購入価格 ¥350000くらい
◆購入動機
私は、一般的なスポーツバイクユーザーと比べると、以前からいわゆる電動アシスト自転車に対しての拒否反応や抵抗感はない方でした。
にも関わらず、今まで所有した事がなかったのは、軽量で走行性能が高いスポーツバイクであれば軽いギアの装着と登坂のペース配分等で、急坂や長い登りも殆どクリア可能だと感じているのと、既存の電動アシスト自転車はどれも単に自転車にパワーユニットを載せただけのようなチグハグ感があったからです。(試乗による個人的感想)
個人的には、スポーツバイクは人力のみで走行する事が醍醐味であり魅力だと思っているので、ここ数年、既存の大手スポーツバイクメーカーからE-Bikeが次々に登場しても静観を続けていました。
しかし、乗る事自体が目的ではない日常生活で、重い荷物を積んだ状態での登坂や強い向かい風に遭遇すると、時々「E-Bikeだと助かるな…」という思いが…
趣味での走行なら楽しい急坂登坂も、日常走行だと時々負担に感じるもので、少し前から「スポーツバイクに近い基本走行性能と普段使いできる実用性・積載性を兼ね備えて、ある程度小さくなるE-Bikeはないかな…」と考えていました。
そんな時、以前から存在だけは知っていた折り畳みE-Bike、ターンのヴェクトロンについて改めて調べてみると、オプションの専用キャリア、フェンダー、チェーンガードを装着する事で、実用車として使えそうな事が判明。
そんなわけで、コロナで入荷が不安定なこのご時世、買えるうちに買っておこうという気持ちも後押しし、我が家にやってくる事になりました。
◆製品概要
ターンとボッシュ社の共同開発モデルで、ボッシュのE-Bike用ドライブユニットが搭載されています。
ボッシュのドライブユニットは、主にスポーツ走行性能を重視した上位モデルの【パフォーマンスラインCX】と、日常使いからロングライドまで様々な用途で使えるスタンダードモデルの【アクティブラインプラス】の2種類があり、ヴェクトロンに搭載されているのは、後者のアクティブラインプラスです。
上位モデルのパフォーマンスラインCXの方が最大トルクが大きく、より高いケイデンスにも対応し、ユニット自体も少し軽量なのですが、静粛性はアクティブラインプラスの方が優れているようです。
車体価格は少々高いものの、マグラの油圧ディスクブレーキや、走行用バッテリーで点灯するヘルマンズのライト(フロント&リア)、エルゴンのグリップ、三ヶ島のペダル等、充実したパーツ類が標準装備されており、車体購入後の追加出費は抑えられます。
コンポは4700系ティアグラで、スプロケは11-32T、フロントは52Tのシングルです。
私は趣味兼実用車として使うので、前述のようにオプションで専用のリアキャリア、フェンダー、チェーンガードを装着してもらいましたが、2022年モデルから、これらのアクセサリーは標準装備になったそうです。
◆使用感
【アシスト関連】
当然かもしれませんが、登坂性能に何の不満もありません!
日頃、スポーツバイクでロングライドやヒルクライムをする自転車乗りで、通常と同じように走行状況に合わせた変速操作ををしていれば、どんな激坂が来てもストレスを感じる事はまずないです。
過酷な激坂でダンシングする必要もなければ、心拍数が爆上がりになる事もありません。
ちなみに、太く重いタイヤ(シュワルベのビッグアップル 20×2.15)を履いているせいか平地の高速域での速度の伸びはなく、時速30km以上をずっと維持し続けるのはちょっと厳しいです。
ロードバイク系やクロスバイク系のE-Bikeのような「時速24kmに達してアシストがゼロになった後もさらにスピードが伸びる!」みたいな感じはありません。平地での巡航速度は時速23〜27kmくらいでしょうか。
搭載されているボッシュのアクティブラインプラスは最大トルクが50Nmで、現在のE-Bike用ユニットの中ではごく普通の値なのですが、過酷な状況下でもパワー不足は全く感じません。パワフルそのものです。
走行モードは、
◆オフ(サイコン機能とライトのみが機能し、普通の自転車として走行するモード)
◆エコ(アシストしつつ消費電力を極力抑えて航続距離を伸ばすモード)
◆ツアー(長距離走行向けのモード)
◆スポーツ(スポーツ走行向けのモード)
◆ターボ(急坂や重い荷物運搬時向けのモード)
の5モードがあります。
