この『追い風ライダー』については CBN 上でもインターネット上でも様々な書評があるので今更レビューするなんてのはおこがましいのですが、実はこの本は、前述の「自転車そのものやその文化とは無関係」な話に属するのではないかなということを言いたいだけなのです、乱暴な言い方かもしれませんが。
私が各話に抱いた感想としては…
1話。テーマは自転車を通じた「喪失からの再発見」
2話。〃「人との出会い、そして生き方との出会い」
3話。〃「世代が異なっても変わらない価値」
4話。〃「出会いと挑戦」
5話。〃「喪失・出会い・価値・挑戦、そして、新たな世界へ」
自転車をきっかけに、その上で織りなすお話しなのであって、伝えたいのは自転車そのものがどうこうでもなければ、良さでも、それに付随する文化の話でもありません。
だからこそ、読後には和やかな清涼感や高揚感だけが残るんじゃないか、その感覚の正体は、どんな自転車乗りでも大好きなあの状況、そう、書名に冠された「追い風」の時の、あの感じ ― 自転車乗りじゃなくても気持ちいいと感じるあの感じなのではなかろうか、と思い至ったのでレビューしてみた次第です。
この全5話、すべてのライダーが人生という名のライドにおいて、追い風の中、あるいは、追い風が吹きそうな状況で、自転車に関わってるんです。あの感覚を知っている我々自転車乗りが読むと、その状況を精神的に追体験することができる、というのがこの本の一番の魅力なのだと思います。
作中人物を振り返ってわが身を見た時、彼らのように追い風を捕まえることができるのか、捕まえようとしているか、逃げていないか。あるいは、身近な人が追い風を捕まえようという時に協力できているだろうか。そもそも、誰かに追い風を与えることができているのか…なんて、読後にいろいろ考る時間を持つことができます。
そういう面倒くさい楽しみ方をしたい人にはうってつけですが、七面倒な本ではありません。
ポップに短編としてまとめられているので読むのに時間はかかりません。活字が苦手な方にもお勧めできます。私は、今回で12回目の読了となりました。なんか定期的に読みたくなる本なので、座右に置いても損はないと、私は思うのですよ。
機会があればぜひお読みください。
価格評価→★★★☆☆(←文庫本だと☆5かなあ)
評 価→★★★★★(←好きなものにまつわる小説は、それだけで楽しいものです)
<オプション>
年 式→ 2012
実測重量→ 281g