購入価格 ¥800
「情熱のサイクリストマガジン」、B21。
本サイトでもAstorPiazzolla氏が以下のレビューでその魅力を紹介してくださってから、読んでみた方も多いのではないでしょうか。
https://cbnanashi.net/cycle/modules/newbb/viewtopic.php?topic_id=4360&forum=841月号も相変わらずおもしろい! 私は発売日が15日であることを忘れていて、気付くとどの書店にも見当たらず、買い逃してしまったかと落胆していたのですが、運良く有楽町ビックカメラのサイクルコーナーで今月号を発見(マニアックな店だなあ)。
B21の魅力は、「人間の肉声」に焦点が置かれているところだと思います。自転車選手や自転車開発者へのインタビューが多く、本当におもしろい。サイスポやバイクラのサイクルパーツ宣伝活動よりはるかにおもしろい。読みすすめるうちに、まるで「選手」が自転車という乗り物の最も重要でおもしろいパーツのように思えてきます。自転車のエンジンであり、心臓部であるサイクリスト。そのパーツについてかなり熱い文章を読むことができる。これは本当におすすめの雑誌です。
「硬派な道もまた楽し」というコラムもおもしろいし、日本競輪学校の記事もおもしろい。新城幸也の単独インタビューは当然すごくおもしろいし、エディ・メルクスのインタビューもすごくおもしろい。とにかくすべてがおもしろい。編集者がすごくいい。熱い。かなりのサイクル好きなのは間違いない。特に高木賢という編集者が最高だ。
「11月27日午前11時。上野駅に近い東武線某駅構内で渦中の新城幸也と待ち合わせした。小雨そぼ降る中、新城は約束の時間ピッタリに現われた。傘もささずにやって来た新城は雨に濡れることもさほど気にならない様子で、気さくな笑顔を我々に振り向けた。・・・」
というリードで新城幸也のインタビュー記事ははじまる。ムードたっぷりである。「上野駅に近い東武線某駅構内」という場所がまたいい。まるで新進気鋭の、貧しいが眼光鋭い若手詩人とか小説家との対談がはじまりそうなムードである。あれ、間違って「批評空間」とか「鳩よ!」とか買っちゃったのかな? いいや。B21の魅力は、紛れもなくこのムードなのである!
私がかなり気に入っているのは、高木賢による記事の他に、AstorPiazzolla氏のお気に入りでもあるらしい、日本ナショナルチーム(ロード)監督、三浦恭資の文章である。今月も、「2008 闘いの日々」と題して、「特別寄稿」が寄せられていた。この「特別寄稿」、どうやら日清ファルマのサプリメントである「ウィグライ プロ」のPR記事のようなのだが、すさまじくおもしろい文章なので宣伝だろうがなんだろうが完全に許せてしまうのがすごい。というか、むしろこんな素晴らしい文章を読む機会を与えてくれる「ウィグライ プロ」に感謝したい気持ちでいっぱいになるほどだ。私はだから、いつか「ウィグライ プロ」を買うことになるだろう(でも通販でしか売っていないらしい・・・頑張って販路を切り拓いてほしい!)
今回の「2008 闘いの日々」は、見開き2ページ。「俺は、その選手を見たときに妙に走りそうな気がしてならなかった。お前は何処の誰?との問いに・・・」という文章ではじまるこの「特別寄稿」、相変わらずの「荒くれ者・三浦節」が炸裂している。この「特別寄稿」のすごいところは、最後の7行である。
「・・・激しい練習に耐えてみろ。精神は自分がコントロールするものだが身体は違うぞ、青い小さな袋は休養の質を高めてくれる。大きな力がかかれば筋肉は壊れる。ベストコンディションを維持するには「ウィグライ プロ」だ。さあ、飲んだら闘いの始まりだ。」
これのどこがすごいのか。それは、この最後の7行が、それまでの文章と一切関係がないところである(笑)。全く突然、複線も脈絡もなく「ウィグライ プロ」の宣伝で終わる。この爽快さ、豪快さ。さすがと言わざるをえない。たとえばサイスポの菊池武洋氏のいわゆる「提灯記事」は、何から何まで広告・宣伝であり、製品の宣伝のためにどうしようもない言葉を並べ立てるのが普通である。だが誇り高き三浦恭資は、そんなセコイ真似はしない。彼が綴るU23の若き選手たちの熱い物語は、「ウィグライ プロ」とは何の関係もない。そこには真実の熱いドラマがある。そして最後の7行を残す段になってはじめて、三浦恭資は「本来の仕事」を思い出すのである。
「ちっ、もうスペースがないのか。このへんでウィグライ プロの宣伝をしなくちゃならんのか。仕方ない。続きはまた、来月だ。」
そんなふうに三浦氏が舌打ちをしながら呟いたかどうかは不明だが、来月も、再来月もぜひこの「特別寄稿」を読みたいものである。
価格評価→★★★★★
評 価→★★★★★