正直、普段の走行時に使うのは、ほぼエコモードとツアーモードだけで、スポーツモードやターボモードを使う機会はかなり少ないです。
個人的には10%弱の勾配が少し続く程度であればエコモードでも十分で、10%を超える坂や、峠越えになるとツアーモードにしようかなといった感じです。
スポーツモードは15%以上の急坂用、ターボモードは20%以上の激坂用という感じで、特にターボモードはパワフルすぎて常用する必要性は全く感じません。
試しに、ロードバイクで走りに行く山(標高差約400m、距離約6km、平均斜度約7%)をヴェクトロンで走ってみました。(ツアーモードを使用、軽く心拍数が上がる程度でペースは上げない状態)
結果、ロードで走った時(追い込まず普通のペースで走った状態)と比べて大体8分程度早いタイムでした。
斜度の変化に合わせてこまめに変速していれば、時速16〜18km位をずっと楽に維持し続けられる感覚で、この程度のコースであればスポーツモードやターボモードの出番はなく、ツアーモードで十分に走れます。
スポーツバイクに乗り慣れている方であれば、E-Bikeでも状況に合わせた適切なシフト操作やライディングフォームを使うので、非常に効率良く走れると思います。
ただ、無頓着に「シフト操作せず重いギアに入れっぱなし」「いい加減なペダリング」「いい加減なポジションセッティング」でも、アシスト任せである程度は走れてしまうので、スポーツバイク初心者がこういったE-Bikeから自転車に乗り始めると、基本的なライディングスキルが身に付きにくくなり、ポジションセッティングの大切さも理解しにくくなってしまう気がします。
話が少し脱線したので元に戻しましょう。
ボッシュのサイトを見ると、ドライブユニットはペダルへの入力を1秒間に1000回も検出してアシスト制御しているそうです。
そのおかげかアシスト感はかなり自然で、特にエコモードは良い意味でE-Bikeである事をあまり意識させません。
かと言って決してアシスト力が弱いわけではなく、エコモードとは言えそこそこパワフルです。
ツアーモードはアシスト感の強さと自然な走行感のバランスがちょうど良い感じですが、スポーツモードやターボモードになるとさすがにパワフルすぎて、発進時に後ろからグンと押し出されるような不自然さがあります。
ただ、一旦走り出してしまえば違和感はなく、ペースの上げ下げやシフトチェンジをしても自然な走行感を保ち続けてくれます。
どのモードでも、低速域で強めにアシストがかかっている状態で急に脚を止めた時に若干のギクシャク感はあるものの、電動アシスト特有の【自分の意志と実際のバイクの挙動がズレる不快感】はかなり抑えられており、ボッシュ製ドライブユニットの制御の緻密さが感じられます。
対応の最高ケイデンスは105rpmなので、スポーツバイクと同じように回転型のペダリングで走っても違和感ありません。
全体的に洗練された走行感は、さすがE-Bike用ドライブユニットと言ったところでしょうか。
ちなみに作動音は「クゥーン」といった感じの若干甲高い音で、かなり静かです。
カタログ上の航続距離はエコモードで約100kmという事ですが、平坦路メインでアップダウン少々というコースであればもっと走れる感覚です。
頻繁なストップ&ゴーとそこそこの登りを織り交ぜたコースだと80〜90kmくらいかな…
長い距離をひたすら登り続けるような峠でツアーモードを多用すると、さすがにバッテリーは結構なハイペースで減っていきますが、その後の下りではほぼバッテリーを消費しないので、トータルでの航続距離はかなり伸びます。
前後ライトを点灯させても、体感ではバッテリーが早く減る感覚は殆どありません。
フル充電までの時間が短く(空の状態から約2.5時間)便利ですし、もっと航続距離を伸ばしたい場合はオプションで大容量の純正オプションバッテリーも用意されています。
アシストオフ時の走行性能もしっかりしています。
クランクを逆回転させると非常に抵抗が大きいので走りが重そうに感じますが、ペダルを前へ回した時の抵抗感はかなり小さく、ごく普通に走れます。
さすがにアシストオフ状態で坂に突入すると車重の重さを感じ、取り回しも鈍いものの、ドライブユニットやバッテリー等の重量物が比較的低い位置にあるおかげか、全体的には違和感の少ない走行感です。
オフの状態でもある程度の走行性能が確保されているので、出先でバッテリー残量が減ってきてもあまり気になりません。あえて平坦路でアシストをオフにしておき、坂や向かい風の時だけアシストをオンにする運用も現実的だと思います。
