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"Effects of Chainring Type (Circular vs. Rotor Q-Ring) on 1km Time Trial Performance Over Six Weeks in Competitive Cyclists and Triathletes " は、ROTOR社”Q-Rings”の効果を評価した2012年の論文です。
http://digitalcommons.calpoly.edu/cgi/viewcontent.cgi?article=1107&context=kine_facCalifornia Polytechnic State University(カリフォルニア工科州立大学)の研究チームによるもので、“International Journal of Sports Science and Engineering” の “Vol. 06 (2012) No. 01, pp. 025-040” に掲載されています。非円形ギヤ関連の論文として興味深い内容だったので、簡単に紹介させていただきます。16ページにわたるフルペーパーです。
一言でいうと、Q-Ringsに対して肯定的な結論を導き出しています。
なお論文誌、International Journal of Sports Science and Engineeringはこちら
http://www.worldacademicunion.com/journal/SSCI/default.htm*─・‥…─*─・‥…─*─・‥…─*─・‥…─*─・‥…─*─・‥…─*─・‥…─*─・‥…─*─・‥…─*─・‥…─*
論文の内容を大雑把に要約します。
■■ 研究の目的 ■■
6週間の試験期間を使って1km T.T.パフォーマンスへのQ-Ringsの影響を調べる(プレテスト期間を含めると6週を超える)
■■ 試験方法 ■■
●プレテスト週に、被験者(自転車とトライアスロンの男性競技者)8人に対して、まず、各人の自前の自転車で最大酸素摂取量計測と1km T.T.の予備試験を行う(この際のチェンリングは各人が使用している従来のもの)
●続く第0週では、Graded submaximal exercise tests(段階的に負荷を上げて行う試験だが、最大負荷までは到達しない)を行ったのち、従来チェンリングの自転車を使った1km T.T.を行い、その後、調整期間を用いて同じ歯数のQ-Ringsに交換する
●次に、被験者はQ-Ringsを装備した自分の自転車を使って、第1から第3週ではGraded submaximal exercise testsと1km T.T.を行い、第4週目は最大酸素摂取量計測と1km T.T.を行う
●第5週に元のチェンリングに戻して最大酸素摂取量計測と1km T.T.を行う
●競技者は「オフシーズン」を持っているものだが、この試験では競技シーズンの途中で、1kmT.T.と運動テストを繰り返し行うことで、プレシーズンのトレーニング中に現れてくる心血管系の効率が漸進的に増加することによる混乱の影響を避ける
・・・以上、実に6+1週間にも及ぶ細心周到なテストを実施しています。
(論文のTable1を引用)
■■ 計測 ■■
酸素摂取量、二酸化炭素排出量、心拍数、換気量、呼吸交換比、および知覚運動を、Graded submaximal exercise tests中に連続的に測定し、血液の乳酸濃度は各負荷グレードの所要時間3分のうち、最後の30秒間に測定します。プレテスト週、5,6週目には最大酸素摂取量の計測を実施します。
■■ 主な結果 ■■
次のとおりです。
1)従来の円形チェンリングと比較して、Q-Ringsを使用した1km T.T.のパフォーマンスが向上した。平均時間で1.6秒(p <0.05)、平均速度では約0.7km/h(p <0.05)、平均パワーが約26ワット(p<0.05)だけ増加した。(注:p<0.05というのは、大雑把にいうと「この効果がサッパリ得られない確率は5%未満」という意味の統計的表記です)
2) Graded submaximal exercise testsにおいて、第2週〜第4週の酸素消費量と第1週〜第3週の心拍数を評価するとQ-Ringsで有意に低かった(p <0.05)。さらに、Q-Ringsを使用したわずか1週間後に1km T.T.での向上が見られ、その結果はQ-Rings を使用したその後の1km T.T.で一貫していた。
3) 今回の試験結果は、Q-Rings使用による1km T.T.のフォーマンスの向上のためには競技者のQ-Ringsへの適応期間が必要である、という考え方を支持しない。Q-Rings使用時に、中枢神経系が従来チェンリングによるペダリングとは著しく異なる課題に直面していないことを試験結果は示唆している。それはすなわち、Q-Ringsは、ペダルに力を加えるために使用される協調系の破壊を示すような酸素消費量または心拍数の初期増加を引き起こさないことを意味する。逆に、従来の走行で使用されている、よく確立された調整パターンは、自転車の駆動系にQ-Ringsを適用するのに適しているように見える。(注:つまり違和感なくQ-Ringsに移行できるということでしょう)
5) 評価は1km T.T.に限定したが、Q-Ringsは、クリテリウムのようなレースや1km T.T.と同様の強度と持続時間でペダルを回す、ロードレースの最終局面にも有益であり、さらに、 Graded submaximal exercise testsで観察された酸素摂取量と心拍数の低下を考慮すると、耐久型競技の場合にはより大きなエネルギー節約を実現できると考えられる。
6) 最終週に従来チェンリングに戻して試験を実施したところ、パフォーマンスが元に戻った。
※結果を示す表やグラフは、リンク先の論文で確認してください
http://digitalcommons.calpoly.edu/cgi/viewcontent.cgi?article=1107&context=kine_fac*─・‥…─*─・‥…─*─・‥…─*─・‥…─*─・‥…─*─・‥…─*─・‥…─*─・‥…─*─・‥…─*─・‥…─*
Q-Ringsに対してかなり肯定的結論を導いたこの論文ですが、一方で、過去の各方面での研究を網羅的に総括することで自分たちの研究を客観的に位置づけており、説得力のある内容となっています。これは序盤の2ページ余りを費やす ”Introduction” の部分を指しますが、ここは読み応えあり、です。
被験者の協力によって成立する試験の結果は、いくらでもうがった見方ができてしまうもので、最終週の従来チェンリングによる1km T.T.で、示し合わせたようにパフォーマンスが元に戻ったのは、Q-Ringsに対する被験者の信仰が醸成されたことによる抑制効果ではないか?などとイチャモンをつける人もいるかも知れません。可能な範囲で公正を期す努力が周到に払われたこの試験結果に対して、私としては、納得できるものを感じ、信頼すべき研究チームによって試験が行われたのではないかと思いました。
皆さん、如何でしょうか??
8人の1km T.Tタイムの平均値を見ると、トラックエリートではない、ごく平凡なロード競技者のそれです。彼らにしてみれば1.6秒程度のタイムの増減は何もしなくてもあり得る数値かもしれませんが、この増減とQ-Ringsとの相関を確かなものにするために時間以外の計測を縦横に援用しています。こういうテストを適正に実施して適正に評価するためには、ここまでやらなければならない、という当事者の意気込みを感じました。
なお、この論文が引用する過去論文などの数は36編ほどです。多くは有料閲覧ですが、概要は検索すれば閲覧可能です。シマノのBiopaceを扱った論文もあります。
評 価→★★★★★(タマにはこういう読み物もイイものだ・・・)
年 式→2012