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Campagnoloに続いてSHIMANO、SRAMも11速化を果たしています。
完組みホイールが存在せず、したがって手組みホイールなどという言葉がそもそも存在しなかった頃からからホイールを組んできた方などは、
「11速になってシマノのリアホイールもいよいよ組みにくくなってきた・・・」
と感じておられるのではないでしょうか。
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まず、結論をまとめておきます。
1… スポークテンションを上げてもホイール剛性は変化しない
2… 例えばデュラを例に挙げると、手組みハブによるリアホイールの手組み難度はモデルが新しいほどUPしている
3… 例えばデュラを例に挙げると、手組みハブによるリアホイール横剛性はモデルが新しいほど低下している
4…小径ホイールを700Cホイールと同じように組むと、非常に硬いホイールが出来上がる
以下、本編。
(長文かつ読みにくい文章につきご容赦ください)
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・・・・・・リアホイールの組みにくさの原因・・・・・・
フロントホイールよりもリアホイールのほうが組みにくい・・・この原因はもちろん、OLD (オーバーロックナット) の中心と、左右ハブフランジの中心がオフセットしていることによります。
上の図で、δはOLDの中心から左右ハブフランジの中心までの、いわばオフセット量で、これをシマノは「おちょこ量」と定義しています。ハブのこの辺りのジオメトリ情報としてシマノは、おちょこ量とハブフランジ間隔2αで定義しています。ハブフランジからOLDの中心線までの距離を、左右でそれぞれdL、dRとしておきますと、おちょこ量δとdLとdRの関係を使って、図中の式のようにdLとdRの数値を算出することができます。
シマノは、おちょこ量とハブフランジ間隔2αという2つの数値で定義していますが無論、dLとdRという2つの数値で定義しても良いわけです。どちらでも同じことなのですが、どちらがあなたの好みでしょうか? 私は後者です。dLとdRの比率に着目したいからです。単にdLとdRを示してくれた方が分かりやすいし、親切だと思います。
「フランジ間隔2αは従来からあまり減っていませんよ」
を、シマノとしては強調したいのでしょうか。そうする理由があるのでしょうか。まあ、確かに78デュラ以降のdL+dRは56.9mmで変化なし、ではあります。
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・・・・・・おちょこ量δとdL、dRの変遷・・・・・・
おちょこ量δとdL、dRは次の図のような数値変遷を辿っています。どうも最近、シマノさんのWEBサイトでハブの数値を簡単に閲覧することができなくなっており(えっ、昔からそうでした?)、シマノさんに問い合わせて確認してみました。
上4行がアルテグラ系列、下5行がDURA系列です。ただしこのなかでOLD126mm時代の7速用FH 7401は、対応して下さったシマノの方がすぐには分からないとのことだったので、自分が昔どこかで記録していた数値を記しています。これが直接シマノから得た情報かどうか、自分でも記憶がない(笑)ので、FH 7401のみは参考と言うことで。
ごらんのとおりで、多段化の進展とともに、dL/dRすなわち、ハブセンターから左フランジまでの距離dLと同じく右フランジまでの距離dRの比の値がじわじわと大きくなっています。同じく、dL+dRすなわちフランジ幅も74から78までで3.1mmも狭くなり、その後、一定値を維持しています。
これがどういう意味を持つか...?
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・・・・・・簡単な思考実験・・・・・・
ごく素朴な思考実験を試みます。
素朴にして独断と偏見で構築された思考実験ですので、以下の結果をあてにするもしないも、アナタ次第。あくまでもご参考まで。人の話や雑誌の話、メーカー開発者の話を鵜呑みにするのではなく、自分で自分の考えを構築することが肝心です。
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・・・・・・スポークテンションのつり合い・・・・・・
リアホイールを考えてみます。次の図。4本のスポークが同一平面上でハブとリム上下を結んでいます。そんなホイールなどあるわけないのですが(リムじゃなくて棒じゃねえか!)、これは思考実験です。大丈夫。
何もしなければ、リムはOLD(オーバーロックナット)の中心線上に静止しています。これは、リムの上下にかかる力が対称になり上下方向でつり合うことと、左右のスポークからリムに加わる張力FLとFRの水平方向成分が等しく、つり合うからです。
この赤矢印のFLとFRは、それらの矢印をつなぎ合わせて、真下を向くみどりの矢印のひとつの力Fとして代表させることができます。下半分の力も全く同様で、真上を向くひとつの力として表すと、これは真下を向く力と反対向きで同じ大きさとなっています。つり合っています。
FRがFLよりも大きいことは感覚的にすぐに理解されますが、この比率は、実は次のような単純な関係になっています。
≪例えばdL : dRが2 : 1であれば、 FR : FLも2 : 1となる≫
つまり、
したがって、dLとdRがアンバランスであればある程、フリー側のスポークテンションFRと反フリー側のFLがアンバランスとなり、組みにくくなります。65アルテグラは1.749:1、9000デュラは2.043:1 です。9000デュラ、これだけ見ても、手組み派には冬の時代が到来、です。
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・・・・・・リムサイドに力を加える・・・・・・
次の図のような力を上下のリムサイドに、グイッ、と加えることを考えます。
ハブ軸が左右から頑丈に固定されています。この状態でリム上端に右向き、下端に左向きの同じ大きさの力を加えると、ホイールの横剛性の高低に応じて図のようにリムが傾きます。 ここで、
傾き角度をθとします
ハブ軸とリムの交差点は移動しないものとします(実は多少、移動しますが微小なので無視!)
