購入価格 ¥570円(オンライン書店Fujisan)
久しぶりに顔を合わせた二人。
流通業界誌ライターで自転車大好きのKick智君(菊智輪介君)と、家具職人でロード大好き中年のOH伊師さん(大野伊師紀夫さん)のことだ。案の定?サイスポ10月号の「2010モデル速攻試乗」を餌に放談が始まってしまった。
無論、ただ記事を読んだだけの二人だが、書いた人の苦労も知らずに、それを餌にして喋り放題である。危惧していた通りというべきか、阿呆談になってしまったのは言うまでもない。
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菊智(以下KICK) こんちは~、どうもお久しぶりぃ~。
大野伊師(以下OH) 珍しいね、仕事場に。建具の注文かい?
KICK ちょっと近くまで来たもんで。
OH どうぞどうぞ。景気悪くてさ、暇だよ。アハハ~。ま、お茶でもどうだい?
KICK 自転車だけですかね?OHさん。景気いいのは。
OH そういうのは菊ちゃんが詳しいだろうに。
KICK リーマンショックのあおりで自転車バブルも弾けたかと思ってましたけど、市場は堅調に推移してますよ。よその業界と比べちゃうと、かなりいい方。
OH ふーん。高級ロードはどうなんだろうねぇ?何十万もするやつがバカバカ売れてるのかね?
KICK どうでしょうかね。まあ、パリやミラノよりも、TOKYOの方が高級ロードを見かける頻度が遥かに高いってのは、昔も今も同じですけどね。
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OH 見たかい?サイスポ10月号。
KICK もちろん。定期購読してますから。石田ゆうすけとタクリーノとムサシの連載はこの際、カネ払って読みたいですからね。
OH そーじゃなくて、「2010モデル速攻試乗」だよ。
KICK チラと見ましたけど・・・。またツッコミですか?
OH ま、そういうなよ。菊ちゃんと語りたいだけなんだからサァ~。
◆◆◆ BH G5 ◆◆◆
OH スペインのBH、こいつはカッコいいねぇ。
KICK いきなり褒め殺しですか。
OH そうじゃないよ。この色使い、好きだね。
KICK 見た目は爽快で軽快ですね、確かに。機能面は?
OH ツールでちゃんと走って実績あるんだから、悪いわけないよ。このクラスのマシンにどうしようもない欠点なんて、そもそもあったら変だし。しかもフレームセットの値段が33万円っていうのも、微妙にバカ高くはない。
KICK でも、オレは気になるなあ。あの長身のY本が誌面で試乗してる様子。窮屈そう。あんな小さいサイズのマシンに乗って、試乗インプレもクソもないと思うんだけどなあ。
OH あれじゃ全くわからないだろうね。でも、広告あっての雑誌。そのへんは仕方ないだろうな。代理店が準備してくれたマシンに乗るしかない。メーカーの謳い文句に合わせて一丁上がりで済ませるのなら、実はインプレ記事を書くのって、手間だけど難しくは無い。乗らなくても書けるさ。
KICK 乗らなくても書けます、ね。で、このジオメトリはどうですか。
OH コンパクトロードの元祖GIANTによく似ているよね。
KICK サイズが3種類しかないところがソックリだ。これじゃ選びようがないですね。
OH スローピングの元祖がGIANTで本家がBHか。いや、元祖は日本のLEVELとかCHERUBIMみたいな町工場だったね。でも町工場はそこに胡坐をかいてはいない。彼らにしてみれば3サイズしかない、なんてあり得ないもんね。廉価で有名だったCHERUBIMフレームの値段は最近、結構つりあがってるけど。
KICK BH、トップチューブが少し短めっていうのもGIANTに似てますかね。
OH ま、最近は全体に短めになりつつあるね。軽量化に心血注げば、バックがコンパクトで自動的にベース剛性UP、次いでフロントも短くして同じくベース剛性を上げているってとこかねぇ。
KICK で、バックは結構くふうして縦剛性をコントロールしているってことですかね。
OH そのつもりでしょ。あとは、ヘッドアングルがサイズ毎に変わるけど、フォークは一緒だろうから、ステアリング特性はX-smallとMediumじゃ全く別物だろう。これもGIANTと一緒。というか、カーボンマシンはそうなってるのが多いけどね。
KICK ですね。
OH ツッコミ入れるとすれば、Y本くんのこの一言。
「・・・ビッグギヤの加速ではためたパワーをはき出すような感じで・・・」
KICK そのフレーズはライター菊地氏の専売特許じゃ?「ドクマの加速感って、独特の爆発力がある。バネのように力をためてから、一気に吐き出す。あれはプリンス以降、ピナレロの大きな魅力になっていますからね。」って、どこかで言ってましたよね。謎めいた、っていうか何言ってるかサッパリわからないフレーズですね。
OH フレームやハンドルやステムは特に、弾性体としての特性をある程度持ってるから、そりゃ、トルクをかければ撓んでエネルギーを蓄える。でも、クランクの回転数が10000回転ならバネだけじゃなくて質量要素も考えなきゃならないだろうけど、自転車なんてせいぜい100回転そこそこだから、加えたトルクに位相差なしで撓むよ。たかが100回転でエネルギー蓄積に時間遅れなんて存在するわけない。
KICK その蓄積されたエネルギーってのは、推進力と直交する自由度での仕事の結果ですよね。それって、推進力に変換されるんですかねえ?極々、単純に考えたら、変換されませんけど、ホントはよくわかっていない所じゃないですか。
OH そうだな。あっ、いやいや、オレは、Y本くんのカーボンリムホイールGRAVITY-ZEROのインプレ記事を思い出しちゃっただけなんだよ。
KICK ああ、えーっと、どんなでしたっけ?
