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自民党所属の国会議員、橋本聖子氏が月刊誌サイクルスポーツで連載を開始した。『橋本聖子のセイコログ、自転車な日々』である。
6月号第一回目の内容は、スケート競技から自転車競技までアスリートとして活躍した頃の話と、桜の季節に自転車で久しぶりに皇居周辺を走ったことが極々、当たり障り無く書かれていた。なぜ今、橋本聖子氏が連載を?と感じるような平板な内容だ。そして近況報告の欄には、洞爺湖サミットに向けての取り組みと、参院環境委で質問に立つ橋本氏の写真が載っていた。全体の造りはまるで、参議院議員・橋本聖子氏の広報ページのようである。第二回の7月号では、環境に優しい自転車、という一般論と、震災の地では自転車が機動力を発揮する、という、今ではよく知られたことが語られる。前長野県知事、現参議院議員で作家の田中康夫のように自ら原付で神戸の地を走り回り、汗まみれになりながらボランティア活動をしたわけでもない橋本氏は、一般論として語るしかないのだろう。
6月号の編集後記を見て驚いた。この連載企画は、橋本氏本人からの申し出を受け入れてスタートしたものだった。同誌編集人・岩田淳雄によれば『新連載「セイコログ」。橋本聖子さんのほうから「サイスポに何か書きたい」ということでご連絡をいただいた。国会議員としてだけではなく、自転車乗りの視点でも発信できれば、ということでした。(後略)』である。
だとしたらこんなレベルの『国会議員・橋本聖子の広報ページ』など、老舗自転車雑誌サイクルスポーツには不要である。読者は他ならぬ名アスリート橋本聖子の、こんな平板な連載を読みたいと思うだろうか?アスリート橋本聖子の回顧録ならば、アスリートとしての苦悩、確執、焦り、充足感、交友関係などに関する氏ならではの着眼、発想に根ざした話を読みたいだろう。私は、自転車競技でオリンピック代表を競った、パルコ・レーシングの鈴木裕美子氏に関する話を読んでみたいと思う。ソウル五輪自転車競技代表選考会で敗れた鈴木は、記者会見で少し涙を浮かべ、しかし晴れ晴れとした笑顔で、新参者ではあるが類まれなアスリートの橋本にエールを送った、と私は記憶している。一生懸命努力してきたが橋本に敗れた鈴木をテレビで見て、鈴木がとても立派に見えたのを私は記憶している。そして橋本は周りから色々言われて苦悩しただろう。新参の橋本に簡単になびくことで、地道に努力してきたもののプライドを踏みにじったアマ車連幹部。あの日々を自転車雑誌に書くことは、半ば橋本氏の責務ではないか、とすら私には思える。
そして、政治家・橋本聖子としてのコラムであるならば、一期一会と覚悟を決めた闘いに敗れ、政界を引退した『木枯し紋次郎』中村敦夫氏のように、世界観や政治、経済についての思想を鮮明に示し、自転車を通して見た環境問題への問題提起と、仕組みの構築にまで言及した自身の行動を伝えることで、議論を喚起するべきである。言うだけならただの評論家である。当たり障りの無いイベントを企画するだけならただの広告代理店と同じである。自転車が環境に優しいと言うなら、そして、『将来を見据えた地球環境対策はもっと早くからやるべき問題でした』と言うのならば、自転車が地球に優しいというだけではなく、政治家らしく、それを活かす仕組み作りと法整備に走り回るのが役目と言うものである。
8月号以降も平板な広報PR程度の内容でしかないのならば、連載はご遠慮願いたい。そして、サイクルスポーツ編集者には、政治家を自転車のために使い倒して利用しつくすのだ、という確固たる戦略を持っていただきたい。政治家が相手なのである。『・・・橋本聖子さんのほうから「サイスポに何か書きたい」ということでご連絡をいただいた。・・・』などと、呑気なことを編集後記で書いている場合ではない。
長年サイクルスポーツを購読している一読者として言わせていただけば、6月号や7月号の内容レベルであれば、全く読む気がしない。巻頭コラムに等しいページに鎮座するのである。私なら、たとえば今が旬の作家・高千穂遥氏や、なぎら健壱氏、アマンダの千葉洋三氏、障害者自転車に積極的にかかわる元プロの市川雅敏氏、ベテラン自転車ライターの鉄人、いや今では哲人の風格が漂う小林鉄夫氏の巻頭コラムを読んでみたいと思う。巻頭を飾るにふさわしい自転車人は、他にもたくさん存在するのだ。
価格評価→★★☆☆☆
評 価→★☆☆☆☆