購入価格:€150 (@ Bike24、送料€19.5別途)
8年前Speedplay Zeroへ完全スイッチして以来ずっとご無沙汰だったLook KeO。最近組んだクロモリロードに片面固定のカンパRecordを使ってみたところ案外具合が良くて、久々にLookにも戻ってみるかあなってなわけで導入してみました。初めてのビンディングペダルはKeO Carbonだったので、里帰りみたいなものでしょうか。KeO Blade 2があちこちで投売りされていて安かったからというのもあります。処分価格はどうやら全世界的な動きらしいので、ひょっとするとモデルチェンジが迫っているのかもしれません。
さてご無沙汰していた8年の間、MaxだBladeだBlade 2だ2Max Bladeだ(本当紛らわしいので名前はちゃんと考えてほしいw)とほぼ2年1度に近いペースでモデルチェンジしてきたようですが、Bladeを発売して以降は金属製の弦巻スプリングを廃してカーボンコンポジットのリーフスプリングを採用する方向へ舵を切っていたようです。
実物を手にすると、スプリングが変わった他基本メカニズムは概ねそのまんま、クリートも全く同じものが継続採用されているのでちょっと安心したような、肩透かしをくらったような気分。
そんな中でも重要な変更点をいくつか挙げてみると…
・アクスルのクランク側をラジアルカートリッジベアリングで支え、軸先側はローラーベアリングで支える内部構造はほぼそのままですが、ベアリングの数や大きさが若干変わっている模様。ベアリングがイカレたらアクスルごとアッセンブリー交換、というメーカー側のスタンスは相変わらず(道具があればベアリングだけ打ち換えられますが)。
・以前はアクスルのクランク側にプリロード調整用ナットが嵌められていましたがこれを廃止、かわりに軸先側(キャップの下)をボルト留めする方式へと改められました。旧方式はプリロードナットを締め込み過ぎると簡単にカーボンボディが割れてしまう程デリケートでしたし、アクスル根本部分のパーツが減ればスタックも下げられるのでこれは合理的な変更じゃないかと思います。
・前項と重なりますが若干スタックが下がっている模様。LOOKはそもそも低い方ではないですが、Speedplayを始め市場的には低いものが歓迎されている気運はありますから、取り残されたくなかったのでしょうか。
・アクスルとボディの間に、以前はなかったウェーブワッシャーがかませてあります。プリロード調整の確実性とシール性能向上がその意図だろうと思いますが、このワッシャーとシールが原因で無負荷時の回転ドラッグがかなり増えています。パフォーマンスの事はともかくこれがとある問題を起こしているので、後で詳述します。
…ざっくり印象をまとめてしまうと踏み心地がよりワイド&ロースタックになって素のKeO Carbon世代からは足首や膝の安定感が劇的に向上しているのを感じました。リーフスプリングを用いた固定の使い心地は若干クセがあり、部品の精度や構造にもいくつかツッコミどころがありますが、クリートまで含めて考えれば今でも回転マスは最小クラス(ペダル単体189g、クリートペア65g、ともに実測)であり、クリートなどのパーツ入手性も優秀で(ペダル自体が壊れない限り)ランニングコストがバカ高くならないから維持が比較的楽、という美点を持ちあわせているように思います。逆にステップインのしやすさが低下していて、リーフスプリングの固定方式に問題を抱えている為こまめにチェックしないと出先で非常に困ったことになる場合がある、というのも指摘しておかなければならないでしょう。
以下ではこのペダルならではのメリット・デメリットについて、私なりの考えを展開してみようと思います。参考までに、これまで使ってきたペダルの中からSpeedplay ZeroとLOOK KeO HM Carbonを比較対象に引いています。
+メリット
広い踏面と足首の安定感、これに尽きます。Speedplayは足裏の一番重心をかけやすいポイント(通常拇指球あたり)とペダルアクスルの中心がきちっと重なるようセッティングしないと回し難く、スイートスポットがかなり狭い印象でした。イメージでは直径2.5cm位の円に重心を乗せて爪先立ちする感じ。セッティングが決まってしまえばペダルアクスルを直接足裏で回しているようなダイレクト感が味わえますが、その範囲から外れてしまうととたんに膝や足首が不安定になってしまいます。一方Look KeOはSpeedplayよりこのスイートスポットの範囲が広い気がします。KeO HM Carbonはこのスイートスポットが縦長な印象でしたが、Blade 2はボディ踏面が横方向へ大きく張り出したことで3cmx4cm位の横長の長方形に重心を乗せ足裏の幅ほぼ一杯を使って踏む感覚に変わっています。