力を加える前から存在している1000Nなどといった大きさのスポークテンションは、力を加えたことにより、伸びる側のスポークでは増加し、縮む側のスポークでは減少しますが、この増減のみに着目します
今、「増減のみに着目する」と言いましたが、「増減のみに着目するだけでよい」と言い換えてもよいでしょう。
さて、傾く前の状態をまず、考えます。この場合、SLとdLとRで構成される左側の直角三角形、SRとdRとRで構成される右側の直角三角形は、式(2),(3)のような関係となっています。(ピタゴラスの定理でしたっけ?)
次に角度θだけリムが傾いた場合の左側の三角形は、SL1とdLとRを使って、また、右側の三角形は、SR1とdRとRを使って式(4),(5)のように表されます。(余弦定理だったかな?の変形)
で、最初の状態のリム長さSLと、リムがθだけ傾くことで伸びた結果としてのSL1との差分がスポークの伸び量⊿SL1ですが、ここでSL1とSLの2乗の差は式(6)を経て式(8)となります。
この式(8)で、SL1+SLを2SLと近似することで式(9)を得ます。
したがって伸び量⊿SL1の近似式として式(10)を得ます。
同様に右側のスポークの伸び量⊿SR1の近似式として式(11)を得ることができます。
次に、スポークの単位長さあたりのばね定数をkとすると、長さSLのスポークのばね定数はk/SLとなりますが、このとき左右のスポークのテンションの増加分⊿FL1は、ばね定数と伸び量の積で与えられ、次の式(12)、同様に⊿FR1は式(13)のように書くことができます。
ここで、⊿FL1は正数でリムへの引っ張り力、⊿FR1は負の数となるので、リムへの押し出し力となります。手組のスポークは引っ張りで使っているのに『 押し出し力 』などと書くとかなり奇妙ですが、これは、背後にデフォルトとしてスポークテンションFRという荷重の状態から縮んでテンションが緩んだため、その差分に着目すれば、リムを押しているのと同じ、という意味であり、このとき同時にFRが減るという状況を、『 押し出し力が加わった 』、と表現しているにすぎません。元々の釣り合い状態からの変化に着目している、というわけです。
次の図で示した⊿FL1の水平方向成分⊿FL1hはθが小さいので近似して式(14)、⊿FR1の水平方向成分⊿FR1hは式(15)で与えられます。この⊿FL1hと⊿FR1hの和が、最初に書いたリムサイドへの力Fの反作用となります。
リムの下半分⊿FL2hと⊿FR2hも同様で、式(16)(17)です。
じゃ、反対方向に力を加えてリム反対方向に歪ませたときの式はどうなるのか?・・・省略しますので是非どうぞ!
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・・・・・・結局なにがどうなんですか!・・・・・・
これまでの議論の中では、元々存在するスポークのテンションが現れないことに注目して下さい。
これが何かというと、
!!! ホイールの横剛性とスポークテンションの大小は、関係ない !!!