ちなみに、電池残量が空になりアシストが切れてしまっても、保安部品の前後ライトはしばらく点灯を続けるように設計されているそうです。
【自転車としての性能】
非常に落ち着きのあるハンドリングと走行感です。
ジオメトリーのせいなのか、それとも単純に車体の重さとタイヤの太さのせいなのか、26インチのMTBに乗っているかのような重厚感・安定感があり、20インチの折り畳み自転車である事を忘れる乗り味です。
フレーム剛性の高さや踏み出しの軽さ、マグラ製の油圧ディスクブレーキやその制動力に負けない高剛性のフロントフォーク等、そこかしこにスポーツバイクとしての出自を感じます。
小径+極太タイヤのおかげでキャリアに重い荷物を積んでも低重心で安定した走行が可能で、重量級の車重に耐えるガッチリとした作りのサイドスタンドも標準装着されており、実用車としての使い勝手にも優れています。
ホイールのスポーク数も32Hと多く、安心感があります。
【折り畳み性能】
一般的なターンの自転車と同じN字形に畳む構造です。
操作手順自体は簡単なのですが、ドライブユニット&バッテリーが搭載されている車体後部が重いので、やや畳みにくいと感じます。(一応畳んだ状態で一方向に転がす事も可能)
畳んだ時のサイズはかなり大きいですし、無駄な出っ張りも多く、超重量級の車体も相まって、これを日常的に輪行するかと問われるとかなり厳しいと言わざるを得ません…
(↑私はペダルを交換しているので張り出しがさらに大きくなっています)
メカトラで緊急避難的に輪行する時や、室内保管・マンション内の移動時に折り畳むものだと思っておく方が良いでしょう。
ちなみにオプションのキャリア装着時は横置きだけでなく縦置きも可能です。
可搬性に優れた、ブロンプトンやその他の小型軽量な折り畳み自転車とは違い、「高性能なE-Bikeなのに折り畳める」という事自体に価値があるわけで、残念ながら、折り畳み時の可搬性や輪行しやすさを評価できるようなレベルには達していません。
◆気になるところ
アシストユニットの高出力を受け止める専用設計のフレームは全体の剛性が高く、しなやかさやガタつき感のない、非常にガッチリとした作りです。
ハンドルやステム周りも硬めで、路面からの振動・衝撃吸収の役割は全てタイヤ任せのような印象を受けます。
太くてエアボリュームのあるタイヤの恩恵で乗り心地は良いものの、ハンドル周りにもう少ししなりがあった方が気持ち良く走れる気もします。
◆まとめ
正直なところ、スポーツバイクとしての楽しさがあるかと問われれば、個人的には楽しくはないです。
シフトや走行モードを適切に選べば、長い登坂でも激坂でも難なく登ってしまうので、ロードバイクで登ると楽しい山へ出かけても何の達成感も充実感もありません。
シッティングとダンシングを使い分ける必要もなく、単純に座ったままスルスルと坂を登っていくのは、どこか寂しいものがあります。
緻密なアシスト制御がされているとは言え、自転車と乗り手が一体となる感覚は希薄ですし、操る楽しさを感じられる自転車ではないかな…
しかし、自転車の本質的な楽しさ・自由さこそないものの、道具としては非常に有用で、自転車の可能性を大きく広げてくれる1台ではあります。
アシストが切れた後(時速24km以上)での速度の伸びがイマイチ鈍いのは一見欠点にも感じられますが、見方を変えると、巡航時に少しでも勾配や向かい風の場面になるとすぐにアシストが効いてくれるわけで、これはこれで結構快適です。
そもそも平地でロードと同じペースで走るような自転車ではありませんし、荷物を積んで走るにはちょうど良い巡航性能とも言えます。
【山越えの走行が億劫にならず、荷物をたくさん積めて大荷物でも楽に走れ、アシストオフの状態でもそれなりに走れ、E-Bikeなのにいざという時には折り畳んで収納や輪行ができる】
これらの条件を満たしているのは地味にすごい事でしょう。
長距離走行も普通にこなせますし、週末に荷物満載で山へ出かけるような趣味の道具としても、急坂が多い住環境での実用車としても、全方位型の活躍ができる優れたE-Bikeだと思います。
価格評価→★★☆☆☆(折り畳み機能に価値を感じない方にとってはかなり割高か…)
評 価→★★★★★(様々な使い方や生活環境に対応できる汎用性の高さが魅力)
<オプション>
年 式→2021
カタログ重量→オプションなし19.8kg(実測重量?kg)