購入価格 ¥20,000~23,000円、@ World Import Tools (¥20,000を切る店もあるようです)
・製品概要
トルクハンドル セット内容: トルクハンドル(ドライバー型1.0~5.0Nm)、マグネット付ビット対応シャンク、調整用ヘックス(通常の3mmとして使用可) +ビット#1・2、-ビット#2・3・4・5、トルクスビット8・9・10・15・20mm、ヘックス2・2.5・3mm、ポジドライブビット#2・3、校正書、専用ハードケース
マルチトルク セット内容: マルチトルク(ガングリップ型3.2~16Nm)、マグネット付ビット対応シャンク、調整用ヘックス(通常の3mmとして使用可) +ビット#2・3、-ビット#5・6、トルクスビット20・25・30mm、ヘックス3・4・5mm、ポジドライブビット#1・2、校正書、専用ハードケース
PB Swiss Tools製のトルクドライバーです。価格は残念ながら両方のセットではなく、片方のみのものです。それぞれ単品での販売もあります。肝心のトルクレンジですが、ドライバー型1.0~5.0Nm、ガングリップタイプ3.2~16Nm。これ以外に自転車では出番はないかと思いますがレンジ0.4~2.5Nm の精密機器用や更に精密な10~80Ncmのラインナップもあります。
・使用方法/使用感
グリップのおしり部分に付いている液晶を押して現在設定されているトルクをまず確認します。ここで液晶を長押しするとISO表示(Nm)とフィート法表示(ft/lbf)を切り替えられます。トルク閾値の設定はシャンクを抜き取り、グリップ部分の内部に付属のヘックスレンチを差し込み、締め込みで数値を上げ、緩めて下げます。 0.05Nm単位で数値が変化します。液晶にはオートオフ機能が仕込んでありますので、消えてしまった場合はもう一度液晶をプッシュです。シャンクとビットを再び装着してネジを締め込んで規定トルクに達するとカチン!と強いクリック感があり空転します。なので些細なことですがビームタイプにありがちなオーバートルクの心配はありません。尚、デジラチェのようなリアルタイムでのトルク測定機能や電子音による警告はありません。グリップはmascagniさんがレビューされているドライバー同様スイスグリップ採用で、しっかりトルクが掛けられます。昔のマルチクラフトグリップのあの饐えた匂いがなくなったのは吉報。
・精度について
どちらも+/- 6%、デジラチェが確か正逆両方3~4%ですからスペック上はちょっと見劣りします。測定は5刻みですが1/100Nm、校正も可能。が、デジラチェ購入時にトルク測定器で試させてもらったのですが、警告音が断続から連続に切り替わり、トルクを掛けるのを止めるほんの僅かな間に結構な誤差が出ているのです。これは私がヘボなのももちろんあるのですが、工具でメシ食っている人にやってもらってもやはり0.1Nm程度の誤差が排除しきれませんでした。デジラチェ、実際の使用では必ずしも正確ではないようです。もちろん自転車のパーツはそこまでデリケートではありませんから実用上は問題ありませんから、極端な言い方をしてしまえば精度に関して神経質になりすぎても仕方のないことだとも言えるでしょう。1/10Nm以下単位の誤差がどうしても気になって眠れない方や定期的な校正などやってられんわ!という方はStahwilleのトルクレンチをどうぞ。あちらは性質の悪い冗談みたいな値段ですが正確無比、きちんと扱えば基本的に校正不要で文字通り一生モノです。PB製のナノコートビットは精度・強度とも十分実用に耐えますが、トルクの掛けやすさではWeraに、強度はHazetに軍配が上がるでしょう。自転車しかいじらなければPBでもうすでに十分以上だと思います。
ちなみに工具やさん曰くトルクハンドルの方はクラッチタイプで、規定レンジ内ならば使用後設定値を戻さなくても大丈夫とのことですが、一般的なプリセット型トルクレンチを保管しておく際は調整機構を可能な限り一杯に緩めるのではなく測定可能なトルクレンジの最小値にしてから仕舞わなければなりません。これをサボったり目一杯緩めきってしまったり締めきったまま長時間放置すると精度が狂います。デジラチェなど軸の撓みでトルクを測定するビームタイプのものにはこの作業は関係ありません。正確な測定を期するならば、デジラチェも年1回程度の校正はしたほうがいいとのことでした。また、形式に関係なくトルクレンチの使用は構造上測定可能なレンジ下限のおおよそ+20%、上限-20%に収まる範囲に留めるべきだというのが常識です。PBトルクハンドルを例に取ると測定範囲が 1.0~5.0Nmですから1.2~4.0Nmが実用範囲、ということになります。トルクもちろん、メーカーや機種による差異はありますが、トルクレンチご購入の際は要注意です。
・総評