ということを示しています。
「増し締めしてテンション上げたんで、剛性が上がって力がダイレクトに伝わってギヤ1枚分は軽くなったぜぃ!!」
みたいなことはないこともないような気がするのですが、どうやらこれはプラシーボ効果、ということのようです。というわけで、
「スポークを強く張ったところで、同じホイールなら・・・剛性はみな同じだっ」(柳葉敏郎風で)
余談ですが、テンション増減分は、外の人からは見えず、外の人は、リムに加える2つの力Fしか知りようがありません。で、結局、固定治具には2FRというトルク(モーメント)が加わっていて、ホイールはその荷重に耐えています。
さて、リムサイドに横方向の力が加わるのはどんな時かといえば、例えば、ハンドルを引いて右足をグイッと踏み込んだ時です。ペダルに対して下方向に大きな力が加わりますが、ペダルのQファクタ分だけ車体中心からオフセットした力であるため、この下方への力とQファクタ量の積であるトルク(モーメント)が車体に加わります。このトルクに対するカウンタがどこかに発生して車体がつり合いを維持するのですが、これがどこかと言えば、タイヤの接地部分になるわけです。接地部のホイール端に横方向の力が与えられます。100kgf ( = 980N)という大きな力でペダルを踏み込んだ場合、車体中心面から踏力入力点までの距離を120mmと考えると、踏力によるモーメントは980×0.12 = 117.6Nm 一方、タイヤ接地点が返す反作用モーメントも同じ。ホイール中心からタイヤ接地点までの距離が335mmだとすると、タイヤ接地点に発生する横方向の力は前後輪合計で、117.6 / 0.335 = 351N (35.8kgf)となります。ちなみに、Qファクタが零であれば、タイヤ接地点に発生する横方向の力も零になります(笑)、が、大昔の日本のトラックレーサーにはその考えを反映してBB幅が極端に狭かったりしたものも存在したようです。
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・・・・・・Damon Rinard氏の実験結果・・・・・・
あるところにはあるんですねぇ。。。
米マサチューセッツの自転車店”Harris Cyclery”の故Sheldon Brown氏名義の素晴らしい技術サイトにDamon Rinard氏によるWheel Stiffness Test という、何ともそのまんまの名前のテスト結果が載っています。
このテストレポートから意訳引用すると、
【質問】:スポークテンションでホイール剛性を変化させることができますか?
【回答】:高テンションで組んだホイールの剛性が高いと信じている人もいますが、そうではありません。スポークがテンションを失わない限り(走行時にユルユルになる瞬間がない限り)、ホイールの剛性はスポークテンションで大きく変わることはありません。
みたいな感じになります。実験方法などの詳細はGoogって確認してみるとよろしいかと思いますが、大体、こんな感じの試験を行っています。次の図。
ハブ軸を上下から頑丈に固定し、リムサイドの一点に115Nの力を図の向きに加えて、リムのひずみ量を計測するというものです。ホイールの横剛性が高ければひずみ量は小さい値を示します。
同じテストレポートから実測結果を引用します。ただし、3クロス(6本組み)32穴で、高さ13.8mm、幅20.3mmのクラシックな形状のリムとDTの1.8-1.6mmのダブルバテッドスポーク、真鍮ニップルで組んだフロントホイールの結果です。ハブはカンパのC-Recordです。
図で横軸がニップルの緩め回転回数。縦軸はリムサイドの変位(mm)です。
Damon Rinard氏の他の実験を見てもわかりますが、氏の実験の用心深さ、用意周到さは相当なもののようです。この実験では念のために2回、実施しています。全てのニップルをぐるっと2回まわして緩めても(!)、ホイール剛性はほとんど同じ、という実にわかりやすい結果となっています。すばらしい実験ですね。
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さきほど、『⊿FL1hと⊿FR1hの和が、最初に書いたリムサイドへの力Fの反作用となります』と書きましたが、式(14)の⊿FL1hと式(15) ⊿FR1hの和を式(18)に示します。
式(18)は、単位長さあたりのばね定数kと傾きθとその他の部分の積で表されていますが、単位長さあたりのばね定数kが同じであれば、その他の項が大きいほど、力は大きくなります。つまり、式(18)から単位長さあたりのばね定数を除いた式(19)が大きいほど、横剛性の高いホイールである、ということができます。ホイールの下半分では式(19)と僅かに異なる式(21)を得ます。
というわけで、
≪式(19)、式(21)が大きいほど、横剛性の高いホイールである≫
ということが言えます。
そこでまず、リム上下に、ある力を加えて、角度θが1度だけ傾いた時の『横剛性係数』つまり式(19)(21)の値がどうなるか?具体的にハブフランジ間隔がdL+dR=56.9mmの場合について計算してみます。
dL+dR=56.9mmという数値は9000デュラのリアハブFH9000の値です。dL=38.2mm、dR=18.7mmなので、dL/dR=2.043という値となりますが、dL+dR=56.9mmを維持したまま、このdL/dRを試しに1から3まで変化させると、『横剛性係数』つまり式(19)(21)がどうなるのか?
