購入価格 ¥122,000
【選定の経緯】
10年ほど前に購入したサスペンションが、とうとう修理不能に陥ってしまったので、久しぶりに新調することになりました。もう直せないと聞かされた時に胸に去来した、愛着あるものに捧げられる惜別の念と、やがて訪れる新しい邂逅に向けられる淡い期待が織り成す相克は、何とも言えず豊かなざわめきなのでした・・・・・・。
さて、数多のメーカーがしのぎを削る昨今のサスペンション市場ではありますが、各社のサスの性能に加えて代理店のアフターサービスも勘案すれば、特定メーカーのエンスーでもない限り、ROCK SHOXとFOXの2社以外は、なかなか選択肢に入って来ないのではないでしょうか。私もこの2社のXC用モデルのみを、時間をかけてとことん比較検討しました。REBA XXとREBA TEAM、そしてF100 RL Remoteの三つ巴の戦いになりましたが、結局僅差でREBA XXの勝利に終わりました。決め手は油圧ロックアウトと、後付けのU-TURN AIR(ストローク可変システム)です。
ダンパーの種類、U-TURNの有無、ロックアウトシステムの違い、カラー、アクスル径などにより、非常に細分化されたラインナップになっていますので、選定作業もなかなか骨の折れるものでしたが、なんとか理想に近いものを選択することができました。選んだのは、26インチ、9mmクイックのモデルです。
【ロワーレッグ】
アウターバテッドが施されたロワーレッグが特徴的です。メタルブッシュが圧入されている部分だけが太くなっているわけです。先代のREBAのちょっと丸っこくてもっさりしたロワーレッグよりも、随所にエッジが利かせてあり、ずいぶん引き締まった印象を受けます。
このように造形自体は非常にスマートなのですが、ステッカーが地味を通り越して貧弱なのが残念です。なぜこれほどまでに味気のない、自己主張の弱いグラフィックにしたのか、理解に苦しみます。SRAMに吸収されたとはいえ、元アメリカンブランドらしく、もっと華やかな感じにしてほしかったように思います。こればかりは、FOXの適度にポップで茶目っ気のあるロゴのほうが断然素敵です。あの尻尾は可愛らしいくせにクールで、非の打ちどころがありません。
ディスクブレーキ台座は、最近主流になりつつあるポストマウント・タイプです。キャリパーの位置決めが簡単ですし、ブレーキ剛性も理論上は向上しているはずです。それよりなにより、ボルトが直接ロワーレッグに接触しないので、塗装がはげることが少なく、ロワーレッグの酸化、劣化(マグネシウムは内部から酸化するそうです)に気を揉まなくて済むのが有難いです。インターナショナル・スタンダード台座では、着脱の度に台座周辺からペリペリと塗装の剥離が進行してしまうので厄介なのです。
【油圧ロックアウト】
このモデルのいちばんの売りは、油圧制御のリモートロックアウトでしょう。従来のワイヤーによる制御でも、とりたてて不満はなかったのですが、このXXを知ってしまった今となっては、なんとも安っぽく感じられてしまいます。進歩とはやはり一面では残酷なものです。ワイヤー制御のものは、トリガーを倒し込んでロックし、ボタンを押して解除するのですが、操作音は「ガチャ、バタン」というせわしない感じです。いっぽうのXXはというと、「・・・・・・、・・・・・・」そうです、音もなく作動します。しかも、このタッチがなんとも言えず上品で滑らかなのです。しっとりという形容がぴったりです。
さらに、1つのボタンでオン/オフするので、親指の動きも少なく、ストレスフリーの操作を実現しています。音もなく密かにロックアウトして、一気にダンシングでダッシュすれば、きっと周囲の選手を出し抜けるに違いありません・・・・・・?