◆◆◆ TREK MADONE 6.9 PRO ◆◆◆
OH まず、デザインがオレはキライ。イイ悪いじゃなくて、キライ。
KICK どのへんが?
OH ヘッドチューブからシートステーの一体感のあるデザインが、相当に野暮ったいね。
KICK うーん、そうですか?
OH TREKって言えば、ブリヂストンと同じくらい構造解析や実走データ計測とその解析にまじめに取り組んでるメーカーだよ。だから、このデザインにも理由があるはずなんだ。TREKが意味もなくこんなデザインしないよ。でも、野暮ったい。
KICK サイスポのインプレでは、べた褒めですよ。
OH そりゃそうだろ。ツールで勝ってるし、この10年で一番成功したレーシングブランドだからね。安心してべた褒めできる。30年前のTREKの大味なアメリカンバイクのイメージは最早、ないよ。
KICK ところがここで、往時の野暮ったさのDNAが顔出しちゃったんですかね?
OH それにしてもサイスポのインプレは気になる。まあ、雑誌は皆、同じか。メーカ宣伝文句の受け売りで首尾一貫しているのかねぇ?そのあとは、褒めのストックフレーズを次から次へと繰り出して、創造性がないね。これって、もの凄いフリーっぽく聴こえるんだけど、よく聴くと持っているストックフレーズを凄い勢いで順序良く開陳している自称フリージャズのピアニストみたいだ。
KICK へー。
OH オーネットコールマンみたいに、本当のアドリブでインプレしてほしいね。つまりインタープレイだ。
KICK それは悪乗りですね?
OH サイズは7サイズあるけど、サイスポはどうしたことか、シートサイズを載せていないね。これは手落ちだぞ。
KICK 500mmから20mm刻みでありますから、まあまあってところですかね。あと、小さめのサイズと大きめのサイズで、フォークを2種類用意してますね。これはとても親切。
OH 20mm刻みは最低限だけどね。本当は10mm刻みで欲しいんだけどね。で、シートサイズ560mmからは、オフセット40mmってのは、ちょっとカッコいいねぇ。ヘッド角度73.5度で40mmは、オレ好みのステアリング特性だ。ジオメトリにもトレイルをちゃんと載せている。イイぞトレック!!野暮ったくても許しちゃうヨォ~。
KICK そしてフレームセットで46万円。これはどうですか?
OH 内蔵ワイヤの引き回しにY本はいちゃもんつけてるけど、細部まで理詰めでよく考えて設計されているのは間違いないと思うよ。高くないんじゃない?残念ながらやっぱりオレは買わないけど。
◆◆◆ COLNAGO CLX2.0 ULTEGRA ◆◆◆
KICK 地味な造りですね。
OH まあ、中間グレードだからね。
KICK 10サイズありますね。
OH 20~30mm刻みだけど上位のEPSとかCF7に至ってはシートサイズ650mmまであるんだから大したもんだね。
KICK 一般ユーザにも、ちゃんと巨人用フレームを標準で用意しますよってことで、GIANTなんかとえらい違いですね。
OH エルネスト・コルナゴっていうオヤジは、商売っ気があまりにも強すぎて嫌いだっていう人が、特に昔からの自転車乗りには多いけど、こういうところに少し良心を感じるね。ホントはこれくらいサイズがないと、話にならないでしょ。
KICK でも、CLXって、GIANTのOEM生産ですよねぇ?となるとGIANTって大したもんだ、ってことになりません?