次の図が計算結果です。なお、式中のRですが、本来はハブフランジの高さも考慮しなければなりませんが、省略したところで全体傾向への影響はたかが知れていますので、300mmとしておきます。確認したい内容と精度への影響に鑑みて、数式は大胆に簡易化するべきものです。(というか面倒だし・・・)
おっと、式(19)と式(20)で少し異なる値がでました。これは、ハブ軸を固定して上下を1度だけ傾かせるような力は、上下で少し違う、ということを意味しています。まあ、モデル化が簡易なので、この結果だからどうだ、と、具体的な解釈に立ち入るにはやめておきましょう。興味のある方は是非、ご自身で考えてみてください。
この結果。
フランジ幅dL+dRが同一であれば、dL/dRが大きいほど、横剛性が増すという結果になっています。しかし、dL/dRが大きいということは、式(1)でも述べたように、スポークテンションのアンバランスが増大するということを意味します。ホイールを手組みする場合、後者の方がよほど気になるでしょう。
面倒なので今後は、
≪『横剛性係数』の式としては式(19)と(21)の平均値を採用する≫
ことにしましょう。上図右の黒線です。この式にはスポークの単位長さあたりのばね定数を反映していませんので、したがって
≪同じスポークを使う場合に、スポークにかかわる剛性がdLとdRでどうなるか?≫
を示していることに注意してください。
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・・・・・・シマノのハブジオメトリ今昔の話・・・・・・
というわけで本題に戻ります。シマノのリアハブのジオメトリの変遷にともなって、『横剛性係数』とでも呼ぶべき式(19)と(21)の平均値が、一体どんな変遷を辿ったのでしょうか。つまり、ハブジオメトリの変遷に伴って、同じ組み方をしたリアホイールの横剛性は、どういう変遷を辿って9000系デュラに到達したのでしょうか。先ほどの表のdL/dRとdL+dRと、式(19)(21)の関係を調査してみます。
これは、FH7401、FH7700、FH9000それぞれのリアハブの『横剛性係数』です。それぞれのハブで、フランジ幅dL+dRはそれぞれ一定で、60mm、58mm、56.9mmです。図中の○印が、実際のdLとdRを採用した時のそれぞれの結果です。74から77にモデルチェンジしたことで、横剛性係数が一段、低下しています。さらに、9000デュラに至って、dL/dRが右にシフトし、手組み難度がキュッと上がっています。
dL/dR が1、すなわちグラフで一番左側はdLとdRが等しく、いわばフロントハブと同じようなもので、手組は容易です。dL/dRが2を超えてしまうと、レギュラーな手組みではフリー側のテンションがいよいよ上がりすぎの様相を呈してきます。ちょっとやりにくいですね。
・・・ならば、フリー側16本の交差組、反フリー側8本のラジアル組といった現代的な組み方をすればよいのではないか?さらにスポーク穴をオフセットさせたリムを使えばよいではないか?
確かにそれらは解ではあります。前者の解では、2:1で組めば、dL/dRが2の場合、スポークテンションがフリー側と反フリー側でほぼ同等になって、なんだかいい気分ではあります。32Hハブと32Hリムで出来ます。ここは是非、スポーク穴の向きに配慮がなされた専用の24Hリムを使いたいところですが、リムの選択肢に問題があります。また、単純に反フリー側が8本では、そもそもスポークテンションが関係しない『横剛性係数』がガタ落ちですので、これを救済するならば、2:1の1の側に太いスポークを採用することになります。『横剛性係数』の低下を気にしないのならば、その必要はありませんが。
さて、完組みホイールをラインアップするシマノなど、メーカーの開発担当者は、こういったことは当然知っているはずです。ですから、シマノの近年の完組みホイールの特徴解説を見ると、「ハブフランジを拡げて横剛性を確保しています・・・」風な文言が出てきます。また、交差組みするフリー側のフランジ径を大きくして、駆動時のスポークのテンションの増減振幅が過度にならないように配慮していることは、カタログ写真を一目見ただけですぐに分かります。
ところで、2:1組みやハブフランジ拡大によって、
「パワー伝達効率がさらに大きく向上」
とシマノはカタログなどで謳っています。本題からそれますが、こういった謳い文句は数値の記載が無いので、ほとんど意味を為していないと言ってよいでしょう。96%が96.5%に「大幅向上」したのか、それとも86%が96.5%に「大幅向上」したのか、何も解りません。≪カタログにおけるダメな表記≫の代表例です。同様に、≪雑誌インプレにおけるダメな表記≫もありますよね。
おっと二重脱線から復帰します。