先代の、耐久性にも難がありそうな樹脂製のレバーと異なり、ポリッシュ主体の、金属の質感を強調した高級感溢れるデザインになっています。また、クランプ部はヒンジで、着脱の簡便性に一役買っています。グリップやブレーキレバー、シフターを取り外さなくても、ロックアウトレバーをハンドルから外せますので、サスを使い回す人には便利でしょう。ただ、取り付けネジはトルクスヘッドです。
それから、「マッチメーカー」というパーツが付属しています。ロックアウトレバーをSRAM傘下のXXシリーズのシフターとブレーキレバーと合わせれば、クランプ部が1つにまとめられるという、なかなか優れたアイデア商品です。金銭的に余裕のある人や凝り性の人は、「ならばSRAMで統一しよう」という気になるのかもしれません。いやあ、商売上手ですね。新型XTRでは、シマノも似たような機構を打ち出しているようです。
ロックアウトレバーで気になった点を挙げておきますと、先代のものよりフラッド・ゲートの調整幅が狭くなっているように感じられました。ロックアウトレバーの根元にフラッド・ゲートの調節ダイヤルも装備しているのですが、どれだけマイナスに振っても、ブローオフの閾値が高いのです。もっとも調整ミスの可能性もありますが、付記しておきます。
【ダンパー】
XXのダンパーの性能自体は、REBA TEAMに搭載されているブラックボックス・モーションコントロールに劣る(ちょっとショック!)そうなのですが、油圧ロックアウトと引き換えということなので、ここは妥協するしかありませんでした。ロックアウトの操作感よりサスペンションの動きそのものにこだわるという人は、ブラックボックス・ダンパー搭載のモデルを選ぶようです。正直なところ、私も相当迷いましたが、結局、「最上位モデルという正義」の前に屈してしまいました。先代のダンパーでもなんら不満はなかったので、良しとしているのですが・・・・・・。知らぬが仏なのかもしれません。
ダンパーについて重要な注意点を付け加えておきますと、購入後になって、XXダンパーにはロースピード・コンプレッションの調節機構も装備されていないことが判明しました。代理店からは事前に調節可との回答を得て、購入に踏み切ったわけですから、これは頂けません。本国サイトを確認したところ、REBA XXでは、ロースピード・コンプレッションの調節可とありましたが、これは誤記です。実際、SID XXやRevelation XXでは、ロースピード・コンプレッションの調節は不可となっており、XXダンパーは、この調節機構を持たないわけです。ロースピード・コンプレッションに関しては、それほど強いこだわりはなかったので、目を瞑ることにしましたが、後味が悪かったのは言うまでもありません。
【U-TURN AIR】
今回の購入に際して、費用はかさんでしまったのですが、後付けでわざわざU-TURNシステムに変更してもらいました。私がこれほどまでにU-TURNを熱烈に支持しているのは、このシステムが荷重移動をサポートしてくれるからです。左肩のダイヤルを回すことで、トラベル量を90mm~120mmの範囲で調整できるのですが、実際使っているのは、90mm~110mmの間です。
その差20mmとはいえ、決して気休めというわけではありません。上りではトラベルを詰めて、肩下寸法を縮めてやれば、前輪がめくれ上がることを防いでくれるので、激坂にも対応しやすくなります。下りでは、トラベルを増やして肩下を伸ばせば、操作性が向上しますし、前転の恐怖も少しは和らぎます。また、「今日はなんか乗れてないな」というときにもトラベル量を変えてやれば、ある程度まで持ち直すこともあります。おそらく身体が硬かったり、荷物が重かったりで重心が微妙に狂っているのを、修正してやることができるからでしょう。
【32mmインナーチューブ】
先代のREBAのレビュー
https://cbnanashi.net/cycle/modules/newbb/viewtopic.php?topic_id=5725&forum=5でも触れましたが、やはりインナー径32mmの効果に疑いを差し挟む余地はありません。ダブルトラックをどかどか下っていく場面で、もっとも明確にその恩恵に浴することができるでしょう。速いのは言うに及ばず、バイクの挙動が安定していて、いつでも自分のコントロールの下にあるという安心感があります。
また、バイクを倒し込んだときも、グニャーとフォークがたわむ、あの不快な感じがなく、これまた安心感があります。右へ左へとバイクを倒して複合コーナーを駆け抜ける場面では、そのポテンシャルを存分に味わえたという満足感(錯覚?)に見舞われ、1人でもニタニタしてしまうほどです(笑)また、ストローク感自体も全域において非常に滑らかでナチュラルです。
【総評】
楽しくて安心。これほど素晴らしいものはなかなかありません。非常に完成度の高い逸品と言えるでしょう。10年やそこらで修理不能、そして買い替えという現状を受け入れるのは、計画的廃物化の戦略にまんまと乗せられ、結果的に浪費社会の一翼をがっちり担ってしまっているようで、怒りや後ろめたさもあったのですが、実際に使ってみると、やはり、10年前のサスペンションとは隔世の感があったのも事実です。やや大胆に、また至極二元的に言ってしまえば、衝撃を和らげ、疲労を軽減するのが主たる役割であったかつてのサスペンションは、ネガティブな要素の克服を課題とするという意味においては、守りのアイテムであったのが、今日においては、その克服をもはや前提とし、ポジティブな要素――より速くより正確に走る――の実現を命題に据えているという意味において、攻めのアイテムへと劇的な進化を遂げつつあるように感じました。
価格評価→★★★☆☆(この値段になると、自分の経済観念では、どんなにいいものでも安いとは言えなくなる)
評 価→★★★★★(ファンタスティック!ステッカーとコンプレッションが残念だけど、減点は控えたい気分。甘い?)
年 式→2010
カタログ重量→1651g