昔DHやBMX系で流行ったデカペダルに近い安定感ですね…特に足首周りの安定感は抜群で、トルクをかけて力いっぱい踏み込む動作がしやすい。回転マスの小ささもトップクラスで、付属のスチールハードウェアを使ってもペダル+クリートのシステム重量はたったの254g。KeO HM Carbon Tiはペダルのみで205gでしたから、確実に軽くなっています。社外のチタンスピンドルとノーマルクリートを組み合わせたSpeedplay Zeroは138+112=250g、ほとんど変わりません。クランクを回していて、ペダルのせいで回転がもたつく様な印象は皆無です。
さらに、クリートのステップイン・アウトの際のスナップ感が強く、エンゲージ/リリースともに明快である点も挙げられます。金属バネ時代のLOOKもこの感触がはっきりしているペダルでしたが、Blade 2ではさらに強調されるようになりました。その理由は、金属バネ特有の粘る感じがなくなって圧縮から反発へ移行するスピードがほぼ瞬間的になったことにあります。伝わり難いかもしれませんが言葉で表現すると、バチンと乾いた感触とでもいいましょうか。ぬるっとバネが延びる感触はなくスイッチのように固定と解放がほぼ瞬間的に切り替わる感じです。
最後にシンプルな構造ゆえに軽量、そして部品点数もそれほど多くないので維持にSpeedplay Zeroほどの手間とお金がかからない点を挙げておきます。クリートやペダルボディの磨耗耐久性も比較的高いと思います。クリート自体の価格はShimanoのSPD-SLと比べると価格差が目立ちますが、Zeroのクリート価格と比べればまだかわいいもんです…ペダルボディは砂利など噛んだままでステップインするような使い方を繰り返すとあっという間にダメになるでしょうが、丁寧に扱えば1年で死亡したりはしません。アクスル外側への張り出しが以前と比べるとかなり減ったのでリーンインでケージを地面に擦ってしまうことも減っていると思いますが、後端のふくらみは相変わらず大きいので落車時真っ先にヒットするとしたらこの後端のヒンジ周辺でしょうか。ヒンジ自体は交換できますが、固定ピン周辺が破損してしまうと致命的になりそう。
―デメリット
さて、ひるがえってデメリットの一発目。Lookのクリートは軋み音が出やすい、これは残念ながら昔から全く変わっていません。原因はクリートとペダル前後の保定ポイントの勘合にあります。ここにわずかな隙間があるためクリートが上下前後左右の全方向に僅かながら動いてしまい、結果どこかから擦れる音がでやすくなっています。これはクリートやペダルボディの磨耗が進むとより出やすくなりますが、両方新品でも見られる現象なので、もうこんなもんだよなと諦めるか、気休めに擦れそうな場所に予めドライ系のルブを塗って摩擦を下げておくか、少し変わったところだとプロチームなどはスカッフプレート(LOOKとエッチングされた金属プレート)にバーテープの端ぎれなどを貼り付けてペダルとクリートの密着を高めておくという方法も有効なようです。まだ試してませんがバーテープの端ぎれはきっとすぐ剥がれてしまうので、一回限りの対策でしょうかね。何度も脱着しなければならない公道上ではもっと密着の強いプレームプロテクションテープを切って重ねて貼るといったような感じの工夫で久性を上げないと、いまいち不便そうです。グリップクリートのど真ん中についているシリコンゴムキャップも、まあないよりマシ程度の効果なのでクリートだけ換えても効果はあまり望めません。
さらに、KeO Blade 2に換えてから不便だなと感じるのが多くなったことがあります。それはフリー状態でのペダルの向き。アクスルにウェーブワッシャーが入って無負荷時の回転が渋くなった、というのは既に述べましたが、このペダルは重量配分が極端に後寄りなのにも関わらずフリー状態で自動的にフックが11時あたりを指してはくれず、毎回向きがちぐはぐになります。裏返しで9~10時あたりに止まってみたり、6時を指してみたり。そんな時、回転が軽い片面ペダルならつま先で軽く蹴り上げてクリートキャッチできるんですが、このペダルはベアリングの回転が渋いのでなかなか狙った角度に一発ではきてくれません。まごまごしていると先端が4時辺りを指す中途半端な角度で止まったりして、余計に焦りが募る…フリー状態でのフック位置を安定させるだけでもっと使いやすくなるのに、というか昔はそうだっただろお前!と無意味な八つ当たりの一つも吐き出したくなってしまいます。慣れれば落ち着いてクリートキャッチできるようになりますが。
☆Bladeが吹っ飛ぶ珍現象、原因と対策は?