OH ま、そうなるね、結局。CX-1もそうだ。まあ中間レンジの製品とはいえ、世界最高のカーボン成型技術を持っているGIANTが製造してるんだったら、間違いのない製品ってことになるんじゃない?よく知らんけど。
KICK となると、3サイズしかないGIANTはコストパフォーマンスはいいけど遠慮して、CLXを買いたくなりますね。ところでコルナゴは、最上位から安いヤツまで、ジオメトリが同じですね。これ、どう思います?
OH まあ、カーボンなら剛性の変化は自在につけられるし、価格の差はその辺に出るでしょ。いいんじゃない?そもそもサイズがズラリ並ぶだけでもアドバンテージがある。あとは、ハンドルリーチとドロップ、ステムの上下と長さ、サドル銘柄と角度と後退量、クランク長さで調整すればまあ、普通はどうにかなるだろうって判断でしょ。
KICK 問題は、雑誌のインプレの信頼性が高くないんであまり参考にならないことですかね。
OH その問題はずっと残るね。ユーザーがいちいち試乗するというのは現実的じゃないし。
KICK でも、ユーザはいろんなマシンの特徴をまるで徹底試乗したかのように語る場合がありますね。
OH そりゃ雑誌のインプレ記事が原因だろ。そして耳年増が増殖していく。競技の世界と違って、趣味の世界は得てしてその傾向を持つものなんだよね。ストラディバリウスなんていう300年も前のバイオリンが数億円で流通して、素晴らしい音色だっていうお約束の符丁が成立している世界が実際に存在するけど、散々修理して、実体は別物になったとしても、ストラディバリウスはストラディバリウスとして流通するからねぇ。聴衆はともかく、演奏家自身は、本当にイイと思っているのかなあ??
KICK 最後は「クレモナ地方のニスの秘密」でアリバイ工作完了。まさにお約束の世界。タイガーウッズみたいに、錆びたアイアンで勝ちまくって欲しいですよね!?あ、違うか。
OH ストラディバリが今、生きていたら、「オレの造ったバイオリンからこんな変な音が鳴るなんて!」って嘆くかも知れないぜ。
KICK お約束の世界は厳しくも甘美ですね。
OH あのパンターニ。彼のようなプロフェッショナルはマシンなんて選ばないもんね。ビアンキだろうが、ウィリエールだろうが、カレラだろうが、パンターニの登坂スピードが同じように物凄いことに何ら変わりは無かったからね。
KICK 痛快な話ですね。
◆◆◆ CANNONDALE CAAD9 1 ◆◆◆
KICK Y本くんの書き方も微妙ですね。
OH そうだね。VitusやAlanみたいな古典的なアルミフレームとは全く違うスパルタンなフレームにしか見えないんだけどな。「・・・フルアルミとしては最高レベルの快適性を持つ・・・」ってのは本当にそう思って書いてるのかね?
KICK CAAD5時代からみてもダウンチューブのサイズは同じようなものですかね?剛性は相変わらずじゃないですか。
OH シートステーの絞り造形も今時珍しくないけど、この「砂時計」。もちろん構造的には縦剛性が落ちてコンプライアンスは上がるけど、一体どれだけやわらかくなるのか。数値で示したのを見たことがないよね。
KICK ストレートバックと砂時計バックの二種類で試乗できて、ついでに縦剛性の数値を示してくれれば物凄く面白いんだけど。お約束の世界でそれは御法度なんですかねぇ?
OH ところで、このジオメトリは親切だね。トレイルを開示してるなんて潔い。
KICK そうですね。フォークオフセットは全部45mmですから、正直ですね。
OH サイズも8サイズある。480mmからそろってるし。最低限の選択肢はあるね。
KICK それにしてもマリオ・チポリーニのSAECOチーム。スーツ着込んで広告に出てたのは結構カッコ良かったですけどねぇ。
OH そんな時代もあったっけな。
◆◆◆ JAMIS XENITH TEAM ◆◆◆
OH ハードテイルのスチールMTBのイメージが強いけど、米国じゃロードもちゃんとプロが乗って結構活躍してるらしいよ。
KICK 日本では販売網がいまいちでしたからね。ちょっと浸透してないみたいですね。それにしてもGIANTモドキですね、これまた。
OH サイスポ記事によると、サイズが44から54までで4サイズ。これはつらい。まさにGIANTモドキ。
KICK しかも、ジェイミスジャパンのサイト見たら、な、何と! 51と54の2種類しか出ていませんでしたよ。2種類ですよ、2種類。これは、それこそ冗談でしょ。米国サイトを見ると、48から61まで6サイズあるのになあ。
OH JAMISは台湾の大手IDEALのOEMが多いけど、これもそうなのかな?
