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B21
2003年10月号が創刊となるライジング出版の月刊誌『BICYCLE21』の略称として書いてみた。活動休止して久しいお笑い三人組のことではない。毎月15日発売である。バイシクルクラブは『バイクラ』、ニューサイクリイングは『ニューサイ』、東京スポーツ新聞は『東スポ』というのと同じ要領である。『B21』の読みは ”Be two one” ?
『BICYCLE21』は自転車業界を多角的にレポートする業界誌出身だと私は理解しているが、昨年の5月号から書店売り扱いとなった。それ以前はもう、ペラペラの薄さで紙は上質という、ちょっと痛い雑誌だったが、店頭売りになったのを機にページ数が一気に増えて大きく様変わりした。とはいっても最新号の12月号は表紙も含めて132ページである。一方サイクルスポーツは11月号で何と2倍の260ページもある。
自転車雑誌にはインプレ系、モノオタク系、ツーキニスト系など、いろいろあるとすると、あえて言えば、BICYCLE21は、「競技そのもの志向」をひとつの柱に据える雑誌である。例えばJツアーのレースをじっくり取り上げたり、そこで戦う選手個人に焦点をしっかり合わせた記事を書く。人物本位の実に面白い雑誌だ。バイクラ草創期を思わせるようなトレーニング系の記事にも時々お目にかかることができる。そして競技とは全く関係ないものを含む連載群も非常に面白い。
頑張っているBICYCLE21を応援するつもりで私はこの3年ほど購読している。無論、勝手に応援している気になっているだけだが、応援ついでに12月号から注目記事を俯瞰してみたい。
■■■ ジャパンカップ…クネゴ、豪脚V
まずは8ページにわたって写真と文章でレース展開を追いかけた見事な記事。イタリア紙も注目するという今年のジャパンカップの様子を生々しく伝える。ゴールしたダミアーノ・クネゴ、ジョヴァンニ・ヴィスコンティ、イヴァン・バッソという千両役者たちと観衆を俯瞰気味に捉えた見開き2ページの写真が素晴らしい。そして、梅丹本舗GDRエキップアサダの挑戦を、ドキュメンタリー風に伝える。「本誌は新城、清水がレース後につぶやいた次のコメントを信じたい。『クネゴは強かった。しかし、まったく通用しない相手ではない。もっと頑張って自分を鍛えていけばなんとかなるはずだ』」 とレポートした。
次に国内無敵の女王、沖美穂の最後の戦いを見開き2ページで伝え、続けて何と4ページにわたるスペシャルインタビューである。沖はレース終盤で、ライバルの若い萩原に対し、「『勝ちたかったらもっと攻めろ。アタックしろ』と言葉を投げかけた」という。後継者への期待を込めた檄である。読み応え十分。沖という選手は最後までカッコいいままである。
■■■ Jツアー 狩野智也、年間総合V
6ページにわたるJツアーの今シーズンの総括。そして狩野智也への3ページにわたるインタビューである。狩野の野性味著しい横顔をアップで捉えた写真が見ものだ。強烈なプロとしてのプライドが垣間見えるインタビューだが、「信条、好きな言葉はありますか?」の問いには「僕は小学校時代、喘息で運動会にも出られないくらいでしたが、校長先生がやればできると励ましてくれたんです。今、こうして自転車をやっていられるのも恩師のお陰です。なので、やればできる、っていう言葉です」と答えている。
日本人宇宙飛行士が帰還すると、一体何の脈絡なのか、にわかに「やればできる、夢をあきらめないで」と小学校などで子供たちに語りはじめたりするが、なぜ、あの言葉がどこかウソくさく聞こえ、なぜ狩野の言葉に重みを感じるのだろうか。今月から私は狩野のファンである。
■■■ イタリア 「ジロ・デ・バジリカータ」 レポート
熱すぎる闘将、日本ナショナルチーム(ロード)監督の三浦恭資氏の特別寄稿だ。ジロ・デ・バジリカータで壮絶な走りを見せるヤングジャパンたちの様子を監督自ら伝える。アタックを成功させた末永周平が落車に巻き込まれ、血まみれでひどい状態になりつつも代車に乗り換え走り続けるが、救急車で病院に強制搬送される・・・。三浦の厳しい指導に実戦での果敢な走りで応えるヤングジャパン。それにしても三浦恭資は文章がうまい。本当に面白いのだ。ところがこのページ、実は日清ファルマのサプリメント「ウィグライ プロ」の広告になっていて、最後にさりげなく三浦が一言、ウィグライ プロが身体をサポートする、とくる。あれ?何だ広告じゃないか。ウマすぎる三浦。がしかし、内容が抜群に面白いのでよしとする。いやまて、あの三浦のことだ。これで得た金を選手強化につぎ込んでいるかもしれない。
なお、この「特別寄稿」は最近、毎月掲載されている。
■■■ 男なら勝負しろ
野球の清原を想起させるような非常に暑苦しい題名の三浦恭資の自伝連載はすでに第17回に突入している。今の時代、「オレは男としてやり遂げる・・・」風なことを言われたら気持ち悪いだけであるが無論、そこは三浦である。男に限定して話を進めたりする気などさらさらなかろう。競技をやるなら男も女も同じで、それは三浦の指導にもちゃんと現われている。