結構あちこちで耳にする、クリート保持を司るカーボンコンポジット製のリーフスプリング、いわゆるBladeが不意に外れてしまう現象。私も新品を下ろして500kmも走っていないタイミングで外れました。よくよく観察して探ってみると、どうも後ろ側のヒンジを留めるピンが緩んでガタが出ていたのが直接の原因だったようです。新品購入した直後に自分でブレードを入れ替えたのですが、その時の対策が甘かったのも間接的に絡んでいるようです。
*このピンです、反対側から小さなビスで固定する方式になっています。
Bladeを入れ替えた時トルクドライバーできちんと管理したし、まだ交換してから2月も経ってないのに、なぜ緩んだ??と不思議に思いましたが、落ち着いて考えてみればこの現象が起こるメカニズムが見えた気がしました。少し長いですが流れをまとめてみます。
1. Blade 2のBladeにテンションがかかるのはステップイン/アウトの時、それから引き足などでクリートがヒンジを引っ張り挙げるような動きをする時だけ。それ以外の時Bladeにはテンションがかかっていません。ということは、バネが常にヒンジに当たっていて一定以上のテンションがかかり続ける通常のペダルと比べると、Blade 2ではヒンジ固定ピンに負荷がかかっていないフリー状態の時間がずっと長くなります。ピンがフリーの状態で振動を受け続けるとどうなるか…ネジは振動を受け続けると緩む特性があるので、無対策のままだと勝手に緩んできます。
2. 頻繁にステップイン/アウトする左側ペダルのヒンジには脱着の際に横方向への入力も加わるわけで…Bladeはペダルボディの溝にスライドではめこんでヒンジで後端を支える(ここもやはり溝にはまるだけ)固定方法をとっているので、ヒンジにガタがでて隙間が出来てしまえばBladeが発するテンションを支えきれず、パチン!と溝から外れてしまう。
3. もうひとつ、工場出荷時のビスには緩み止めコンパウンドが塗られていましたが、交換用キットに入っていたビスには何も塗られていませんでした。LOOK公式YouTubeアカウントでのインストラクションビデオを見てもLoctite塗れという指示がなかったのでそのまま締めたのですが、222か242でも塗っておけば振動による緩みは防げていたと思います。
(構造や交換方法についてはビデオが公開されています)
VIDEO
多分これで間違いないんじゃないかと思います。
今思えば私のBladeが外れた時、つまり2の段階でですが兆候はありました。ステップインしようとした時、Bladeからクリートへ伝わる反発力に違和感(不自然に軽い、ニュルッとした感触)を感じたのです。その時即脇へ寄せてチェックしていれば良かったのですが、その時は何を考えていたのかそのまま無理にクリートをねじ込もうとしてBladeを吹っ飛ばしてしまったのでした…これは私にも非がありますが、ステップインの時に何かいつもと違う感じがしたら即停めてチェックされることをオススメします。
特に左側のヒンジを固定しているピンは、緩み止め対策とライド前のチェックが必要ですね。Blade交換をやったことがある場合はなおさらです。このビス、径がM2.6でとてもデリケートなので締結トルク管理がやっかいですが、弱~中強度Loctiteを塗って締付トルクは必ずしも指定値の2.5Nm到達にはこだわらず、頭を飛ばさない程度に留めておくのが正解な気がします。一度、使いまわしのビスを2.5Nmまで締め直そうとしてひでぶさせてしまいましたので、一度トルクがかかったビスの再利用も止めた方がいいでしょう。
これらに気を配っておけば、このトラブルは未然に防げる気がします。
なんだよ構造的にチャチなのが悪いんじゃねえかと非難されても仕方ない気はしますが、このはっきり言ってチャチな構造のおかげでとても軽いペダルに仕上がってもいるわけで…こまめなチェックと必要工具(T8とT10トルクス)の携行で排除できるリスクだと思うので、Blade 2ユーザーの皆さんは今すぐにT8とT10レンチをサドルバッグやツール缶に忍ばせておきましょう。これすらないと、出先で何か起こった時どうしようもなくなります。
