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タイヤの話である。
過酷な労働でしかも神経をすり減らすプロ メカニシャンの作業負荷を軽減し効率を高めるために、クリンチャ タイヤはレースシーンに戦略的に投入された、と私は理解している。プロは『えっ?クリンチャで走れだって!?』などとは言うまい。供給される機材に文句を言うプロなど二流、顔色ひとつ変えずに戦ってこそプロである。むろん当初、チューブラ タイヤがクリンチャの性能を上回り、重量面でも有利なのは当然だったが、プロが使い始めることで雪崩式にクリンチャの市場が拡大すれば、開発費用はクリンチャに投下されるのは必然で、クリンチャタイヤはこの10年で十分な性能を有するまでになったと言ってもよかろう。
プロフェッショナル ユースがそのままアマチュアやホビーライダー シーンに反映されるのがバイク業界の慣例であり、それに倣ってクリンチャは着々と市場占有率を拡大したが、現在に至ってホビー ユース市場での占有率は圧倒的であり、市場原理が働いた結果として、そもそも真っ当なチューブラ リムを入手することすら難しくなってしまった。クリンチャしか知らないホビー ライダーにとって、チューブラは敷居が高すぎる。自転車を自分自身で整備し、いろいろと弄繰り回すという習慣は、マクロ的にはすでに過去のものであり、今のライダーは、整備は自転車店任せという人が少なくない。その状況でチューブラと言う選択肢はすでに消滅していると言っても過言ではない。
ところでサイクルスポーツ6月号特集『上級者も知らない最新クリンチャータイヤ真の実力』に引き続いて、7月号は『チューブラー&チューブレスタイヤ、未来の扉』である。
いきなり話は過去に遡るが、2006年9月月号特集 『ロードバイクタイヤ一気乗り』 で、テスターの元全日本チャンピオン大石一夫は総論の中で次のようにコメントしている。
『今回のテストで感じたのは、クリンチャーが高性能になって、あえてチューブラーを使う場面はすごく限られてきたということ。たとえばヒルクライムTTはチューブラーでもいい。それとパンクした場合にはチューブラーは動けるけど、クリンチャーはリスクがある。それくらいじゃないかな。軽さを含めて、クリンチャーのほうが高性能だと思う。ただホイールの選択は重要だね』
最早チューブラの出番は、パンク時に交換ホイールを素早く供給してもらえないアマチュアやホビー連中のレースだけだと言いたいようである。 『・・・たとえばヒルクライムTTはチューブラーでもいい・・・』 との下りは 『オレは当然クリンチャーを選ぶよ。まあ好きな人はチューブラ選んだって別にいいけどね』 とでも言いたげな文脈である。このレポートを真に受ければ、『もうチューブラが復活することはない』 と読者が判断しても仕方が無いだろう。
がしかし、昔からチューブラに乗ってそれなりの走りをしてきた経験のある自転車人は、プロやアマチュア、ホビーなどというカテゴリにかかわらず、チューブラが消えてはいけないタイヤであることはよくわかっているはずである。昔のチューブラ タイヤであったとしても、現代のクリンチャと比較して、色褪せていないように私は感じる。クレメン クリテリウムやヴィットリア コルサCXや、ソーヨーD230などを知る者が少なからず、同じような想いを抱いているのではないだろうか。
2006年9月号タイヤ特集の『総論』での大石氏の発言には私は賛同しかねる。こういう発言が積もり積もって、自転車はだんだんつまらないものになり、マスがなびくモノカルチャー化へと進んでしまうのだ。たが、元全日本チャンピオンのプライドを賭けた、『商品テスター』 としてのコメントである。尊重しようではないか。
そして2008年、今回の特集である。
7月号特集の『総論』で、同誌ロードバイク番長の菊地武洋と、元全日本チャンピオンの大石一夫は言う。
(前略)
大石 『クリンチャーの性能も進歩しているし、チューブラ タイヤは本当に高性能じゃないと生き残れない。でも、今回テストした製品は性能的に劣っているとは思わなかった。』
菊地 『チューブラ ホイールはリムが軽いし、タイヤそのものは古くても構造として有利だって思いましたね。(中略)』
大石 『快適性はチューブラーのほうが上だよ。プロが重要なステージになると使うのも、ちゃんと理由がある。タイヤ単品で考えればクリンチャーの成長率はすごいけど、動かしがたい優位性がチューブラーにはあるってことでしょう。(中略)かつて使っていたチューブラーホイールを手放そうと思っている人も多いと思うけど、もう一度使ってから考えた方がいい。』
チューブラ タイヤが突然進化したわけでもあるまい。一貫性のない発言というのは、こういうことを指して言うのである。
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