冒頭でも申しましたがこの工具の良さはビットソケット故の広大な守備範囲と手軽さ、そして構造のシンプルさと軽さに起因する圧倒的な扱いやすさ、これに尽きます。お持ちの方は既にお気づきだと思いますが、デジラチェは基本がビームタイプなので水平面以外で高トルクを要する作業(例えばBBカップ取り付けとかですね)で変な方向へトルクを掛けてしまうとあっさり測定エラーを起こし、もう一度測定し直さなければならないケースが頻発します。さらに最新型以外のデジラチェは測定時フリーモード(グリップが不安定にグラグラ揺れる設定)にしなければならず、これもことさら測定ミスを誘発します。欲張って最初の一本にわざわざレンジの広い9.5sqのものを買ってしまい、結局このイライラと工具自体の重さに起因する取り回しの悪さがアダとなり、私のデジラチェはもはや工具箱のコヤシになってしまいました。一般的なヘックス以外にもいじり止めTORXやどマイナーなポジドライブまでほぼありとあらゆるネジに対応でき、シャンクを差し替えれば6.3・9.5sqドライブのソケットも使えて手持ちの工具を生かせる。それに、これが一番重要なのですが、ドライバータイプであるが故の取り回しの容易さがあって、10Nm以下の作業ならデジタルトルクドライバーの圧勝です。私は、一般のプリセットレンチを含めてラチェットタイプはもう面倒で使用を避ける始末です。
一方でデジラチェに比して劣っている点もあります。まず、ラチェット構造になっていない点。ですが、これはドライバータイプなら持ち替えれば済むだけですからさほど問題になりません。次に、デジラチェならスイッチで簡単にできるトルク設定が、ヘックスレンチでネジを回し液晶で数値を確認しなければならない点。これはグリップにダイアルを付ければ解決できたのでは? 改善が望まれます。液晶の電池も問題です。10年は持つらしいですが、交換不可。最も重要なのは、正転方向にしか対応していないことでしょう。トルクレンジの問題もありますがBBカップには使用不可、フルカーボンクランクを使用されている方だとペダル取り付けの指定トルクが10Nmだ!といったケースもあり得ると思いますが、この製品は逆転非対応なので出番なしです。これに関してはデジラチェとはっきり優劣の差が付いてしまっています。もともとソケット類の付いていない他社製レンチと比較するのはフェアじゃありませんが、ドライバータイプのセットは肝心の4mm・5mmヘックスが抜けてます! 800円程度でバラ売りされてますが、ごくごく一部の輸入組立家具ぐらいでしかお目にかからないポジドライブビットなど付属させずヘックスをもっと充実させて欲しいものです
いくつか問題もありますが、使い勝手が良くてとても気に入っています。私もデジラチェを持っていますが、このマルチトルクハンドルを入手してからというもの使う機会がめっきり減ってしまいました。トルクレンチが必要になるハンドルやシート周りでレンジは4Nmもあればもう十分ですし、ラチェットレンチタイプのものよりもクルクルっと回すだけで締められるドライバーの方が作業が圧倒的に楽で速いからです。たしかにデジラチェと比べるとトルクレンジの割に高いように思えますが、実際にデジラチェはソケットも揃えなければならず、1つ当たり1,000~2,000円のソケットを必要なだけ揃えていくと結局システムトータルとしての価格は逆転します。デジラチェ買う方はおそらく拘ってPBやWeraを買われるんじゃないかと思いますし、自分もそうでした。あれもこれもと揃えると気づけば最初のトルクレンチに20,000~25,000円をかけてしまうことでしょう。一方、このデジタルマルチトルクハンドル・ドライバーは自転車整備に必要なビットの殆どが最初からセットで付いてきます、しかもPB謹製。ビットソケットですから高トルク作業には向いていないのですが、自転車ではBBとスプロケットを除き10Nm以下が殆どですからビットでも何ら問題ありません。6.3sqまたは 9.5sqのソケットで揃えるよりも確実に安く、保管場所も取りません。自転車だけなら不要ですがシャンクと一体成形のヘックスや、6.3sqまたは 9.5sqドライブソケット対応のシャンクも販売しています。
初めてのトルクレンチを探している方はガングリップタイプのものを考慮されてはいかがでしょうか。自転車の殆どの部分がカバーできて、扱いも簡単です。デジラチェやその他のプリセットタイプレンチを既にお持ちで重さや扱いの面倒臭さに閉口している方、ハンドルやサドル周りなど5Nmまでが使えればよいという方はドライバータイプのものを入手されると作業がものすごく楽になりますよ。
価格評価→★★☆☆☆(定価だと厳しいですが、20,000切るなら★x4あげたいですね)
評 価→★★★★☆(欠点もありますがデジラチェ以外にも選択肢はありますよ、ってことで)