それでもまだ不安で不安で仕方がない、という方は交換用Bladeキットを購入しておくとさらなるリスクヘッジが可能かと思います。
キットにはBladeの他にヒンジ、ピン、ピンを固定するビスが2セットずつ入っています(先に書いたように一本ビスをダメにしてしまったので写真には片側分しか写っていませんw)。さらにピンを押し出すためのピンドリフトとよばれるステンレス製のニードルのようなものも付属するので、これをまるごと携行しておけばペダルボディやアクスルに致命的な破損が生じない限りは出先でもばっちり応急処置ができるようになります。ピンとビスのみを単品で手に入れられたらいいのですが…いまのところその様子はありませんね。面倒でお金のかかる話ではありますがBladeを交換するつもりがなくてもBlade落ちが起きてしまった時に備え、交換キットを入手して常備しておいた方がいいのではと思います。
特殊な治具は不要、バイスも不要でわりと簡単にBlade交換できるのがBlade 2の売りでもありますが、手順の手軽さと難度は別、それなりに慎重さが求められます。特にビスの締め込みはデリケートで、既に述べたようにトルクドライバーを使っていてもやり方が悪ければあっさり、本当にあっさりオーバートルクして破損させてします。ケチって一度緩めたビスを再利用しようとしたのも悪いんですが、汎用ビスでは代用できないので扱いはくれぐれも丁寧に、慎重にしましょう。出先でこのトラブルが起こってしまった時の応急修理が気になりますが、精密なトルクドライバーを持ち出す奇特な人などまずいないでしょうから、応急の場合は無理に規定トルクまで締めようとせず、ヒンジとピンにガタが出ない程度の軽めの固定に留めて頻繁なステップイン/アウトは全力で避けつつ、帰宅後速やかに固定し直すのが最善かと思います。
最後に、特にメリットでもデメリットでもないと思いますが頭に入れておいたほうがいい、KeOならではの特徴があります。それはスレッド部分の長さ。
LOOKはQファクター調整のためにクランクアームとアクスルの間に挟むスペーサーを製造・販売していますが、その使用を前提としている為にアクスルのスレッドがクランクアームに対し他社ペダルよりも深く埋まる設計が与えられています。下の写真の通り、他社のペダルと比べるとたっぷり+3mmはあり薄めのカンパクランクでは目一杯ネジ込む感じ。
レンチフラットはないのでアーム内側から6mmヘックスで締めるのですが、このヘックス穴にケイデンスセンサーマグネット(TNIやWoodmanのやつ)を入れると、フレームのチェーンステイ造形やクランクのQファクター次第ではぶつかってしまう可能性が出てきますので注意しましょう。私はWoodmanのマグネットを愛用していますが、一番低い6mmを使ってもBMC SLR01にQファクターが狭く薄いカンパUTカーボンクランクの組み合わせだと本当にギリギリ、チェーンステイとのクリアランスは2mmあるかないかの際どさになってしまいます。SLRはBB86でやたらとワイドなフレームですが横へのしなりが少ないのが救いになってなんとか干渉せずに使えていますが、静止無負荷で大丈夫でもスプリントするとしなって当たってしまうということも考えられるので、プレスフィット系で幅の広いフレームを使う方は注意しておきましょう。
おわりにアクスルの分解メンテについて。
以前使っていたKeO Carbonもほぼ同じ設計でしたがベアリングがダメになる前にクリートを挟み込むヒンジが磨耗して寿命を迎えましたから、雨の中長時間走るとか完全に水没させるといったシビアコンディションでなければ特に分解グリスアップなどは考えなくても大丈夫だと思います。逆に、特に必要もないのに開けると戻す時に華奢なカーボンボディを割ってしまうリスクを抱え込むことになるので、不具合がなければ使いっぱなしでOKじゃないでしょうか。
価格評価→★★★★☆ 2万円切っていることが多いので、だいぶこなれた感があります。
評 価→★x3.5。ヒンジの固定方法、クリートの軋み、それからフリー時のペダルの向きを何とかして欲しい。それ以外不満はなし。
年 式→2016
カタログ重量→ ペダル単体90g x 2 (実測重量189g+クリート一式65g)