2:1組み、ハブフランジ幅拡大、駆動側フランジ径拡大、専用スポークの設定、専用リムの設定など、ホイール全体で最適化を存分にはかることができる完組みホイールのアドバンテージは、今に至っていよいよ決定的なものになってきたようです。だからと言って、手組みホイールの存在意義がなくなったわけでは全然ありませんが。
例えばラージフランジハブなどは、強度、スポークへの負担軽減など、有利な面があります。フランジのPCDを10%だけ大きくすると、ライダーが発生した駆動トルクによって生じる交差組スポークのテンション増大・減少の振幅がおよそ10%だけ減少します。(この理由は簡単ですので省略)すなわち、スポークへの負担が減り、ニップルが緩みにくいホイールになります。ところが、ハブ単体の商品ラインアップとしては現在、選択肢はあまりないようです。この点を考えても、メーカーが手組み派を蔑ろにしているのがよくわかります。
というか、面倒なのですべて完組みにしたいのかも知れませんね。メーカーにしてみれば今時、手組み用のハブなど、商売にならないのはわからないでもないのですが。デュラエースのWレバーみたいなものでしょうか。
さて、次の図は、前の図に新たな線を2本、追加したものです。上側に位置する線から順番に、
1番上:デュラ9000リアハブと20インチ(451mm)リムの組み合わせ
2番目:デュラ7700フロントハブと700Cリムの組み合わせ
3番目:デュラ7401リアハブと700Cリムの組み合わせ
4番目:デュラ7700リアハブと700Cリムの組み合わせ
5番目:デュラ79000リアハブと700Cリムの組み合わせ
の場合の『横剛性係数』です。
まず、2番目の線。デュラ7700ハブによる700Cフロントホイールの『横剛性係数』ですが、リアより遥かに高いことがわかります。白抜き○印の数値でデュラ7700リア700Cホイールの1.65倍となります。フロントホイールの剛性は、旋回スタビリティに直結しますので、とても重要です。したがって、これは良い話かな、と私などは勝手に妄想しています。
次に1番目の線。デュラ9000リアハブで組んだ20インチ(451mm)ホイールの『横剛性係数』は、デュラ9000リアハブで組んだ700Cホイールのおよそ2.2倍にもなります。
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・・・・・・小径ホイールは硬い・・・・・・
前述の如く、小径ホイールの『横剛性係数』は、同じスポーク、同じ本数で同じように組んでしまうと、かなり大きな値になります。さらに、リム側の話としては、同じリム断面の場合、
≪20インチ451mmリムは700Cと比較して垂直荷重剛性で凡そ2倍≫
になります(理由は省略します)。そんなわけで、実は小径車のホイールというのは、何も考えずに組むと、猛烈に高剛性になるわけで、ロードと同じようにフレームをオーダーしてロードっぽい走りができるような小径車を作ると、足回りがえらく頑丈に感じられたりします。
ホイールベースの小さい小径車用ハンドメイドフレームをカイセイ022で作り、例えば36Hとか32Hで普通に組んで1インチクリンチャタイヤなどを履かせてしまうと、それこそ荒れた路面で大暴れするような自転車になってしまいます。したがって#15スポークで28Hとか24Hで組むのが実は、乗りやすい小径車を作る上では望ましい、と私は考えています。フレームは軽量なカイセイ019などを選択し、ついでに、フレームジオメトリではリヤセンターは長め、というかロードバイクと同等程度以上の長さが適切だと思います。
しかし、
「高剛性のホイールが小径車のいいところであり、切れのある、タフなステアリング・フィールを是非、楽しんでほしいんですよ」
とは、CHERUBIM創業者である故・今野仁さんがおっしゃられていたことでした。特徴を理解したうえで積極的に使うという手もあるんですね。
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ところで、以上はシマノのハブに限って話を進めてきましたが、もしかしたら、シマノの11速ハブは、他社の11速ハブよりも手組みしやすいのかも知れません。いや、多分そうでしょう。他社ハブの数値を式(19)(21)に代入して確認するのも面白いかも知れません。
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結論(reprise)
1… スポークテンションを上げてもホイール剛性は変化しない
2… 例えばデュラを例に挙げると、手組みハブによるリアホイールの手組み難度はモデルが新しいほどUPしている
3… 例えばデュラを例に挙げると、手組みハブによるリアホイール横剛性はモデルが新しいほど低下している
4…小径ホイールを700Cホイールと同じように組むと、非常に硬いホイールが出来上がる
価格評価→★★★★★(ご参考になればさいわいです)
評 価→★★★★☆(CBNがなかったらこんなまとめは決してやらなかったですハイ)
追記 : ここまで読んで下さった方、どうもありがとうございました