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ふじいのりあき氏の名著、『ロードバイクの科学』
https://cbnanashi.net/cycle/modules/newbb/viewtopic.php?topic_id=3579&forum=84#forumpost5267を読んで、さらに理論的な読み物に接してみたい!と思われた方に、次に読むとしたら、これをお薦めします。
ここで紹介する480ページほどのペーパーバック本”Bicycling Science” は第3版ですが、これが出版されたのが2004年、第2版が出たのは、1981年だそうですから、第2版から20年以上の時を経て著されたというわけで、ずいぶん息の長い話ではあります。著者のDavid Gordon Wilsonは現在、米MITの名誉教授。ガスタービンの研究を第一線で続けてきた研究者で、ガスタービン発電機の会社を興すなどの経歴もある人のようです。
”Bicycling Science”は、自転車の歴史から始まって、自転車の動力源としての人間のさまざまな機能の働きから、各種抵抗、操安性理論、構造の話からトランスミッション効率等々、自転車技術に関する様々な論述を進めていますが、この論述は、関連する多くの論文の記述をベースとして出来上がっている、というのがこの本の特徴であり、網羅的な案内書もしくは入門書となっています。著者の主観を羅列するのではなく、これまでに論文などの形で公にされてきた成果や結果を概説する、というわけですが、引用する文献もちょっと数えたところでは300件以上に及びます。何やら怪しげな都市伝説のような話は見当たらないので、安心して読むことが出来ます(笑)。
”Bicycling Science” で扱われる話題は極めて多岐に渡っており、例えば、クランクを正転した場合と逆転した場合に得られるパワーの比較、などという面白いグラフもあります。これを見て思い出すのは、何年前でしょうか、サイスポに載っていたのですが、逆転クランクで走るようにBD-1を改造した人の話です。サイスポで読んだ時も、これは面白い!と思いましたが、”Bicycling Science”のグラフを見ると、逆転駆動も大いにアリなんだな!というのがわかって、さらに興味がわきました。
雑誌などではまるで見られないトランスミッション効率に関する記述もしっかりしています。ただし、これには諸説があり、意見の一致が見られてはいないため、断定口調で語られることはありません。
この本には一体何が書かれているのか?興味をもたれた方は、このブ厚いペーパーバックを手に取られてはいかがでしょうか。
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さて、シマノでは1980年代初めに、Biopace(バイオペース)という名前で、非円形チェンリングを発売していますが、”Bicycling Science”で、この非円形ギヤの設計の背景を多少、知ることもできます。ちなみにこれを開発した中心人物は、かつてトラック競技で活躍し、後にシマノレーシングの監督として手腕を振るい、シマノセールスの社長になった岡島伸平氏ですが、恐らくはこの人と、技術開発スタッフで構成されたチームで、実測、解析、計算を行い、ハッタリではない非円形ギヤを開発したのでしょう。下肢の各部質量を考慮した動的モデルを用いて計算し、設計に役立てたようです。(Okajima, S., 1983. Designing chainwheels to optimize the human engine. Bike Techniques 2, 1–7.)
この領域は今でも研究している人がいるらしく、テキサス大の論文で
A theoretical analysis of an optimal chainring shape to maximize crank power during isokinetic pedaling.(2008)
また、ベルギーの自転車翁 Lievin Malfait(70年代に活躍した同名の選手がいますが、多分別人)らによる
Comparative biomechanical study of circular and non-circular chainrings for endurance cycling at constant speed.( May 2010)
という文献が容易に見つかりますが、これらも岡島論文を引用しています。後者は、O.symetric-Harmonic、Rasmussen oval、Rotor Q-Ring、Biopaceなど古今の非円形ギヤに彼らの解析手法を適用して、横並びで網羅的に比較しており、大変面白い内容ですが、シマノのBiopaceにはなかなか厳しい結論を下しています。
Lievinらの最新版はこれ。
Why do appropriate non-circular chainrings yield more crank power compared to conventional circular systems during isokinetic pedaling? (January 2012)
最新版は題名そのままで、適切な非円形ギアは等速ぺダリング時に、従来の円形のシステムに比べてより多くのクランクパワーをもたらすのはなぜか?という問いに答える内容になっています。
Lievinらの文献は、理科大好きの方々や機械工学系の学生にとって面白い素材になりそうです。彼らの文献を批判的に読むことで、新たな視点や研究課題を見つけることもできるでしょう。これを参考にして、いろいろと理論を展開してみるのも一興です。
( ・ ・ ・ オイコラッ、いつまで脱線してるんだ!!)
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えーっと、”Bicycling Science”に戻りますが、この本の内容は多岐にわたっています。面白いところを拾い書きしていると、とんでもない長文になってしまうし、また脱線したら大変なので、やめておきます。(実はまだほとんど何も言っていませんが。。。)
自転車の技術的側面を知りたい、とか、研究してみたい!!という方々の入り口として最適の書籍が、この”Bicycling Science” です。この本はパラパラと眺めるだけでも面白いのですが、引用文献が明示されており、元ネタ収集に大いに役立つことから、高専や大学生の卒論、修論の素材として、ここを入り口にすることも可能となるような、発展性のある素晴らしい著作だと思いました。
価格評価→★★★★★
評 価→★★★★★
年 式→2004
実測重量 660g