2007年8月号の連載第1回目は「23歳で会社を辞め、世界に飛び出す」である。何やらカッコいい題名だが、読みはじめると三浦の壮絶半生にどんどん引き込まれることになる。「大きな決断をしたものの自分には先立つものがない。そこでお金になるものはすべて質屋に入れる」「行くまでの準備期間は昼夜かまわず働き、選手なのか建設現場の作業員なのかわからないくらいだった」「結果を出し始めた時にはもうすでにお金がなくなってしまい、シーズンの真っ盛りに1人日本に帰らなければならなくなってしまう。全財産の100円玉1つを握りしめ成田に到着した」と。
第6回では1987年アジア大会の100kmチームロード(三浦恭資、高橋松吉、大門宏、佐藤敏実)を振り返る。「毎日階段を自力で上がれなくなるほど筋肉は消耗して痛い。食べて走る以外はベッドの中で死んだように寝る日が続いた。」 試合では「ゴールライン後も苦痛にゆがむ顔。雨の中倒れこみ自力では動けない佐藤選手は歩行も困難になり、抱きかかえられチームテントに向かった。」とある。
壮絶な走り、極貧、窮地、チャンピオン、チーム解散、また極貧、退路を断ったプロ選択、大怪我・・・。延々この調子である。今月号の第17回目は、「パリ・ルーベMTBで必死に逃げたが、無念の2位」では、三浦の走りを自身の言葉で再現しているが、これがまたすごい。
文章がうますぎるキング三浦の壮絶半生。薄々気付いてはいたが、速いだけじゃなかったのだ。
メゾビッコ148kmで表彰台に立つ三浦
※このphotoのみBicycleClub1988年7月号
■■■ 北へ南へ東へ西へ~古希をまたいで自転車道まっしぐら~
作家で翻訳家の75歳、伊藤礼の自転車考現学である。輪行に挑戦して難儀したこと、ヘルメットなるものへの訝しい思い、また自転車を買ってしまった・・・など、人生の大先輩にして自転車の愉しみに魅せられつつある氏が出くわす自転車的日常を淡々と描く。氏の文章のどこが魅力的なのか、その正体が今ひとつよくわからないのだが、読み進むほどに味わいは深まる。
■■■ 栗村修の自在フォーラム
第7回目の今月号は、「選手として上のステージを目指す方法 ポイントガイド<後編>」である。なるべく早くプロチームに入る、など具体的に書いてある。また、栗村氏独特の機知に富んだ文章がいい。話題はレース活動に限らず、「どんな格好がカッコいいか」風な話題もあったりする。
■■■ 欧州自転車事情
佐藤晴男が欧州の自転車事情を様々な角度からレポートするかなりマニアックなページ。ドーピングや自転車そのもの、レースの平均速度、トレーニング方法等など・・・なんでもあり。今月号は連載63回目(つまり創刊以来?)だが、「3つのジロ・ディ・ロンバルディア」である。普通に知られる、いわゆるジロ・ディ・ロンバルディアでの今年のクネゴの勝ち方、インタビュー応対などからクネゴを分析したり、イタリアの選手育成システムなどにまで言及する。まじめに面白いページ。
■■■ 読まなきゃ損する!特選パーツ・用品レビュー
あの市川雅敏が担当する2ページであるが、意外と渋いものもレビューする。今月号はユニコのエアーサドルカバーとミシュランのMTBタイヤ「XCR ROAD TS」だ。ユニコのエアーサドルカバーなどは普通のスポーツ自転車乗りなら絶対に使わないようなキワモノだが、そこを、初心者や女性のために真面目にレビューしてしまうのが、日本プロロード史上最強と関係筋から噂される市川という人なのである。何とも好ましいではないか。サインにも気さくに応じてくれる市川氏である。
なお、読まないと損するかというと、実はそうでもないと思う。
■■■ 竹谷賢二のオフロードバイク日誌
日本MTB界を牽引してきた竹谷賢二の近況報告風エッセー。今月号では野山のトレイルライドでも安全第一、ハイカーとのコミュニケーションも大事、ブラインドコーナーの減速など、竹谷自身も厳守しているということを強調している。トップ選手自らこういった発言をすることは素晴らしいことである。山でMTBを走らせる人に聞いてみると、ハイキングの人が通るときは停まって待つとか、幅があってもすれ違う時は停まるとか、道を傷めないとか、かなり気を使うらしい。竹谷は暗に、それができない人は山に入らないでくれ、でないとMTBに未来は無いですよ、と言っているのだろう。
他にも面白い連載がたくさんある。また、業界誌出身だけあって突然「電動アシスト自転車が市場拡大」とか「駐輪場特集」なるものが出現したりする。何だと思って見てみれば、最新の駐輪システムや、駅周辺での駐輪システムの導入といった重要な話につながっていたりする。
おびただしい広告の隙間に連載記事が所在無く浮遊するサイクルスポーツなど、今までの自転車雑誌とはかなり風味が違う、まじめで機知に富んだ面白い雑誌が『BICYCLE21』である。今回は、完全なる贔屓目で100%勝手に応援させていただいた。ここまで読まれた方、拙文に耐えてくれたことに感謝する。
価格評価→★★★★☆
評 価→★★★★☆