購入価格 ¥1470
あまりの面白さに、手にとって即購入してから、一年半が経ちました。
開くたびに、本当によく出来ているなあ、と感心するこの本、中国、台湾、韓国でも翻訳出版されているそうです。優れた内容は国際的にも通用するというのは、ある種の文学作品とか、理工学の専門書みたいですね。まあ、エンゾ早川氏とか、ほかの方のも色々出てはいますが。
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この本を読んだ時、あのときの感触を思い出しました。
1976年の春、中学三年のときに買った、故・長岡鉄男氏の「続・オーディオ日曜大工~スピーカーシステムの設計」
これです。
320ページの本ですが、なにやら指数関数とか三角関数とかいう言葉と、スピーカシステム形式に対応するいくつかの数式が出てきますが、図が多く、わかりやすい本です。中学生の私はあまり理解もせず、ただ、数式に値を代入して、スピーカユニットに合わせた箱の設計をして、そして妄想に耽っていました。
この本は、いわゆるアマチュア向けの、スピーカシステムの自作分野の草分け的名著なのですが、創意工夫のテンコ盛りで、面白すぎました。パイオニアやフォステクスやJBLのスピーカユニットを手に入れ、電卓を叩いて設計し、板を裁断し、組み立てて仕上げて行く有様を、唯々、妄想して悦に入っている自分がいました。貧乏だったので、せいぜい、1000円くらいのスピーカと、一枚1000円の畳大の12mm厚ラワン合板を買って、のこぎりを引いて作って、ラジカセにつないで、「おおーっ、スゲー」とか言っていただけですが。
そしてこの長岡鉄男氏、安物だろうが高額品だろうが、バイアスなしで評価する。舶来品はスバラシイという文脈が訳もなく正当化されるのがごく普通の風景だった当事のオーディオ論壇では、この人、かなりの変わり者。私にはあの時、氏が、貧乏人の味方に見えました。この長岡鉄男というオッサンは私にとって、燦然と輝く、紛れもないヒーローだったのです。
「おい小僧、安いラジカセだっていいんだぞ」
そんな風に言ってくれるやさしいオッサンに違いない、と妄想は膨らむばかり。
まともなものなど作れなくて、ガラクタしかいじりませんでしたが、本当に楽しかった。今の自分の仕事のルーツがココにあるんじゃないか?と思うほどです(仕事は音響関係じゃないですが)。
あれから32年後、中学三年の時に貪るように読んだあの本と同じニオイを「ロードバイクの科学」に感じたというわけです。
上の方のレビューにもありますが、この本をナメるように読む子供がいたとしたら、その子供が乗っている自転車が安物だろうが何だろうが、また、自転車を持っていなかったとしても、その子供は、かなり幸せな経験をしているのではないか、と思うのです。妄想がどんどん膨らむ、実にすばらしい本です。
「ボクもこのオジサンみたいに色々試してみたいなあ~」
自転車ブームに便乗し、2匹目のドジョウを狙え!とばかりに、次から次へと現れては消えていく数多の自転車本とは根本的に出来が違うこの本。他ならぬこの本の2匹目を狙うだけの素養と気力のある自転車人は、いないのでしょうか。
価格評価→★★★★★
評 価→★★★★★
年 式→2008