KICK いずれにしてもMTBみたいな魅力には今一つ届いてませんよね。見た目は、普通。
OH JAMISの企業理念は”No Gimmick”らしいよ。見た目が普通でも乗ってよけりゃ、いいじゃん。いいのかどうか、サイスポのインプレじゃわからないけどね。でも、”Mr.徹底試乗” 安井行生氏はゼニスを結構褒めてるみたいだよ。
◆◆◆ GIANT TCR ALLIANCE SE ◆◆◆
OH オレはGIANTのデザイン、いままで好きだったような気がしてたんだけど、サイスポの写真見たら、なぜかいやになっちゃったよ。
KICK へぇ~、どこが?
OH シートチューブとトップの交差部とシートステーの交差部。随分唐突で安っぽく見えてきちゃったんだよ。どうしたんだろ、オレ。
KICK まあ、SLAM RIVALでこの価格ですからね。さすがGIANTですよ。まさに、「製造元の強みで中間マージンを排除」ってところですかね。
OH まあね。しかし、元祖3サイズだ。これじゃ選びようがない。500mmサイズで、適応身長が175~190って、本気かよ?トップチューブが555mmしかなくて、どうして190センチの大男が乗りこなせる?あり得ないね。カタログの言い値を信じて190センチの人が買っちゃったらどうする?悲劇だ。
KICK そういうの、ちゃんと教えてくれるショップで買わないと、何も知らない初心者がかわいそうな目に遭っちゃいますね。
OH 危惧するね、それを。
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OH ねえ、菊ちゃん。リアルショップに求められることって何だろうね?
KICK 「個々の商品の意味をお客さんに合わせて翻訳して提示する能力」ですよ。
OH ふ~ん?
KICK 客は、百人百様。自分の要望が何なのか、それがまず見えていないお客さんだって当然いる。とにかく一番イイヤツをよこせっていう、嫌味な金持ちもいれば、一生懸命働いて、ようやくオーダーしに来たんだ、っていう、うれしいお客さんだっている。シューズコーナーで立ち尽くしているひとは、シューズ選びの微妙な問題で悩み抜いているかも知れない。すごく知識があって色々教えてくれる「ロードバイクの科学」の著者みたいなうれしい人が来店するかも知れない。
OH うーむ。なるほど。
KICK 雑誌の役割は色々あるけど、こういう自転車があるんですよ、っていうのをわかりやすく網羅するのもひとつの役割ですよね。でも、今の雑誌はちょっと、高額マシンに偏ってますよ。実際に初心者が買うのって、10万円台が多いでしょ。そこを継続的にちゃんと扱って欲しいですよね。春先だけじゃなくて。そしてショップに行く動機付けをちゃんとできるようにしてほしい。
OH なるほど。
KICK で、インプレ記事を見て思うんだけど、初心者には難しい商品だなって感じますよ。ロードバイクは。
OH インプレ読んでも何だかよくわからない。本当は何が重要なのかが、見えてこない。まるでフィットしない200万円のバイクよりも、自分にぴったり合った10万円のバイクの方が快適なんだってことすら、伝わってこない。
KICK そうなると、ショップの役割って、重要ですよね。コアなユーザはわからないことを解決する能力がある。問題は金だけ。でも、初心者はそうはいかない。特にサイズ選びは。大変だ。
OH 初心者が、自分が何を望んでいるのかを発見できるような、わかりやすいコーチング能力がショップには求められるってことかい?
KICK そうだと思いますよ。初心者は雑誌見てもさっぱりわからない。高額マシンばかり扱っていて、どうしていいのか見当つかない。親が金持ちのアイツは最近ロードに乗り始めたばかりなのにいきなり凄いヤツ買って、エラそうに怪しげな蘊蓄を延々タレるだけでクソ鬱陶しい。ボクも自転車に乗りたいんだ。ボクは何を選べばいいんですか?なるべく安い自転車でクソ鬱陶しいアイツを豪快にぶち抜いてやりたいんです。助けてください!!
OH 随分リアルじゃん。そういう人、身近にいるの?オレはそういう人、応援しちゃうよ。
・ ・ ・阿呆談は終わらない。。。
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※ この阿呆談、もちろんフィクションです。
価格評価→★★★★☆
評 価→★★★★☆(件の連載は充実)